自由研究発表障害(児)者福祉4  清水 由香

ホームヘルパー養成講習を修了した精神障がい者の就業状況および講習の効果評価に関する調査研究
 

○ 大阪市立大学大学院  清水 由香 (会員番号3900)
キーワード: 《精神障がい者》 《就労支援》 《質問紙調査》

1.研 究 目 的

 精神障がい者の就労支援策施策は多様な制度やリハビリテーション機会があるが、 社会全体の経済不況の影響もあいまって、より効果的な支援策が求められる。さて、平成 13年度に大阪府が全国初の単独事業で精神障がい者を対象に「ピア・ヘルパー等養成講座」 を開催した。修了者の就労率が8割(殿村ら 2003)と高く、その実績が評価、注目され、 各地で精神障がい者を対象にしたホームヘルパー(以下、ヘルパー)養成講座が開催された。 平成13年度以降、大阪府では厚生労働省の「障害者の態様に応じた多様な職業訓練」事業 により、財団法人 石神紀念医学研究所が精神障害者2級ヘルパー養成講座を受託実施し、 講座を開始した平成16年~平成19年までに修了者は149人(受講者の90.9%)に達している。 このように継続的にヘルパー養成講習を実施する例は他になく、本事業の成果の評価は今後 の就労支援等を検討する上で重要と考える。以上をふまえ、本研究の目的は、1)ヘルパー 養成講座の修了者を対象にヘルパー資格取得後の求職活動を含めた就労状況を個人属性との 関連を検討する。2)へルパー講習や資格取得の意義、およびその認識された意義と資格 取得の動機との関連性を検討する。そこからヘルパー養成講習の修了者にもたらす意義を 明らかにし、今後のヘルパー養成講習にかかわる課題を考察する。

2.研究の視点および方法

 本研究の調査対象は、前述の通り法人が受託実施した精神障がい者を対象にした2級 ヘルパー養成講座の修了者149人である。研究方法は、自記式調査票を用いた郵送配票、留め 置き郵送回収(調査期間;平成21年2月15日~3月15日)による横断的調査である。調査内容は、 「受講動機」、「受講直前、直後、現在の3時点の就労・日中の活動状況」、「就職先への 障害の開示の有無」、「求職において活用した相談機関や情報源」、「求職活動で困ったこと や心配」、「現時点におけるヘルパー資格を取得した意義」、および「個人属性(性別、 年齢、家族形態)」である。である。調査票の回収は62通で回収率42%であった。分析対象者 の個人背景は、女性が53.2%、年齢は平均で40.9 (S.D.)±8.83歳で、同居形態は「親と同居」 が61.3%、「一人暮らし」が27.4%、「配偶者と同居」が11.3%だった。

3.倫理的配慮

 質問紙調査を実施するにあたり、ヘルパー養成講座を主催した団体が本調査の実施主体 であること、そして個人情報保護し、調査研究以外で使用することがないこと、および調査 協力は自由意志によるもので、回答しないことについて不利益を被らないことを調査票に 同封した調査協力依頼の文書に明記した。質問紙に回答したことによって、調査協力に同意 したとみなすこととした。

4.研 究 結 果

 平成16年度修了者の回答が少なく、また全体の回収率が4割にとどまったため、調査 結果に限界があることをふまえたうえで、以下の結果をまとめることができる。
[ヘルパー養成講習の効果] ヘルパー資格取得によって介護職に従事できた人(就労期間を 問わず、常勤7人・非常勤36人)が回答者の69.4 %と高い割合だった。資格取得後の就労 経験の有無と個人属性、受講動機との関連は、統計学的には認めなかった。また、資格を 取得をした意義で、「自分の病気のことがわかった」(Χ2=4.18、自由度=1、p=0.041)、 「希望を持つことができた」(Χ2=4.19、自由度=1、p=0.001)とした人は、就労している 割合が高く、統計学的に有意差を認めた。受講資格取得が達成感や就労意欲の高まりや就労 の契機になったこと、また、将来の希望をもつことができたという人も多く、精神障害者 へのヘルパー資格取得の意義や効果を十分に認めることができる。また、受講の動機が 「自分の経験をいかして、同じ障がいのある人の助けになりたいと思ったから」という人々 では、資格取得の達成感や、就労に対する意欲、の他、講習を通じて新しい友人や仲間が できたこと、自分の病気に対する理解、ヘルパーの仕事内容を知ったこと、精神保健福祉の 情報を知ることができたという意義を認める割合が高く、そうではない人に比べて統計学的 な有意差を認めた。ヘルパー養成講座の講習は、様々な当事者同士や講師・スタッフと出会い、 福祉制度や最新の情報に触れ、自己理解を深める機会となり、介護職への就職促進という事業 目的にとどまらない教育的な効果をもつことに着眼し、さらなるプログラムの工夫が重要 であると考えられる。
[就職支援] 求職活動上の困難は、就労に関係する技術や技能に自信がないこと(42.9%)と、 希望する条件がなかなかないこと(38.1%)が多かった。一方、就職先の相談は、所属機関 の職員(46.6%)、ハローワークの障害者窓口が多かった(43.1%)。希望する条件との 適合性については、雇用先が障がい者を雇用することへの理解を増し、そして今後は、就労 に必要な自信をつけるためのon the job trainingが就労先で可能な体制を組むことやそのため の公的な補助制度等が雇用促進を図る上で重要と考える。
 なお、本研究は、財団法人 大同生命厚生事業団による平成20年度 研究助成金により 助成をえた研究(研究責任者 石神文子「精神障害者の2級ヘルパー養成後の就業の実態と 雇用支援の在り方について」 共同研究者 殿村寿敏、塚田めぐみ、野村京子、辻川知子、 香月祐子、井上京子)の成果の一部である。

(文献) 殿村寿敏・行實志都子・野田哲朗(2003)「精神障害者ピア・ヘルパー等養成事業に おける現状と課題」『精神障害とリハビリテーション』7(1)76-80.

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