自由研究発表障害(児)者福祉1  川池 智子

障害をもつ乳幼児と親に向けての支援ネットワークに関する地域モデル
 の研究

○ 佐賀大学大学院(山梨県立大学)  川池 智子 (会員番号297)
早稲田大学  川名 はつ子 (会員番号3503)
日本女子体育大学  雨宮 由紀枝 (会員番号3240)
長野大学  旭 洋一郎 (会員番号153)
山梨県立大学  佐野 ゆかり (会員番号3553)
甲斐市社会福祉協議会  米山 宗久 (会員番号6761)
キーワード: 《障害児》 《支援ネットワーク》 《地域モデル》

1.研 究 目 的

 本研究の目的は、障害をもつ乳幼児と親への、より有効な支援ネットワークの構成要素 や構成の仕組みを明らかにした上で、そのモデル化を行うことである。この時期の横の“連携” は、ライフステージを貫く縦の“連携”、“支援ネットワーク”の基盤として重要な意味を もつと考える。また、当然のことではあるが、支援ネットワークは全国一律ではない。地域 特性を勘案した“地域モデル”を見出すことも、この研究がめざすところである。

2.研究の視点および方法

(1)研究の視点
 今回は、地域比較という視点をもって、ネットワークの地域特性や課題の一端を解明する ために、保育施設における障害をもつ乳幼児と親への支援に関わる専門機関等との連携状況 並びに市町村障害児福祉行政における連携状況を把握するための調査を7つの地域で実施した。 それらの補足調査にあたる市区町村への聞き取り調査は現在、継続中である。
(2)研究の方法
 本報告では、上記の調査の結果を報告するので、ここには調査の手続きの概要を記す。
 ①調査主題:障害をもつ乳幼児と親の支援に関わる地域ネットワーク形成状況について
 ②調査期間:保育施設調査 平成19年10月~21年3月 市区町村調査 平成21年2月
 ③調査地域:関東甲信越および九州の3県、2政令指定都市、大都市圏1区・1市(但し、 調査条件が異なった大都市圏1市の調査結果は、全体集計に組み込んでいない。)
 ④調査対象及び方法:保育施設調査。(配布数1930票 回収数932票 回収率48.3%)、 市区町村調査。(配布数133票 回収数93票 回収率69.9%)いずれも郵送調査。
 ⑤調査内容:保育施設調査では、障害児数、障害の種類、発達の気になる子どもの人数、 巡回相談、並行通園、関係機関等との連携状況、保護者との関係等に関する設問を設け、 行政調査では障害児保育の状況、専門機関や親の会との連携状況等を問うた。

3.倫理的配慮

 保育施設へは、上部団体の責任者の了解を得て調査票を配布し、調査票には、集計に おいて園名・園の所在地が特定されない旨、明記・集計した。市町村調査についても同様の 配慮をした。また、回収した調査票については、細心の注意を払って保管・管理している。

4.研 究 結 果

 紙幅の都合により、“連携”の視点において注目された事柄の一部を載せ、若干の まとめを行った。全体の集計、自由記述の質的分析結果は、発表当日の別資料にまとめる。
(1)調査結果
 ○保育施設における巡回相談について:定期的な巡回相談があるという回答が最も高い のはF区だったが、巡回相談の職種には地域性があった。A県、B県、F区の場合、心理職の 訪問の割合が高かった。保健師については、A県、B県では4分の1以上が訪問を受けている が、他の地域では、少ないか、全くない。D市では保育士が巡回相談をしている割合が高い。

表1 保育施設への巡回相談の専門職(複数回答)

地域
A県 B県 C県 政令指定都市D市 政令指定都市E市 F区
心理職 実数 65 123 17 25 22 50
30.8% 39.0% 13.3% 16.4% 40.0% 70.4%
医師 実数 10 17 4 1 0 1
4.7% 5.4% 3.1% 0.7% 0.0% 1.4%
保健師 実数 56 79 13 3 6 0
26.5% 25.1% 10.2% 2.0% 10.9% 0.0%
保育士 実数 4 29 2 48 7 1
1.9% 9.2% 1.6% 31.6% 12.7% 1.4%
その他 実数 11 75 18 16 10 2
5.2% 23.8% 14.1% 10.5% 18.2% 2.8%
N= 211 315 128 152 55 71

○保育施設における関係機関・専門職との連携:関係機関や専門職と「連携はある」という 回答が多かったのは、A県、B県であり、それぞれ4割を超え、連携先についても両県は、 保健師との連携の割合が高かった。
(参考のために掲載した表1、表2では無回答を省いている。8つの地域の市町村別集計 結果は発表当日の配布資料にまとめる。)

表2 保育施設が連携している関係機関・専門職(複数回答)
地域
A県 B県 C県 政令指定都市D市 政令指定都市E市 F区
障害児通園施設 実数 29 73 18 30 13 10
13.7% 23.2% 14.1% 19.7% 23.6% 14.1%
児童相談所 実数 33 26 6 9 7 5
15.6% 8.3% 4.7% 5.9% 12.7% 7.0%
病院 実数 34 60 2 5 0 1
16.1% 19.0% 1.6% 3.3% 0.0% 1.4%
保健師 実数 70 92 18 5 7 8
33.2% 29.2% 14.1% 3.3% 12.7% 11.3%
その他 実数 22 30 9 13 4 4
10.4% 9.5% 7.0% 8.6% 7.3% 5.6%
N= 211 315 128 152 55 71

○市区町村調査からは、親子教室の実施、保育士と保健師を含む障害児支援のための事例 検討会、市町村の障害児福祉担当と教育委員会との連絡会のある割合が高いのが、大都市圏 の地域およびB県であった。行政と親の会の連携の形は市区町村によってかなり異なる。
(2)若干のまとめ
 調査結果全体を概観すると、大都市の自治体においては、制度的な整備は比較的整って いたが、それ以外の地方において制度的な充実には課題があるものの、地域での連携の体制 が認められた。特に関東甲信越のB県の多様な職種による連携が注目された。制度的な不備を 補うために“連携”“ネットワーク”が機能しているのか、地域の伝統(自治体の歴史や 精神風土等)が“連携”“ネットワーク”の背景にあるのか、結論はまだ出しえていないが、 これらの支援ネットワークの地域モデルの仮説的見解は、“支援ネットワーク”が、市区町村・ 圏域行政の施策の状況、施策を運用する段階の専門職間の“連携”、親の会等当事者・当事者 家族団体と行政・専門職との“連携”との関連のあり方に関わると同時に、地域の伝統と共に あるのではないか、というものである。それらの仮説の検証をとおした地域モデルの“発見” と“モデル化”という課題へのアプローチは、以降の研究に継続する。※本報告は、2007~ 2008年 科研費研究 基盤研究(C)課題番号:19530497 障害を持つ乳幼児と親に向けての包括的 支援ネットワークに関する地域モデルの研究(研究代表者:川池智子 連携研究者:川名はつ子, 雨宮由紀枝,旭洋一郎,佐野ゆかり)の一部である。


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