自由研究発表障害(児)者福祉3  梁 陽日(ヤン・ヤンイル)

障害者のエンパワメント実現に関する研究
 -職業リハビリテーションセンター、就労移行支援事業所での
  グループワーク実践を事例として-

○ 立命館大学大学院  梁 陽日(ヤン・ヤンイル) (会員番号7886)
立命館大学  太田 啓子 (会員番号6982)
キーワード: 《障害者のエンパワメント》 《職業リハビリテーションの可能性》 《社会的自立支援》

1.研 究 目 的

 近年、成果主義が跋扈する新自由主義が政治経済に反映された結果、その影響は階層の 二極化などの格差拡大を招き、能力主義を基調とする社会的枠組みから不適応を起こすニート・引きこもり・発達障害等といった社会的自立が困難な若年層の問題が急浮上している。格差の背景には社会的排除の問題があり、若年層の中でもとりわけ障害を持つ若年者の社会からのドロップアウトをどう防ぎ、セーフティーネットを構築するかは緊急の福祉課題と言っても過言でない。  
 就労支援を通じて、障害者の社会参加と自己実現、経済的自立の機会を作りだすことを ミッションにしている職業リハビリテーションにおいても、当人たちの自助努力と合わせて、安定した社会生活への保障に導く福祉支援は社会に対して負うべきアカウンタビリティの範囲と考えるべきであろう。
 本発表は、障害者の職業訓練・就労支援に取り組む職業リハビリテーションセンター(以 下、センター)及び就労移行支援事業所(以下、事業所)でのグループワーク(以下、GW)の実践を通して、障害を持つ当事者のエンパワメント(自立支援や社会参加できる生きる力)実現のプロセスを分析しながら、望ましい支援のあり方を考察することを目的とする。さらに、これらの検討から障害者の社会的自立支援への展開の提言を試みる。

2.研究の視点および方法

 本報告では、筆者が講師を務めるセンター及び事業所で実施したGWの参与観察や、受 講生へのインタビューなどの質的調査を研究方法の主たる手法に位置づけて行う。エンパワメント発揮の核となるGWの分析においては、そのカリキュラムや学習プログラム、配布プリントや受講者の感想、さらには授業を総括したまとめの冊子などの各記録を題材にして総合的な観点から実践を概観していく。
 ここで検討・提示していくGWは2009年10月から2010年3月までの半年間実施した 第一期・全19回分と、2010年4月より現在展開されている第二期及び各クラスの取り組み(いずれのクラスも週一回2時間。主な受講生は精神・発達・知的障害者の混合編成)を取り上げる。
 センター及び事業所での通常訓練のほとんどは、事務系職務に対応するためのPC操作 がメインで、企業の受託作業の一環で入力業務や名刺作成などの実務的業務も実施されている。本GWは人間関係トレーニングの要素を採用し、自尊感情の醸成や他者との仲間づくりを目的としたコミュニケーションスキルの習得に特徴がある。

3.倫理的配慮

 本報告には関係機関の了解を得ており、報告においても匿名性保持などのプライバシーに配慮し、目的外使用を行わないことを遵守する。

4.研 究 結 果

 GW開始当初、受講生たち学習への不安や他者とのコミュニケーションに課題を持つ者 も多かったが、講義形式ではなく自身の経験やパーソナリティを活かし合うワークショップ形式の学習を取り入れたことにより、回数を重ねるごとに多数の受講生から「楽しい」「ためになる」「事業所での人間関係が良くなった」等の肯定的な感想が寄せられるという変化によって、学習効果の有効性が読み取れることができた。
 顕著な例としてはGWでの意見交換中に複数の受講生から、過去のいじめなどの傷つき 体験や就労中の挫折した事柄、あるいは家庭内でのトラブルなど、本来ならば思い出したくもないような葛藤や事象について忌憚なく語り合えるようになっていることも特徴の一つに挙げられる。なぜプライベートな事象を語るようになったのかとの質問に、ほとんどの受講生が「ここは誰も(障害者である私を)否定しないから、安心して話せる」と答えている。このことからもGWでの学びが障害によるマイナスイメージを取り払い、オープンな意見を尊重し合えることで、センター・事業所が職業訓練の域を出てプラスのグループ・ダイナミックス形成や、個人のケアなどの効果を生み出すエンパワメントの居場所にも成り得ることの示唆が見て取れる。
 日常的な職業訓練に追われつつも、試行錯誤を重ねながら辿り着いたGWの実践的知見は「安心できる関係や環境を保障すれば、どの人も変わる」というものであった。
 それはGW終了後に就職を果たした修了生たちのインタビュー調査の「事業所でGWを学べたことはとてもラッキーだった」「障害はマイナスではなく、自分自身にはたくさんいいところがあることが分かった」「就職しても孤立せずに人と協力し合うことに活かせれる」等の証言からも明らかで、GWは受講生の障害受容含めたアイデンティティの確立や将来展望に一定の寄与を果たしていると言えるだろう。  
 今後も実践や研究を深めながら、障害者の社会的自立支援のツールとしてのGWのあり方を検討していきたい。

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