自由研究発表障害(児)者福祉2  西山 裕

ダイレクトペイメントの日本への導入とその課題
 -障害者自身によるサービスの選択と利用計画の策定による
  自立生活の推進-

○ 北海道大学  西山 裕 (会員番号7606)
キーワード: 《ダイレクト・ペイメント》 《障害者自身による選択》 《自立生活》

1.研 究 目 的

 障害者の権利条約第19条(b)では、「personal  assistance」を含む地域社会支援サービスを障害者が利用できるよう、締約国は効果的かつ適当な措置をする旨が規定されているが、英国等では、「特定の介助者による介助サービスの提供」としての「personal  assistance」に留まらず、障害者自身が資金を受けてサービス利用計画策定及び事業者と契約を行う「ダイレクトペイメント」も実施されている。
 我が国においても、このダイレクトペイメントを導入できれば、障害者の権利条約の要請に合ったサービスが実現できることに留まらず、障害者自身がサービスを選択し、さらには利用計画を策定することが可能となり、自立生活の推進に資することになる。
 そこで、我が国へのダイレクトペイメント導入の制度面の課題と対応を考察する。

2.研究の視点および方法

 ①ダイレクトペイメントを導入することの意義を確認した上で、
 ②我が国の現行制度の下でダイレクトペイメントを実施する上での問題点を整理し、
 ③現行制度の改善の方向を提案する、   という手順により検討を進める。

3.倫理的配慮

 日本社会福祉学会研究倫理指針を遵守して報告を行う。

4.研 究 結 果

(1)ここでダイレクトペイメントとは、次のものをいう。
  ①行政がサービスを提供する代わりに、そのサービスに相当する額の現金を給付。
  ②利用者は、給付された資金を基に、サービスを選択して、利用計画を作成する。
  ③利用者は、計画に基づき、サービス事業者と契約してサービス提供を受ける。
  ④サービスの中には、専属の介助者(パーソナルアシスタント)の介助を含む。
(2)導入の意義
  障害者にとっては、自分の生活・意向を理解した介助者の介助を受けられること、
 自分自身が作成した利用計画でサービスを受給できること等のメリットがあるが、利用計画作成や金銭出納管理等を障害者自身が行う必要がある等のデメリットもある。
  また、行政にとっては、財政負担を増大せずに、障害者ニーズに応えた施策展開が可能になる等のメリットがあるが、障害者の計画作成資金の使途・出納管理に問題がある場合は、その指導・修正等のため、事務量が増加する、というデメリットもある。
(3)導入に当たっての制度上の問題点
①障害者への現金給付の前払い
  現行制度では前払いは認められていないが、事前の利用計画の承認及び利用後のサービス受給及び支払のチェックの仕組があれば、前払いでも制度の趣旨に反しない。
②パーソナルアシスタントの利用
  現行制度では、個人としての障害福祉サービス事業者は想定されていないので、障害者サービス事業者が、ダイレクトペイメントの障害者との間で、特定の介助者を継続的に派遣する契約を締結し、サービス提供する方式が現実的。
③障害者による利用計画の作成
 ア 障害程度区分を判定した上で、支給の可否及びサービスごとの支給量等を決定する現行の仕組では、受給できるサービスは、決定されたサービス種類と支給量の範囲内に限定され、障害者自身が作成した計画によるサービス受給という、ダイレクトペイメントのメリットが生かされず、柔軟な対応の導入が必要。
  ⇒ 例えば、市町村は、ダイレクトペイメントの利用申請者に、毎月の予算枠を示し、申請者は、その枠内で、サービス受給計画を策定し、市町村が承認する。
 イ サービスの範囲は、障害者自立支援法に基づく障害福祉サービスに限定。
④支援機関の位置づけ
  ダイレクトペイメントを実施していく上で、書類管理や金銭出納管理等の事務に不慣れな障害者を援助する支援機関の存在は不可欠。現行法の下では、「相談支援事業」の内容の一つとして位置付け、サービス利用計画策定費等を支給することが考えられる。
(4)まとめ
 ここまでの検討により、日本の現行制度におけるダイレクトペイメントの導入については、制度面では、予算枠の設定を条件として障害程度区分及び支給決定の規制を緩和する旨の政策決定があれば、現行制度を大幅に変更せず対応できることがわかった。 
 ダイレクトペイメントは、社会福祉基礎構造改革以来の利用者によるサービス選択という方向をさらに進めるものであり、福祉制度改革の方向に沿ったものと考えられる。
 また、経済が低迷し、国や地方自治体の財政状況が厳しい中で、利用者のニーズにあった福祉サービス提供を進めていく施策としても意義がある。
 
(注)本研究は、平成21年度厚生労働科学研究費補助金・障害者保健福祉総合研究事
 業「障害者の自立支援と『合理的配慮』に関する研究ー諸外国の実態と制度に学ぶ
 障害者自立支援法の可能性―」(研究代表者勝又幸子)の研究成果の一部である。

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