自由研究発表障害(児)者福祉2  岡部 耕典

知的障害者の「生活の自律」を前提とする福祉政策と支給決定システム
 -アメリカ・カリフォルニア州の制度と実践を踏まえて-

○ 早稲田大学  岡部 耕典 (会員番号5461)
キーワード: 《知的障害者の「生活の自律」》 《ランタマン法》 《支給決定システム》

1.研 究 目 的

 アメリカ・カリフォルニア州のランタマン法(the Lanterman Act)に基づく知的/発達障害者の「生活の自律」を前提とする福祉政策と支給決定の実際について体系的に理解し、障害者権利条約批准後の日本の障害福祉施策におけるパーソナルアシスタンスの利用を中核とした地域自立生活支援システムの制度設計に対する示唆を得るため。

2.研究の視点および方法

 本制度に対するDDS(カリフォルニア州発達障害局)監修の利用者を対象とする標準的な解説書である"Rights Under the Lanterman Act: Regional Center Services for People with Developmental Disabilities"の訳出(全313ページの約3分の1を抄訳)を行い、支給決定システムを中心とするその制度の概要について前年度に現地で収集した資料やインタビューの結果等を参照しつつ整理した。

3.倫理的配慮

 本研究は人を対象とする調査等を含むものではないが、実施にあたっては日本社会福祉学会研究倫理指針に則り遺漏のないように努めた。

4.研 究 結 果

 近年の日本の福祉において個別支援計画や「本人中心の支援」等が注目される一方で、その発祥の地ともいえるアメリカ・カリフォルニア州の知的/発達障害者の自立生活支援制度の実際に対する先行研究は乏しい。本研究では利用者向けに制度の理念や利用の実際について具体的かつ平易に説明した本文献の検討を通じて、社会福祉基礎構造改革による福祉サービスの利用制度化とその延長にある障害者自立支援法の支給決定システムを批判的に再検討する際に有益と思われる以下のような参照枠組みを得ることができた。
(1)「受給者本位」の制度化
 主としてサービス提供者(事業者)とサービス消費者(利用者)の関係のみを焦点化する「利用者本位」と異なり、ミクロの権利の確定(IPP)とサービス購入は支給決定機関(RC)が担い、マクロの予算は政府(州議会)が責任をもち、支給決定機関の管理と議会との予算折衝を行政機関(DDS)が担うというシステムが福祉法(ランタマン法)で規定されている。
 このような①受給者を明確に権利主体として位置づけ、②支給決定機関がサービスの提供責任をもち、③支給決定されたサービスの費用は政府が提供責任を有する制度は「受給者本位」(岡部2006,pp.62-65)の制度化といえる。
(2)医学モデルと社会モデルのハイブリッド
 医学モデルの利用資格(eligibility)判定に「第5区分(fifth category)」というカテゴリーと「実質的な障害(substantial disability)」という判断基準を組み合わせることで、サービス利用ニーズに基づく一定程度フレキシブルな利用資格の認定を可能としている。
(3)パーソンセンタード・アプローチ
 支給決定のプロセスが、利用者の心身の状態を客観的にアセスメントし必要な介護プランを立てるケアマネジメントではなく、生活の主体者(person)としての利用者に焦点をあて、利用者本人を含むチームが合議に基づき目標(goal)を達成するための個別の課題(objective)達成のために必要な「サービスと支援」を確定していくというパーソンセンタード・アプローチに基づいている。
(4)交渉決定モデル
 支給決定システムが、障害程度区分と認定審査会を組み込んだ「第三者判定モデル」(岡部2006)ではなく、決定過程への当事者参画と立場の異なるチームによる合議調整に基づく「交渉決定モデル」(岡部2006)となっている。
(5)アドボカシー
 利用制度化(契約)を担保するいわゆる「権利擁護」(その代表として成年後見制度)ではなく、サービスの実施責任及び費用提供責任の双方を有する行政当局に対して権利主体である利用者のサービス受給権確保を直接の目的とする強力なアドボカシー・システムが構築されている。

【参考文献】
Protection and Advocacy, Inc . (2006) "RIGHTS UNDER THE LANTERMAN ACT: Reginal Center Services for People With Developmental Disabilities (REVISED EDITION2006)" Protection and Advocacy, Inc
岡部耕典(2006)『障害者自立支援法とケアの自律-パーソナルアシスタンスとダイレクトペイメント』明石書店

*本研究は、厚生労働科学研究費補助金 障害保健福祉総合研究事業 平成21年「障害者の自立支援と『合理的配慮』に関する研究(研究代表者勝又幸子)」の成果の一部である。

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