自由研究発表障害(児)者福祉4  松田 博幸

精神障害をもつ当事者によって生み出された支援プログラムの開発過程とその背景
 -北米におけるEmotional CPRおよびOPDI Peer Support Toolkit
  の事例より-

○ 大阪府立大学  松田 博幸 (会員番号1942)
キーワード: 《ピアサポート》 《セルフヘルプ・グループ》 《当事者》

1.研 究 目 的

 本研究においては、近年、北米において精神障害をもつ当事者の手によって展開されて いる支援プログラムが、どのような過程を経て開発されたのか、そして、その社会的・政治的 背景がどのようなものであったのかを、明らかにすることを目的とする。具体的には、 アメリカにおいて展開されているEmotional CPR(eCPR)、および、カナダのオンタリオ州に おいて展開されているOPDI Peer Support Toolkitの開発過程およびその背景を明らかにする。

2.研究の視点および方法

 近年、北米において、精神障害をもつ当事者が開発した支援プログラムが広く用い られるようになってきている。たとえば、Mary CopelandおよびCopeland Centerによって 開発、普及されているWRAP(Wellness Recovery Action Plan)や、Shery Meadによって開発、 普及されているIPS(Intentional Peer Support)については、わが国においてもワークショップ 等が開催されるようになった。また、アメリカのNCMHR(National Coalition for Mental Health Recover)のプログラムとして展開されているEmotional CPR、カナダのオンタリオ州の OPDI(Ontario Peer Development Initiative)が開発しているOPDI Peer Support Toolkit がある。さらに、カナダのケベック州において、精神障害をもつ当事者、コミュニティに おける精神保健団体、大学研究者によって共同開発された、服薬に対するコントロールを取り 戻すためのGAM(Gestion Autonome des Medicaments de l’ame/ Gaining Autonomy with my Medication)といったものも見られる。
 わが国においても、精神障害をもつ当事者による活動が活発になり、一方で、当事者が 援助専門職者とともにサービスを提供することも見られるようになってきた(「ピア・ヘルパー」 など)。このような状況において、援助専門職者は、精神障害をもつ当事者をクライエント として理解するのではなく、自分たちとは異なった文化を持つ、支援におけるパートナー として理解することが必要になっている。“コンシューマからプロシューマーへ”といった 議論において、プロシューマーが何を生み出すのかということを考える場合、そこには、 当事者独自の価値や知識だけでなく、支援の方法も含まれると考えるのが自然であろう。 そして、援助専門職者は、当事者が自らの手で支援プログラムを生み出し普及させる過程を きちんと認識すること、そして、そのような過程の展開において自分(たち)は何ができる のかを自らに問いかける必要があると考える。本研究を通して、当事者の手で開発された 支援プログラムの開発過程が明らかになることが、わが国における当事者による活動の一助 となり、かつ、援助専門職者が自らの実践を見直す機会を提供できると考える。
 本研究は、北米において精神障害をもつ当事者の間で展開されている、当事者の手によって 開発された支援プログラムのなかから、アメリカにおいて展開されているEmotional CPR、 および、カナダのオンタリオ州において展開されているOPDI Peer Support Toolkitを取り 上げる。
 研究方法としては、①プログラムをめぐる資料・文献の収集、②プログラムの開発および 普及にあたっている人びとからの現地での聞き取り調査および電子メールでの情報収集を おこない、開発の過程およびその社会的・政治的背景を明らかにする。

3.倫理的配慮

 本研究は、支援プログラムの開発過程およびその社会的・政治的背景の分析に焦点を あてるものであり、組織の利害に関わる事項(著作権など)や、調査の過程において個人の プライバシーに関わる状況が生じた場合については、倫理的配慮を厳密におこなう。具体的 には、①組織、個人のレベルに関わらず、収集する情報の用途を開示し、了承を得る。 ②個人が積極的に氏名の公表を望む場合以外は、匿名性を守る。③収集した情報の管理・ 保管には細心の注意を払い、了承を得た方法以外で第三者に伝わることがないようにする。

4.研 究 結 果

 調査結果の詳細は当日配布資料において示されるが、2つのプログラムについて入手 した情報(関係者からの電子メール、オンライン上に公開されている文書やウェッブサイト における記述、関係者による日本での講演資料)、および、それらの背景に関する情報 (発表者による先行研究)より明らかになったことがらの概要は以下の通りである。

・ 両者とも、当事者が運営する組織(NCMHR, OPDI)によって開発されており、かつ、当事者 によるリカバリーやピアサポートの体験を通して生み出されたものである。
・ 両者とも、トレーナーの養成に力点を置いている。
・ Emotional CPRは、NCMHRという運動組織によって展開されており、一方、OPDI Peer Support Toolkitは、OPDIという、州政府とパートナーシップ関係にある組織によって展開 されている。

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