里親のコンピテンス形成と評価に関する調査研究
○ 青山学院大学 庄司 順一 (会員番号3315)
日本子ども家庭総合研究所 有村 大士 (会員番号5180)
日本社会事業大学専門職大学院 宮島 清 (会員番号6344)
埼玉大学 伊藤 嘉余子 (会員番号3930)
IFCO、国際里親養育機構 渡邊 守 (会員番号6251)
横浜女子短期大学 スティーブ・トムソン (会員番号3936)
関東学院大学 澁谷 昌史(会員番号2908)
和泉女子短期大学 櫻井 奈津子 (会員番号2763)
日本子ども家庭総合研究所 板倉 孝枝 (会員番号6400)
相模原市 浅井 万梨子 (会員番号7059)
東洋大学 高橋 重宏 (会員番号0430)
キーワード: 《里親養育》 《コンピテンス形成》 《専門性》
社会保障審議会児童部会社会的養護専門委員会報告書(平成19年11月)をふまえ、家庭的養護の拡充を図るために、平成20年12月に里親制度の改正を主な内容として児童福祉法が改正された。この里親制度改正においては、養育里親と養子縁組を目的とした里親を区別し、養育里親には研修受講を義務化するなど、社会的養護としての里親制度が明確になった。
養育里親認定のための研修プログラムも策定され、すでに里親登録しているものを対象とした研修は平成21年3月までに多くの都道府県・政令市で実施され、21年4月からは新たに申請した里親希望者への研修が始まった。この里親認定研修プログラムは画期的なものであり、その意義は大きい。しかしながら、今日、里親に委託される児童のかかえる問題は複雑さ、深刻さがこれまで以上に増しつつあり、児童相談所等と連携を深めるとともに、養育に関する知識、技術のいっそうの向上が求められている。
本調査研究の目的は、里親に求められるコンピテンス(力量)※を明確にし、その評価法を開発するために、里親および児童相談所の里親担当者などを対象に調査をおこない、その結果をふまえて、里親のコンピテンス形成のあり方、評価法を提案することである。
里親制度・里親委託に詳しい専門家による研究チームを組織し、調査研究を行った。研究チームにおいて、アメリカを含め、これまでの研究動向、研究成果を整理しながら、里親に求められるコンピテンスの領域、具体的内容について検討し、コンピテンス評価票(案)を作成した。
この調査票を里親および里親支援者(児童相談所の里親担当など)を対象に質問紙調査を実施し、その有効性などについて、統計的分析を行った。
また、研究協力者に里親のコンピテンス(力量)に関する論考を著してもらった。
これらから、里親に求められるコンピテンスを明らかにすることの意義を論じ、具体的な評価法を示し、研修のあり方への示唆を行った。
調査を行うにあたり、調査票および調査方法について、日本子ども家庭総合研究所研究倫理委員会に諮り、承認を得た。
4.研 究 結 果 里親担当者への調査票(里親担当者版)は、3つの設問からなる。1つ目の設問は、性別や年齢層、担当になってからの期間、担当している子どもの数など、属性を調べる項目である。2つ目の設問は、担当している里親のうち、もっともコンピテンスが高いと思われる里親について「1.よくあてはまる」から「5.全くあてはまらない」まで5段階で記入してもらう項目である。3つ目の設問は、コンピテンスの各項目について不足していると思う項目を自由に記述してもらうものとした.
里親に対する調査票(里親版)も、里親担当者版と同様に3つの設問からなる。1つ目の設問は、性別、年齢層、里親経験、実子の有無など、属性を調べる項目である。2つ目の設問は、里親担当者版と同様に、コンピテンスについて尋ねる項目であるが、自分の状況について記入してもらうものである。3つ目の設問は、文章完成法(SCT)を利用し、自分のことについて記入してもらった。
なお、本研究の中核となるコンピテンスを把握するための項目(設問2)は、コンピテンスへの論考において、伊藤、トムソンの論述、渡邊の論述を参考にしながら、宮島案をベースとし、これに浅井が質的調査によって抽出した具体的な項目を追加し、作成したものである。
コンピテンスを把握することを目的とした項目についてのデータの因子分析においては,専門里親を対象としたことにより専門性が高いことが想定される集団であるためか,天井効果・フロア効果を起こしている項目が多数見受けられた.分析にあたっては,天井効果・フロア効果を起こした項目を除いた因子分析(因子分析A),加えて,あえて天井効果・フロア効果を残した分析(因子分析B)を行った.
因子分析の結果,因子分析Aでは,①里親養育の理解と力量,②自己覚知,③協力体制,④役割理解,⑤実施・里子の協力が挙げられた.因子分析Bでは,①子どもとの距離感とスキル,②自己覚知,③役割理解,④理解と信頼,⑤成長理解とストレングス視点,⑥子どもの成長が挙げられた.
因子とその他の項目の関係では,里親担当者の方が高い専門性を付ける傾向が挙げられた.また専門里親版では,性別,年齢層,実子の有無などと関連していた.また,回答パターンについてクラスター分析を行った結果,クラスター間の距離は4.5と必ずしも十分に確保されていないものの,スクリープロットの結果より6つのクラスターで分けた.その結果,経験年数などにより回答パターンの分布が異なることなどが分かった.
今回は天井効果・フロア効果を起こしている項目が多いなど,調査対象として力量が高いグループに絞られていたため,必ずしも課題がないとはいえない.今後はさらに調査対象を広げ,里親のコンピテンス形成において,研修内容への反映や,認定場面において里親のコンピテンスのあり方について話し合う材料として使えるよう,研究を進めたい.