自由研究発表障害(児)者福祉1  瀧澤 学

障害者通所施設における高次脳機能障害者支援
 -障害者福祉サービス事業者への実態調査結果と通所施設支援者
  の語りから-

○ 神奈川リハビリテーション病院  瀧澤 学 (会員番号006473)
キーワード: 《高次脳機能障害》 《ストラウスコービン版グラウンデッドセオリー》 《通所施設》

1.研 究 目 的

 挟間の障害と言われた高次脳機能障害は,当事者・家族諸氏の尽力により障害者福祉サービス(以下,「福祉サービス」と略す)や社会保障制度の対象として認知されつつある.高次脳機能障害者生活実態調査(NPO法人日本脳外傷友の会2009)1)より,高次脳機能障害者の障害者手帳取得状況について,身体障害者手帳55.3%,精神障害者保健福祉手帳43.3%,療育手帳5.5%となっていた.また,回答者1715人中で福祉的就労をしているものは332人(19.3%)おり,その福祉的就労の場の主な対象者としては高次脳機能障害者31.6%,身体障害者29.5%,精神障害者16.9%,知的障害者16.9%であった.
 他方,高次脳機能障害者に対して福祉サービスの利用を勧めるにあたっては,様々な障壁が生じる.それを大別すると,高次脳機能障害者自身が福祉サービスの利用をためらうことと,事業者側が高次脳機能障害者支援に不安を感じることである.筆者は当事者が福祉サービスを利用するに対する拒否感を示す,戸惑いを訴えることを体験している.先崎は精神障害者通所施設支援者が高次脳機能障害者への対応で困難と感じる点について示唆している(先崎2009:36)2)
 ところで,福祉サービス事業者における高次脳機能障害者への支援方法や事例については,多くの書籍や文献が上梓されている.しかし,実際に高次脳機能障害者支援を実践した支援者の体験に基づいた報告や分析は少ない.本研究は,障害者福祉サービス事業者への実態調査と支援者へのインタビュー調査を通して,通所施設における高次脳機能障害者支援の課題点とその対応方法を見出すことを目的とした.  

2.研究の視点および方法

 第1研究として,障害者福祉サービス事業者(入所施設,通所施設,相談支援事業所)を対象とした高次脳機能障害者支援の実態調査を行い,高次脳機能障害支援における当事者と支援者それぞれの課題等について回答を得た.調査方法は郵送調査法,調査期間は平成19年10月から平成21年6月,調査対象地域は神奈川県内の3つの障害保健福祉圏域(湘南西部地区,横須賀・三浦地区,相模原市),対象事業所は307事業所(461事業)で回収数は184事業所(297事業),回収率は59.9%(64.4%)であった(1事業所で複数の事業を行っている場合があり,質問紙は各事業所に事業数分を配布した).
 第2研究として,精神障害者地域作業所2施設,精神障害者就労継続支援B型1施設,3障害を対象とした通所授産施設1施設,利用者を高次脳機能障害者に特化した地域活動支援センターと脳外傷友の会ナナ運営の通所施設各1施設,合計6施設の支援者16名に,施設毎のグループインタビュー調査を行った.インタビュー結果については,逐語録とした後にストラウスコービン版グラウンデッドセオリーを用いて分析を行い,通所施設における高次脳機能障害者支援への考え方や困難さについて概念化して,対応方法を考査した.
 なお,高次脳機能障害者が利用している福祉サービスでは身体障害者系のものが多い.しかし,近年課題となっている狭間の障害とは,身体に麻痺等の障害がなく認知面の障害のみの高次脳機能障害者である.その場合,精神障害者保健福祉手帳の取得が可能であり,利用する福祉サービスは精神障害者,高次脳機能障害者を対象としたものとなる.よって第2研究の調査対象を,主たる利用者が精神障害者・高次脳機能障害者の通所施設とした.

3.倫理的配慮

 第2研究のインタビュー調査について,6施設中4施設では高次脳機能障害の利用者が1~2名であり特定の個人を想定したインタビューとなることが予測された.よって,事前に当事者に調査の趣旨と使用中止の自由に関する説明を行い同意書への署名をいただいた.
 本研究は平成19~21年度神奈川県高次脳機能障害地域支援推進検討事業として行った.

4.研 究 結 果

 第1研究である高次脳機能障害支援実態調査より,現在もしくは過去5年以内に高次脳機能障害者の利用があった事業数は91事業(30.6%),利用している高次脳機能障害者は379名であった.利用者数が多い事業者としては,身体障害通所施設122名(32.2%),身体障害者相談支援事業74名(19.5%),身体障害者入所施設67名(17.7%)となった.高次脳機能障害者が利用している事業者数では,身体障害者通所施設23か所(25.3%),精神障害者通所施設15か所(16.5%),3障害通所施設・身体障害者入所施設がそれぞれ10か所(11%)と多く,身体障害者系の福祉サービスを利用している場合が多いことが分かった.また,実際に高次脳機能障害支援を行う上での課題について,当事者の課題として「障害理解が乏しい」が42件と最も多く,以下「他者との関係を築くことが難しかった(32件)」「サービスメニューや環境に適応できなかった(24件)」「当事者が利用の必要性を感じなかった(16件)」となった.また,支援者の課題としては,「障害についての理解や知識が十分ではなかった(51件)」が最も多く,以下「当事者が希望するサービス提供が難しかった(26件)」「支援する人員が不足していた(20件)」であった.これらより,中途障害による当事者の障害理解の難しさと、支援者の障害理解に課題があることが分かった.
 第2研究であるインタビュー調査より,通所施設での高次脳機能障害者支援について,「よりよい変化に向けた支援」の概念が生成された.それは「支援者の内意」「当事者が抱える生活しづらさ」「当事者の変化」「他利用者との関係」「当事者への支援の有り様」「家族が抱える課題」の6つのコアカテゴリーで構成されていた.その中で支援者は,高次脳機能障害者の認知面の障害だけではなく,社会的行動障害,中途障害であるが故の障害の理解と受け止めへの対応に苦慮していた.そして,「よりよい変化」が達成されない場合には,支援者が「支援への悔い」「自分の能力のなさを自責」について思案していた.それらへの具体的な対応策としては ① 状況に応じた支援目標の設定 ② 障害特性を理解したアプローチ ③ 当事者が自信を持てる関わり ④ 他利用者への高次脳機能障害の説明 ⑤ 高次脳機能障害支援拠点機関から福祉サービス事業者へのサポート,が考えられた.
 高次脳機能障害者は,障害が見えづらく分かりづらい上に,障害の個人差が大きい.支援者は,高次脳機能障害の特性である,認知障害や社会的行動障害,中途障害に伴う障害理解のプロセスについて理解しつつ,適切な支援を行うことが必要である.

参考文献
1)NPO法人日本脳外傷友の会(2009)『高次脳機能障害者生活実態調査報告書』.
2)先崎章(2009)『高次脳機能障害 精神医学・心理学的対応ポケットマニュアル』医歯薬出版.

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