自由研究発表障害(児)者福祉2  遠藤 美貴

政策立案への知的障害当事者参加・参画
 -障害者計画/障害福祉計画への参加・参画状況全国調査から-

○ 立教大学大学院コミュニティ福祉学専攻  遠藤 美貴 (会員番号5028)
キーワード: 《当事者参加・参画》 《障害者計画/障害福祉計画》 《全国調査》

1.研 究 目 的

 「完全参加と平等」をテーマとして掲げた「国連・国際障害者年」からまもなく30年を迎えようとしている。このテーマには「障害当事者が経済、社会及び政治活動に参加し、貢献する権利を有することについて、一般の人々を教育し、また周知すること」という内容が含まれている。また「完全参加と平等」を実現するための障害者施策の推進が求められるなか改正された「障害者基本法」において、都道府県・市区町村は各「障害者計画」を策定しなければならないこと、その際、障害当事者の意見を聴くことが定められた。また、「障害者自立支援法」の「障害福祉計画」においても同様の内容が定められている。
 そこで、本発表では障害者計画/障害福祉計画策定過程における知的障害当事者参加・参画の実態を全国調査から把握し、知的障害当事者の参加・参画の実態を見出すことを目的とする。

2.研究の視点および方法

 視点:国際障害者年からまもなく30年を迎えようとしているが、障害者計画や障害福祉計画策定において知的障害当事者の参加・参画はどこまで進んでいるのだろうか。2001年の「アジア太平洋障害者の10年」最終年記念フォーラムキャンペーン報告によると「障害者計画」策定過程に知的障害当事者が加わった自治体は都道府県・政令指定都市では10%以下、市町村では14%程度であった。しかし、このなかには家族が含まれており、知的障害当事者の参加・参画の実態把握を困難にしている状況がある。そこで、新たな調査項目を用意し、全国調査を行うことにした。
 方法:2009年9月に全国都道府県、市区町村の障害福祉計画策定担当部署2001か所を対象に「障害者基本法」における「障害者計画」と「障害者自立支援法」における「障害福祉計画」について、それぞれの計画策定過程への障害当事者の参加・参画の実態などを把握するための調査をおこなった。回答のあった1011自治体のうち、データを使用できた自治体1000か所の回答から、計画策定過程にどの程度知的障害当事者が参加・参画し、知的障害当事者が参加・参画した自治体ではどのような配慮がなされていたのかなど、その実態を分析する。

3.倫理的配慮

 回答自治体が特定されないよう配慮した。

4.研 究 結 果

A.「障害者計画」について:障害当事者が計画策定に参加・参画した自治体は794か所であった。計画策定に参加・参画した委員の総数は13404人であり、うち障害当事者は1608人(11%)であった。障害種別ごとにみると、肢体不自由が最も多く644か所の自治体において参加・参画していた。続いて視覚障害203か所、聴覚障害174か所、内部障害168か所、精神障害55か所の順であり、知的障害は29か所(約4%)であった。
B.「障害福祉計画」について:障害当事者が計画策定に参加・参画した自治体は732か所であった。計画策定に参加・参画した委員の総数は11830人であり、うち障害当事者は1430人(12%)であった。障害種別ごとにみると、肢体不自由が最も多く598か所の自治体において参加・参画していた。続いて視覚障害183か所、聴覚障害160か所、内部障害144か所、精神障害61か所の順であり、知的障害は28か所(約4%)であった。
 知的障害当事者の参加・参画に注目すると、「障害者計画」「障害福祉計画」とも知的障害当事者が参加・参画したと回答した自治体のうち、家族を当事者に含めていると思われる自治体を除いた全31か所のデータを分析した。
 31か所のうち「委員会をおこなう上で当事者委員への特別な配慮が必要である」と回答している自治体は約半数の16か所であった。さらに、「配慮が必要」と回答した自治体のなかでも7か所は、「支援者を配置する」という配慮はおこなっていなかった。一方「資料にルビをうつ」という配慮は「障害者計画」で12か所、「障害福祉計画」では13か所の自治体がおこなっていた。その他「分かりやすい資料の作成」「ゆっくり話す」「分かりやすく話す」などの配慮も16か所中60%近くの自治体ではおこなわれていた。
 また、これらの支援に必要な費用について委員会経費として支払われている自治体は4か所のみであり、その他の自治体は「当事者委員の負担」「ボランティア」「職員や家族が対応」というものであった。
 以上の結果から、次のような実態が浮かび上がってきた。
①計画策定過程に参加・参画した知的障害当事者の障害程度はあまり配慮を必要としない「軽度」の人たちに限られている。
②計画策定過程に知的障害当事者が委員として加わってはいるものの、十分な配慮が得られないため形式的な参加・参画にとどまっている。
③会議の内容を理解し、議論に加わるための支援や条件整備が知的障害当事者あるいは周囲にいる家族を含めた支援者任せになっている。
 今回の調査を基に、今後、知的障害当事者が参加・参画した自治体を訪問し、当事者委員や自治体職員へのインタビューを通して、知的障害当事者の政策立案への参加・参画を可能にするための条件整備や支援のあり方を具体的に提示していきたいと考えている。
本研究は日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究B「脱施設化と地域生活支援システム構築に関する研究」(代表 立教大学 河東田博)の一環として行なわれた  

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