特別支援学校における就労支援
-特別支援学校のキャリア教育の事例をとおして-
○ 元東京医療保健大学 塩田 公子 (会員番号3683)
キーワード: 《特別支援学校》 《就労支援》 《キャリア教育》
障害を持つ人達が地域で暮らせるように、平成18年に施行された「障害者自立支援法」や「改正障害者雇用促進法」の在宅就業支援制度により、「地域生活支援」「就労支援」「就労の機会」等が拡大されてきた。知的障害をもつ人達の就労支援について、特別支援学校における事例をとおして、「就労支援」「キャリア教育」の現状と今後の課題を考察する。
2.研究の視点および方法 文部科学省の資料(平成21年6月)によれば、平成10年~平成20年の10年間で、特別支援学校数及び在籍者数、小・中学校の特別支援学級数及び在籍者数、通級による指導対象児童生徒数は年々増加してきている。平成21年度では、特別支援教育の対象の児童生徒は、義務教育の全児童生徒数の2.17%となり、そして、障害の種別は多様化し、重複化してきている。
平成18年に学校教育法の一部改正により、障害の重複化に対応した適切な教育を行うために、盲・聾・養護学校から、障害種別を超えた特別支援学校制度が創設された。
社会は高齢化や少子化が進行し、働き手が減少してくる傾向にあり、障害をもつ人たちを指導及び支援して一般就労の働き手としていく必要性がある。
近年、A県では、軽度の障害をもつ生徒達が、地域で自立して生活していけるように、職業教育・キャリア教育を導入して、一般就労100%を目指す特別支援高等学校を開校した。この学校の教育内容にどのような特徴があるのだろうか。
平成22年度A県特別支援学校の教育研究会資料によれば、平成17年~平成19年の県立特別支援学校の卒業生の就労率は22.1%、平成20年では25.3%、平成21では29.2%と増加してきている。特に卒業後の就労支援として、ジョブコーチを配置して対応する等の方法が行われている。
研究方法
知的障害をもつ人達の就労支援について、B特別支援高等学校において、平成21年11月1日~平成22年5月31日の期間に「職業教育」「キャリア教育」「就労支援」のありかたについて参与観察し、さらに、A県教育委員会刊行物、行政資料、B・C校の研究報告書等の文献調査を参考に行った。
特別支援学校における参与観察及び文献調査では、対象者が特定できないように配慮した。
4.研 究 結 果A県では、教育行政重点施策の1つに「職業教育」「キャリア教育」「就労支援」が推進されている。そして、ノーマライゼーションの理念に基づく教育と特別支援教育が推進されており、特別支援高等学校が近年増加している。A県の特別支援高等学校は36校あり、視覚障害1校、聴覚障害2校、病弱2校、肢体不自由7校に対し、知的障害の生徒を対象とした学校数は24校と多かった。A県では、一般就労率100%を目指す特別支援高等学校(知的障害)が平成19年にB校とC校が開校されている。B特別支援高等学校では、職業教育に重点を置いた教育課程を編成し、実施していたことが特徴であった。「職業」の授業では、就労に向けて日常のあいさつと、身だしなみがきちんとできるように、社会人としてのマナーを指導している。また、その場に応じたコミュニケーションについても学習している。「専科」の授業として、福祉教育が積極的に1年次から取り入れられている。「キャリア教育」としては、2・3年次に訪問介護員2級の資格取得にとりくんでいる。専門的に学ぶために、社会人特別非常勤講師による指導が行われている。そのために生徒の実態を把握し、生徒ひとりひとりのニーズにあった教育内容の指導が行われるように、各教科等にわたって「個別の指導計画」が作成されている。また、家庭及び地域や医療、福祉、保健、労働等の関係機関と連携した支援を行うため、「個別の教育支援計画」を作成していた。学内に就労支援室があり、複数の就労支援教員が配置され、職場開拓、進路指導、産業現場実習先との調整等に活躍している。1年次の秋より、産業現場実習を繰り返し、実習した会社や労働関係機関等と協力・連携し、生徒に合った就職を実現してきている。また、保護者に対して就労支援勉強会や保護者企業見学会を開催していることが、この学校の特徴的な取り組みであった。就労支援の成果として、平成21年度B校は、一般就労率95%(5%は進路希望者)を達成した。就労先は、福祉医療関係、パン製造、食品加工、清掃、スーパー等であった。B校では、最善の就労支援の方法及び支援システムについて、評価や検討が行われている。今後の課題として、小・中学校の特別支援学級の在籍者数、通級による指導対象児童生徒数が増加していることにより、特別支援学校のセンター的機能(①小・中学校等の教員への支援、②特別支援教育に関する相談・情報提供、③障害のある児童生徒等への指導・支援、④福祉、医療、労働関係機関等との連絡・調整、⑤小・中学校等の教員に対する研修協力、⑥障害のある児童生徒等への施設設備等の提供)の役割の充実と教員の指導力の向上があげられる。特別支援学校のセンター的機能については、開始したばかりであり、体制をととのえているところであった。また、障害種別に対応した施設設備や教材の工夫と専門的な指導ができる教員の育成が必要と感じている。社会の働き手を育成する特別支援学校の教育は、今後さらに重要視されていくことだろう。