自由研究発表児童福祉7  林 浩康

諸外国における親族里親の評価と日本への示唆

○ 日本女子大学  林 浩康 (会員番号1656)
キーワード: 《親族里親》 《fictive-kin》 《パーマネンシー・プランニング》

1.研 究 目 的

 日本では2002(平成14)年に親族里親が導入されたが、親族の範囲や適用要件が限定されていることにより、その活用が制限される傾向にある。一方、里親委託率が比較的高いイギリス、アイルランド、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド(以下、「諸外国」と記す)においては親族里親が増加傾向にある。社会的養護全体に占める親族里親の近年における委託割合はイギリス約17%、アイルランド約33%、アメリカ約25%、オーストラリア約35%、ニュージーランド約75%であり、日本は約1%である(日本子ども家庭総合研究所2008、SPRC 2009:26)。
 諸外国では近年の非親族里親の確保が困難な状況および子どものパーマネンシーやアイデンティティ保障といった子どもの発達的観点から親族里親を積極的に活用するとともに、措置過程における家族、親族、知人の意思決定過程への参画によりその活用が促されているといえる。
 親族の強調にはイデオロギーや思想的背景も影響を与えている。親族による養育は古くから根付いており、今日においてもインフォーマルにそうしたことは行われている。児童福祉サービスに親族里親として位置付けるこうした動向を家族責任主義の強化を図る親族への養育の押し付けとして否定的に捉えるのか、あるいは潜在的に行われてきた親族での養育に経済的支援などのサービスを提供し、その質的向上を目的とした取り組みとして、積極的に捉えるのか立場によりその捉え方は異なる。したがって親族里親に対する慎重なまなざしも一方では要する。本報告では諸外国における親族里親の評価を通してそれを俯瞰し、日本でのそのあり方について検討することを目的とする。  

2.研究の視点および方法

 諸外国では子どもの措置においてファミリーグループ・カンファレンス(以下、FGCと記す)やファミリーチーム・ディシジョン・ミーティング(family team decision meeting)といった当事者やその知人のミーティングへの参画機会が確保され、インフォーマル資源の活用が積極的に促される傾向にある。FGCを最初に導入したニュージーランドでは、先住民族の文化に配慮してこなかったそれまでのソーシャルワーク実践のあり方が問い直され、親族ケア(kinship care)は養護施策の中心に位置付けられるようになってきた。すなわちFGCでは拡大家族が中心となって自らの状況を評価し、実親のニーズや必要なサービスなどを明確化すると同時に、身近な親族での親子分離を考えることが一般化してきた(Mills and Usher 1996:604-606)。
 一方、「Foster Care」は本来「非親族による一時的養育」を意味するので、親族は里親ではなく家族であり、「Family Care」という枠組みで捉えるべきであることも指摘されている(Gordon et al.2003:83)。すなわち「Family Care」は社会的養護を意味する「Foster Care」と分けて考える必要があるということであろう。こうした考え方に基づけば、親族里親は家族維持(family preservation)プログラムの一つとして捉えられる。しかしながら先述したように近年親族による養育(kinship care)を社会的養護(foster care)の枠組みに位置付け、社会的支援を積極的に提供する傾向にある。社会的機関が介入し親族に子どもの養育を委託した場合、それを放置するのではなく、その養育を社会化し養育者に研修への参加を促したり、サービスを積極的に提供する傾向にある。
 1980年代まではパーマネンシー・プランニングの提唱により、専門主義、官僚主義を助長してきた面がある。すなわち子どものパーマネンシーの保障に向けた効率性が優先され、決められた期限内に子どものパーマネンシーを実現するために、専門職主導で介入することを余儀なくされたてきた (Wilcox,Smith and Moore et.al. 1991)。パーマネンシーの考え方が重視されることで、短期集中的なサービス提供が一般化し、長期的視野からサービスが提供されるという視点が希薄であった。これまで専門職が積極的に関与し、強制的に家族に介入することが正当化されてきたが、親族里親委託は長期化傾向にあり、現状の親族里親においては、むしろ長期的視野からサービス提供を行うことが要請されているといえる(Ryburn 1996:86)。一方日本では、親族里親を積極的活用できる状況が備わっていないこともあり、活用に向けた意識も低いといえる。こうした状況に鑑み、諸外国における親族里親の評価を先行研究を通して明らかにし日本でのその活用に向けた要件を明らかにしたい。  

3.倫理的配慮

 本報告は文献に基づく研究である。先行研究等のレビューにおいては日本社会福祉学会研究倫理指針の遵守に基づいている。 

4.研 究 結 果

 元来、親族ケアを制度化することは家族のオートノミーへの侵害であり、だからこそ、家族が子どもの養育に関する意思決定過程にかかわる必要があるとされ、FGCのようなインフォーマル・ミーティングの活用も諸外国では試みられている(Jackson 1996:591)。
 諸外国における親族里親の評価を整理すると、肯定的評価としては、①実親との別離による心理的衝撃の軽減、②家族やコミュニティ、文化的つながりの継続による子どものアイデンティティ、自尊感情、帰属意識の維持、③子ども・里親・実親間関係の維持、④措置変更が少ないことによる子どものパーマネンシー保障、⑤子どものスティグマの軽減があげられ、逆に否定的評価としては、①委託期間の長期化、②養子縁組や法的後見人対する消極性、③実親と親族間との葛藤、④実親による子どもへの不適切なアクセス、⑤経済的・健康上の問題など親族里親の質に関する問題、⑥ジェンダーに関する課題をあげることができる。
 現在諸外国では、インフォーマルに行われ、潜在化している親族ケアを社会的に支援し、その質を向上させ、子どもの利益を守るという認識は定着しつつある。親族里親は社会的ハンディを背負っている傾向にあるが、そうしたハンディを軽減するために社会的支援は必要不可欠である。相対的に親族の子どもへの思いは非親族に比較して深いといえ、それを積極的に活用し継続できるよう社会的に支援することが要請されている。これまで指摘してきたように、親族里親の抱える課題も多く、多様である。しかしそうした課題があるとしても、子どもにとっての利点がそれらを上回っているという認識が諸外国では主流である。親族でのケアを社会的に無視することなく、子どもの養育にとって望ましい場となるよう社会的に支援することが、現代社会において重要なことではないだろうか。以上のことを踏まえ、日本において親族里親を活用するうえでの課題について以下の4点をあげることができる。①親族里親要件の緩和、②親族範囲の拡大、③親族里親優先策と子ども・インフォーマル資源の意思決定過程への参画、④社会的支援の充実である。本報告ではさらにこれら4つについて詳細に論じることとする。  

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