自由研究発表児童福祉7  野澤 正子

家族再統合に向けた里親の実践内容とその意義
 -里親の語りから見た縦断的事例調査から-

○ 千里金蘭大学  野澤 正子 (会員番号1114)
京都橘大学  森本 美絵 (会員番号2777)
キーワード: 《里親》 《親子関係》 《家族再統合》

1.研 究 目 的

 養育里親による家庭再統合への試みは、これまで養子里親が多かったせいか、積極的な実践はなかったといってよい。しかし里親が社会的養護として制度的に確立した現在では、里親においても家族再統合に向け親子関係修復への試みは常に図ることがめざされる。里親と受託児およびその実親とのトライアングルな関係の中で養育を受け持つ里親は、具体的に家族再統合に向け、①どのような働きかけを委託児や実親、親族に行いうるか、②それによってどのような効果があり、③どのような課題に直面しているのか、を具体的な事例を通して、考察していくことが本研究の課題である。 

2.研究の視点および方法

 本研究は、里親を支援する条件や内容の具体像を明らかにするための基礎的研究である。里親の語りをICレコーダーに収録し、それを資料として質的研究を行うものである。語りは、どこまでも里親の捉えた自らの養育実践についての語りであり、子どもの実態とは区別される。本研究は、子どもの受託時から現在までの8年に及ぶ里親の語りの記録資料の中から、里親による親子関係改善の取り組みをとり出し、分析するものである。 

3.倫理的配慮

 今回の学会報告について、プライバシーに配慮し、本質をゆがめない範囲で加工し表現した。また、里親には、事前に発表原稿を読んでもらい、学会報告及び発表内容の承諾を得ていることを明記する。 

4.研 究 結 果

1)里親と受託児A(以下Aと称す)の関係
 里親は4歳のAを受託した。措置理由はネグレクト。Aは、措置以前の生活状況を、夜遅くまで暗い部屋の中で、母親の帰りをひとりで待っていたなどと、里親に話したという。Aは、里親を、無条件に「お母さん」とは言わず、小学校入学後も自分の名字を大切にし、名前が里親と異なっていることを当然視していた。里親は一定の距離を里親との間に置くことで実親との関係保持を求めていることを受け入れ、暖かく見守っている。受託後、一時母親が行方不明の時期があったが、その間も、里親は、Aの祖父母や親族の存在を重視し、お正月には、親族と一緒に過ごすことを積極的に支援した。
2)委託児Aと実母との関係修復への取り組み
 小学校1年のとき母親から連絡があり、正月に、保護後はじめて会うことになった。逢う日にむけて、Aは、母親に会う場面をいろいろ想像し、母親が「ごめんね」といってくれることを期待して出かけていく。しかし母親にその言葉はなくAは不機嫌に帰宅。里親は温かく迎え慰める。だがその後、実母と過ごした祖父の家での各場面―夜中トイレに母親がついてきてくれたなどを、折に触れ里親に語っている。母親から受けたケアの一つ一つを思い出し、生きる糧にしていた、と里親は語っている。
3)実母からの電話を共に待つ。
 母とお誕生日に電話するという約束をしてきたことからAは電話を心待ちにするようになった。何を話そうかとのAの問いに里親は、「私を生んでくれてありがとう」という言葉を薦めたという。当日は一日待ったが電話はなく数日後にかかって来たとき、Aは、開口一番、生んでくれてありがとうと、話したという。それに対し、実母は、「何?、それ」と答えたという。その他、里親は学校行事を細かく母親に知らせ、参加を呼びかけている。
4)揺れる心を見守り寄り添う
 小学2年のとき、母親との接触回数が増えていく中で、母親から、一緒に暮らそうかなどの言葉が出るようになった。Aは、一緒に住みたい要求と、しかしまた一人ぼっちにおいておかれるかもしれないという恐怖、里親との関係維持への願い等で、迷い、学校の勉強では忘れ物が多くなる。里親は、揺れる心を見守り、ここには18歳までおれること、この家をでる時期はAが決めることができることなどを告げる。
5)新しい展開を見守り、Aの将来を共に考える  
 実母に新しいパートナーができAが逢うときはいつもそばに彼がいるようになった。二人の会話に自分の入れない世界があることを感じ、母親と一緒の生活を夢見つつ、自分の世界を築く必要があることを感知しているAの心の動きに寄りそい、里親は、将来の仕事に就いてAと話し合いをするようになった。
6)里親と実母との関係深まる  
 実母が病気で手術することになった。里親は、母親に自分の病気についてAにきちんと説明するように依頼。母親は治癒するが、Aは、改めて母親との生活を考え始める。里親は実母とは帰省時の送迎の際直接話をしてきた。最寄の駅でのバトンタッチから次第に里親家庭での送迎となった。里親は、母親の同伴者とも話しをするようになった。

5.考察
1)里親による委託児の親子の関係維持.修復.改善への取り組みは、Aの気持ちに沿うことから始まった。実母に対しAの親であることを尊重しその自覚を呼び覚ます日常の取り組みを行っている(上記3)、6))。またAの添い揺れる心を常に支えており、里親であるとともにすぐ横に立つ支援者としての役割を果たしている。
2)本事例では親子関係の修復が見られその発展が今後とも期待される状態に至った。同時にAは自分の世界を築き始めている。家族再統合が必ずしも一緒に暮らすこととは限らないとすれば、こうした関係改善は家族統合の実質的な実現ととらえうるのではないか。
3)親子関係修復に向け児相による方向付けと、里親・実親への支援の強化が求められる。  

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