障害者施策の推進に果たす地域自立支援協議会の役割と可能性
-C市地域自立支援協議会のとりくみの継続的比較-
○ 日本福祉大学大学院福祉社会開発科社会福祉学専攻 山本 雅章 (会員番号6588)
キーワード: 《生活課題》 《社会資源の調整・開発》 《協働》
本研究では,生活課題から発生する障害者問題を解決するためのしくみとして市町村地域自立支援協議会(以下 「協議会」という)をとりあげ,①障害者の生活課題の解決を目的とした社会資源の改善・開発における役割とその 条件.②市町村が協議会の活性化のために果たす役割とその条件について継続的比較の方法によって明らかにする.
2.研究の視点および方法 協議会は障害者自立支援法施行規則にその内容が定められ,国が示した指針にその設置が目標化されている.
また,2010年の障害者自立支援法の一部改正案では,協議会の設置が市町村の責務として定める方向性が示された.
しかし,国は市町村が創意工夫して行うべきものとして運営方法などの細目を定めておらず,設置及び運営は市町村
の裁量に委ねられている.当初,協議会の設置は進まず2007年度では50%を下回る設置率となっていた.また,設置
した市町村においても十分機能が果たせないなどという声が聞かれる.障害者自立支援法が目指す共生社会が障害者
を含め誰もが安心して暮らし続けられる社会のことであるとすれば,障害者と家族が地域社会の構成員として生活の
困難さを解決するしくみ(サービス基盤の整備やそのサービス等をマネジメントするしくみ,障害者が対等な社会の
一員とし理解される地域をつくるしくみ)が必要である.その際,市町村における障害者のニーズに基づくケアマネ
ジメントの仕組みや社会資源の開発などボトムアップの施策形成システムとして協議会の可能性は大きいと考える.
筆者は東京都C市1)の障害福祉課において協議会の事務局を総括する業務を行っている.C市の協議会
は2006年度他市に先駆けて設置され,活発な活動が行われている.東京都自立支援協議会においてもその先駆的なと
りくみが取り上げられる状況となっている.そこで,C市の協議会の取り組みを実践的に研究することにより,その設
置から現在に至るまでの経過を追いながら運営目的や手法を検討し分析する.その際,この協議会の運営方法が大幅
に変更された2009年度を境に,2006年度ら2008年度までを第1期とし,2009年度から現在に至るまでを第2期とし,2つ
の区分に分けて比較検討する.
なお,本研究に当たっては,社会福祉学会研究倫理指針遵守した.
第1期の協議会では市が実施の主体となり,全体会と課題別分科会(C市ではワーキンググループ(以下「ワー
キング」という))を設置した.全体会は福祉,教育,医療などの団体や障害当事者団体等の責任者28人で構成し,
ワーキングの報告に基づく意見交換を行なった.ワーキングは全体会に参加する機関の実務者で構成し,課題別に
「地域生活」,「就労支援」,「退院・退所」,「権利擁護」の4グループを設け,事例討議など国の示した枠組
みや事例集等に従った運営を行った.第1期の振り返りとしては①ワーキングでは課題ありきとなり,障害者のニー
ズに即した議論が弱い.②事例検討に終始し,社会資源の改善・開発の視点が弱い.③相談支援事業者の主体性が
発揮されていない.④地域自立支援協議会を広く周知するべき.の4点が課題として挙げられた.
第2期では他市の事例なども参考に,第1期の課題を踏まえた事業展開を行った.そして,①開催回数を増やす.
②ワーキングを課題別にはせず,各相談支援事業所が主体的に運営する.③ニーズを抽出しそのニーズに基づく協議
を柔軟に行う.④学習会や広報を活発化し市民に発信する.⑤障害福祉計画や市の基本計画との連携を明確にする.
以上5点を具体化した.そして事務局を障害福祉課と3相談支援事業所が協働して担うこととし,定期的な会議を開
催し事例検討によるニーズ把握と運営準備を行った.一方,市民向け学習会の開催や報告書の発行なども行った.
第2期の協議会では,議論が活発になり参加者からも参画して面白いとの意見が出されている.また,事例検討や
議論の中で個々のニーズ解決の方法や個々の支援だけでは解決できない課題も明らかとなり,障害者の見守りネット
ワークシステムの構築や高齢障害者の居場所づくりなどの新たな社会資源創出の課題が出された.第2期の特徴とし
ては,事務局が運営の主役になり自らが支援する障害者一人ひとりの生活課題の解決方法を協議会のなかで検討して
いることが挙げられる.そのなかでは制度利用だけでは解決できない課題についても検討が行われ,それが障害福祉
計画や市の基本計画の策定とつながることで,抽出された生活課題の解決策が施策に結びつく例も見られた.それは
,1期が国の事例集に示された協議会の在り方をなぞった事例検討中心の事業であったのに比べ,第2期では個別のケ
アマネジメントと社会資源のマネジメントを取り結ぶ実践枠組みのなかで協議会を位置づけたことにより具体化され
たと考える.
協議会は障害者の生活と向き合う相談支援事業と障害福祉課が協働して運営責任を果たすことで客観的な生活課題
を抽出するとともに,障害者が主体的に課題解決する支援の機能を有することが明らかにされた.加えて,市町村が
そうした機能に依拠した計画策定を位置づけることで,相談支援事業者や当事者,関連機関と市の協働に基づくボト
ムアップの政策形成に寄与することが明らかとなった.今日,自己決定の単位として位置づけられる市町村に求めら
れる公的責任は,こうしたボトムアップの仕組みから地域の障害者の現実の生活課題を解決すことである.その点か
ら協議会の役割は,障害者の生活の質を高めていく可能性を有していると考える.