自由研究発表障害(児)者福祉1  小川 喜道

高次脳機能障害者の地域生活をめぐる課題
 -高次脳機能障害者全国実態調査から探る-

○ 神奈川工科大学  小川 喜道 (会員番号4312)
東洋大学大学院  木口 恵美子 (会員番号6371)
神奈川県総合リハセンター  瀧澤 学 (会員番号6473)
キーワード: 《高次脳機能障害》 《地域生活》 《実態調査》

1.研 究 目 的

 高次脳機能障害者の在宅サービスにみる問題点は、家族介護が常態化、3障害のいずれかの手帳所持を前提、ホームヘルプは身体介護・家事援助に限定され見守りや自己選択・決定への側面的支援に当てはまりにくいこと、などが挙げられる。つまり、自立に向けた支援や24時間介護という、幅広い高次脳機能障害の地域生活を保障する仕組みができていないことに問題がある。内閣府に設置された障がい制度改革推進会議では、①障害に谷間のない制度、②自己決定を核とした自立概念、③地域で生活する権利、④24時間介護と地域移行プログラムの必要性、が確認されている。これらは高次脳機能障害者にとって必要な施策の原則を表しているとも言える。
 ここでは、全国40団体(2009.6.調査時点)の連合体である日本脳外傷友の会により、2009年度に実施した全国規模の実態調査に基づき、高次脳機能障害者とその家族の抱える地域生活を円滑に行う上での課題を探る。

2.研究の視点および方法

(1)研究の視点
 本研究は、当事者団体が主体性をもつ調査であり、調査項目及び設問の表現についても日本脳外傷友の会役員と専門職が共同で作成した。また、高次脳機能障害者の属性に基づき生活実態、利用サービス、期待するサービスなどを分析する上で、当事者家族と専門職がそれぞれの意見を出し合い、できるだけ客観的な考察を導くプロセスをとった。本研究は、こうした共同作業に基づくものである。
(2)調査対象
 日本脳外傷友の会に所属する団体、関連団体、関係機関72箇所に協力を依頼し、脳外傷友の会が存在しない7県を含めて、可能な限り全都道府県に調査票を送付した。
(3)調査期間
 2009年6月~8月
(4)調査数
 発送数3,841件、回答数1,715件(宮崎県を除く全県から回収)、回収率44.6%  

3.倫理的配慮

 調査票は高次脳機能障害関連団体等を通して配布したが、無記名郵送により回収し、匿名性を維持した。また、自由記述に含まれる特定機関名などについては伏字にしてデータ整理を行った。

4.研 究 結 果

 回答者は、本人18.5%、親あるいは配偶者など家族80.8%であり、アンケート回答の大半が代理記述であった。性別では男性8割、女性2割であり、これまでの研究報告とほぼ一致している。年齢別にみると21~40歳が46.5%、41~60歳が33.2%、つまり労働年齢に含まれる層が79.7%であることは、社会参加、就労に向けた支援の必要性を示している。
 また、主たる診断名は脳外傷1,020人59.5%、脳血管障害438人25.5%であり、低酸素脳症、脳炎、脳腫瘍も合わせて10%強を占めているが、日常生活の状況をみると高次脳機能障害者の特性を明確に表している。歩行、食事、排泄、入浴、衣服の着脱の日常生活動作に関わる項目は自立している率が高いが、意思の伝達、公共交通の利用の自立度が少し低下し、さらに、調理、金銭管理、契約手続きとなると一部介助、全介助の割合が大幅に増加しており、生活技術面、生活管理面、そして社会活動面に援助が必要とされている。
 在宅サービスについては、特に利用していない割合が高い。利用しているのは通所リハが10.4%で、福祉的就労やデイサービスと共に日中活動を障害の改善に活用していると想定される。また、ホームヘルプ及びガイドヘルプが14.1%となっているが、これらは家族以外の生活援助を活用している例でもある。日常生活動作に関わる身体介護が少ないことからホームヘルプの活用などもそれに伴って低くなっていると思われるが、今後は、見守りや必要時のガイド、あるいは自立を促進する援助機能を制度の中に位置づけていくことが検討されるべきである。
 そして、社会参加をみたときに、福祉的就労をしている人の手帳所持率が他に突出して高いことがわかった。つまり、他の社会参加状況では10%台以下であるが、福祉的就労については、身体障害者手帳22.9%、療育手帳45.3%、精神障害者保健福祉手帳24%と高い割合である。すなわち、高次脳機能障害者にとっては、社会参加との関係で手帳の取得が左右されているところがある。
 日常生活動作は自立している割合が高く、社会生活関連行為には一部介助・全介助の割合が高いことはすでに示したところであるが、それに対応するように本人が一人で生活するために求めているサービスとして高い割合を占めているのは、「生活管理の手伝い」、「円滑な人間関係を維持するための手伝い」、「困ったときの助言などの手伝い」であった。つまり、社会生活上の援助を適時に対応できる体制が望まれている。
 家族によるサポートが困難な場合に在宅生活の継続が困難とする割合が高く、32.7%を占めていた。それに対応する地域資源を自宅以外に求める割合は少なく、やはり自宅ベースでの生活が築けることを願っている。自宅外としては、入所施設20.6%、グループホーム・ケアホームが15.7%を占めているが、それらが高次脳機能障害に対応し得る具体的なイメージは必ずしももっていない。我が国の在宅サービスは、生活を細かいパーツに分けてその部分に提供されるところがあるが、高次脳機能障害による生活上の困り感は暮らしの流れの中で、外的要因に影響されながら起きがちであり、それに対処する支援を作り出すことが求められる。
 なお、本調査は、ファイザープログラム「心とからだのヘルスケアに関する市民活動・市民研究支援2009年度助成事業」として日本脳外傷友の会によって行われたものである。「高次脳機能障害者生活実態調査実行委員会」は、当事者家族5名、専門職8名で構成されており、本発表者はその構成メンバーである。

(参考資料)
1) 日本脳外傷友の会『Q&A脳外傷第三版』明石書店、2010年
2) 日本脳外傷友の会『高次脳機能障害者生活実態調査報告書』日本脳外傷友の会、2009年

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