自由研究発表児童福祉7  森本 美絵

乳児院から里親への措置変更の進め方
 -施設職員と里親からの聞き取りの事例から-

○ 京都橘大学  森本 美絵 (会員番号2777)
キーワード: 《乳児院》 《里親》 《措置変更》

1.研 究 目 的

 社会的養護の下にある乳幼児は、できるだけ家庭的な環境で生活することが望ましい。 しかし現状は、子どもが抱える課題や背景の複雑さ、委託できる里親数の不足等もあり、主に乳児院に措置される。平成20年度の乳児院の在籍児童数は、3,185人である。退所理由のうち、里親委託7.5%、養子縁組は1.9%であり、約30%の子どもは他施設へと措置変更される。家庭復帰の見通しが困難な乳幼児は、里親家庭等への措置変更が望ましいが少ない。施設と里親の連携は、始まったばかりでありスキルの蓄積等は多くない。措置変更にともなう子どもの心身への負荷を最小限にするように、施設と里親は十分に連携する必要がある。研究の目的は、①乳幼児に、措置変更をどのように伝えていくのか、②環境の変化による子どもの心身への負荷を軽減するために施設と里親はどのように連携して、配慮をすべきか、③施設は、里親養育を支えるために何をいつまでしていくべきか、を具体的な事例を通して考察することである。  

2.研究の視点および方法

 本研究は、里親を支援する条件や内容の具体像を明らかにするための基礎的研究である。里親の語りをICレコーダに録音した。そして、施設を訪問して、当時子ども担当であった職員に、措置変更等に関する情報を直接に聴き取った。それらを資料として分析した。 

3.倫理的配慮

 今回の学会報告について、里親と施設長に、事前に発表要旨を読んでもらい、承諾を受けた。プライバシーに配慮して、本質をゆがめない範囲で若干の加工をして表現した。 

4.研 究 結 果

施設・職員から記録等に基づくAの状況と里親からの聞き取りによる里親家庭でのAの様子を記す。なお、文中の〈 〉は里母の語りによる。
(1)事例の概要
 本児(以下、Aと記す)は、出産後20日で乳児院に養育困難で措置される。、皮膚の弱さ(アトピー体質)以外は、精神・身体とも特におくれはない。情緒面では「抱っこ」と、甘えもストレートに出し、子どもらしい感情表出をする。人見知りもあり、特定の職員との一定の愛着が形成されている。Aと実親との交流は、母親は皆無であるが、父親は、1度来院する。その後は行方不明である。施設から実親には、Aの様子を記した「おたより」と母親の希望でAの写真がおくられる。実母からの返事は措置変更までの2年半で3通ある。家族再統合は困難であると児童相談所と施設の間で協議され、里親への措置変更に向けて準備が始まる。
(2)措置変更までの里親との交流   
 施設は、実親との交流がないAに週末里親を依頼する。始めは施設での里親とAの交流として、2回ある。その後は、週末里親(外泊)として里親が土曜日の9時30分頃に車で迎えにきて、翌日の乳児院の夕食の時間前(17時00分)までに、おくってきた。外泊は、某月から措置日の某月1日まで、ほぼ毎週で、総計13回である。この経過の中で、実親の同意を得て、措置変更の準備が進む。交流から措置変更日までに4ヶ月かかっている。ただ、外泊のために里母が迎えにくると、毎回のように泣いて車に乗せられた。〈里母は、泣かれる度に、拉致して帰るみたいだなと思った。職員から無理やり引き離して車に乗せた。車の中でも泣き叫んでいた。〉しかし、施設に戻ってくるときは、「にこにこ」していた。職員は、親家庭では楽しく過ごせているんだろうと想像している。Aの日常生活に良い変化が現れている。〈外泊当初は、里母からはなれず、ずーと抱っこしていた。ベビーカーにも乗せられない。昼ごはんを食べて少し表情が和んだ。それまでは硬い表情である。同年齢の孫が遊びに来ていたが、帰り際等に腕を噛んだ。時には、ボールペンで肩を「つんつん」とした時もある。〉措置変更の当日は、子ども達や職員が花を持って玄関におくりだす。いつもと異なる様子に、Aは泣きそうにしている。緊張・不安時に示す八の字眉で身体をこわばらせる。〈施設長が、「朝起きて(里母の)体調が悪かったら電話してきてください。保育所かわりにつかってくださいね。」と言われた。その言葉で本当に安心できた。Aにとっても安心して行ける場所になってくれるといい。〉
(3)措置後の里親・Aと施設のつながり
 〈受託初期は、施設に行くのをいやがった。〉措置後1ヶ月~2ヶ月の間にAが施設に来たのは、3回である。施設の招待による祭りの日〈里親のところに行ったからといって関係が切れるのではなくて、続くとよい。保育士さんのAへの思い入れも感じる。施設にでかけて行って、Aはこんなに大きくなった、元気にしていると知らせたい。そういう関係でずーといられたらいい。〉里親家庭の用事で1日、里母とAが遊びにくる(約4時間)。子どもたちも、職員もAの来院を歓迎する。〈Aは自分がいたところだから慣れている。施設の方に車を走らせると、施設に遊びに行くという。〉その他に、年度末にレスパイトを利用する。〈施設なら安心できる。こんなに元気に動く小さい子どもは、普通の人に預けるのは心配だ。ちょっと目を離したらあぶない。その点、施設は安心。ちゃんとしている。〉

5.考察
①Aの不安な気持ちへの細やかな対応が十分でない。施設と里親は子どもが示す少しの不安についても、お互いに話し合い、即対応できるようにするべきである。②乳幼児に対して、生活の場が変わること等について知らせる方法・スキルの蓄積が必要である。③里親と施設が信頼できる関係が前提であり、その関係の持続が重要であるが、そのための方法・体制が未確立である。④措置後に施設による里親支援をタイムリーに実行していく方法の開発が必要である。  

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