自由研究発表児童福祉7  三輪 清子

里親委託と施設委託の関係の長期的動態
 -1953-2008年の時系列データの分析から-

○ 首都大学東京大学院  三輪 清子(会員番号7871)
キーワード: 《里親委託》 《施設委託》 《時系列データ》

1.研 究 目 的

わが国において社会的養護を受けている子どもたちは,その9割が施設に委託され,里親に委託されるものは1割程度にすぎない。わが国では,戦後,里親制度が制定されたにもかかわらず,社会的養護を必要とする子どもの委託先として,近年に至るまで施設への委託が主流であった。家庭的養護である里親委託を優先している欧米諸国に限らず,日本においても,子どもには家庭が必要であるという認識があると思われるのに,なぜ日本では里親委託が伸展しないのだろうか。
 先行研究では,里親と施設の関係をめぐって,いくつかの指摘がある。1970年代~1990年代にかけては,「里親側が施設を過度に批判している」という里親に対する批判的な指摘(長谷川[1984])がある一方で,「施設が経営上の理由から子どもを確保するため,里親委託に消極的になっている」という施設に対する批判的な指摘(鶴飼[1977],津崎[1993])もみられる。この施設に対する批判的指摘は,施設が経営上の理由から定員数を充たすこと,すなわち施設の定員充足率を増加させることを重要視せざるを得ないため,施設入所児の里親委託に消極的になることを指している。この指摘が正しければ、社会的養護を受ける子どもの総数が一定,または減少しているときには,施設の定員充足率の増加は,子どもが里親に委託される比率である里親委託率の低下を伴うはずである。しかしながら,施設と里親の関係に関して,実際にデータを用いた計量的な分析は,これまでのところ行われていない。
  そこで,本研究では,戦後,里親制度が制定されてから,里親委託と施設委託の関係がどのように推移してきたのかをマクロデータを用いて明らかにすることを目的とする。また,上述した仮説が正しい指摘であるのかどうか,併せて検討を行う。  

2.研究の視点および方法

施設と里親の関係を明らかにするために,1953年から2008年までの里親と施設についての時系列データを用いた分析を行う。具体的には、データの時系列的な変化を把握した上で、里親委託率を従属変数,施設充足率を独立変数として,時系列モデルを用いた計量分析を行う。分析方法には,階差を用いた回帰モデルによる推定とプレイス・ウィンステン(Prais-Winsten)法を用いた回帰モデルによる推定を行う。ここで、里親委託率とは当該年度における社会的養護を受けている子どもの中で里親委託をされている子どもの比率(里親委託されている子ども数/社会的養護を受けている子ども数)であり,施設充足率とは当該年度における施設の定員充足率(施設委託されている子ども数/施設の定員数)のことである。なお他の独立変数として,先行研究から導き出した,措置変更率,子どもに対する里親登録率,養子が必要だと思う人の比率,日本人一人あたりの居住面積も用いた。 

3.倫理的配慮

先行研究の参照においては,自説と他説を峻別し,その出所は明確に記した。厚生労働省等の公開データにおいても,その出所は明確に記した。 

4.研 究 結 果

社会的養護を受ける子ども総数は、1959年をピークに減少していき、同時に里親委託率も施設充足率も減少していく。ただし,里親委託率はゆるやかながらも減少の一途をたどるのに比較して,施設充足率は増減を繰り返しながら減少している。1990年代に,社会的養護を受ける子ども総数が過去最低を記録し,施設充足率,里親委託率はこの動きに対して一定のラグを示しながらも全期間中最低の値をとる。その後1990年代末頃から,漸増していく。
  里親制度への政策は,2002年度の里親制度の改正までいくつかの変遷を経るが,2002年度以前は施設充足率および里親委託率の変化をみる限り,制度の変化の影響はほとんど感じられない。しかし,2002年度の改正を機にそれまで減少傾向にあった里親委託率が増加傾向に転じる。
 時系列データを用いた分析においては,まずは最小二乗法を用いた回帰モデルによる推計を行ったが,系列相関が生じていたため,階差モデルとプレイス・ウィンステン(Prais-Winsten)法による推定を行った。それぞれのモデルは以下の式で表現できる(Δは階差)。

Prais-Winsten

施設充足率は階差モデル,プレイス・ウィンステン法のどちらの推定を用いても有意な負の効果を示した。これは施設の充足率が増加すると,里親委託率は減少するという仮説に整合的な結果である。またモデルによる残差をみると,特に2000年前後に大きな変化があったことがわかる。これは,社会的養護を受ける子ども数が,1990年代に減少し,その後1990年代後半から増加したため,施設充足率と里親委託率にそれぞれ大きな変化があったことを示している。施設充足率と里親委託率は大きく関連しているが,この関連の仕方は2000年以前と以降で異なっており、2000年以降では従来のモデルでは説明できないものとなっている。

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