自由研究発表児童福祉6  栄留 里美

英国のファミリーグループ・カンファレンスにおける専門アドボケイト
 の役割・効果・課題

○ 社会福祉士  栄留 里美 (会員番号7686)
キーワード: 《児童福祉》 《アドボカシー》 《家族援助》

1.研 究 目 的

 「ファミリーグループ・カンファレンス」(以下,FGC)とは「拡大家族ネットワークの潜在的力を活用し,拡大家族や場合によっては親しい友人・近隣がソーシャルワーカーをはじめとする専門職とともに,子どもが安全かつ十分に養育されるための必要項目を話し合う公式の会議.」(林2008:47)である.1989年にニュージ―ランドで開発され,現在欧米等で広く活用されている.私がこのFGCに注目する理由は,拡大家族だけではなく子ども自身も参加するという点にある.これは子どもの権利条約12条の意見表明権及び第13条の子どもの表現の自由を保障しようとする取り組みでもあると言える.英国では,家庭内及び施設内虐待を防止する方策の一つとして,援助過程における子どもの参加が1970年代より発展してきた.FGCはそれ自体子どもを含む家族の援助過程への参加を促進する手法の一つであるが,おとなとの力関係によって参加や意見表明が困難な子どもの支援が進められてきた.現在その要となるものが「専門独立アドボケイト」(Professional Independent Advocates以下,専門アドボケイト)による支援である.本報告は,英国のFGCにおける子ども参加の実態と専門アドボケイトの役割を整理し,その効果と課題を明らかにしようとするものである. 

2.研究の視点および方法

 私は英国児童福祉における子ども参加とアドボケイト利用の概要について整理検討を行った(堀・栄留2009).本研究はその成果の上に立って,英国における先行研究及び研究資料を収集し整理分析することにより,FGCにおける子ども参加とアドボケイト利用の実際的側面を明らかにしようとするものである. 

3.倫理的配慮

 本研究は文献及び資料研究である.先行業績,引用等について日本社会福祉学会の定める研究倫理指針を遵守する. 

4.研 究 結 果

 (1)FGCにおける子ども参加の実態:FGCの国際的な傾向としては概ね10才以上の子どもの参加が一般的だが,英国では専門アドボケイトの利用により年少の子どもも参加している.しかし,子どもは過去の虐待体験や家族間の葛藤等から家族と共に参加するのは怖い,またはFGCは退屈で嬉しいことではないと感じている.それにもかかわらず,継続するミーティングも含めて,子どもは排除されるというよりは出席することを選び,多くの子どもが参加に満足している報告が見受けられる(Holland and O’Neill2006,Laws and Kirby 2010).
 (2)FGCにおける専門アドボケイトの役割:専門アドボケイトは90年代後半から,上記のようなFGCへの参加で懸念される問題を払拭するために活用されるようになった.独立性が重要であるため行政とは異なるNGOスタッフが担っている.専門アドボケイトの役割は子どもの希望によって変わるが,一般的に特に重要な役割とされているのは準備段階である.平均3回は事前に子どもと会い遊びを通じた関係構築を行う. FGCとその参加者について説明をし、子どもが話したことや絵で表現した気持ちをどのようにFGCで話すか子どもと話し合う.または子どもは不参加だが絵や手紙、ビデオによって意見表明する場合にはその作成を支援する.FGC中は討議内容の理解を促し,子どもが発言または絵等で表現し,それが意思決定に反映されるのを支援する.FGC後には会議の結果を理解できるように説明し,続くFGCの準備を行う.
 (3)FGCにおける専門アドボケイトの効果と課題:FGCに参加した子ども79人中51人が専門アドボケイトの利用を希望した調査 (Horan and Dalrymple 2003:3)があり,子どもからのニーズがあることが伺える.また子ども参加が見せかけに終わる場合がある中,専門アドボケイトと共に参加した子どもは自分の意見が反映されたと感じている(Laws and Kirby2008: 86).一方で家族にとってもFGC開催中の専門アドボケイトの関わりを見て子どもにどのように聴いたら良いのかを学んだという例が報告されている(Laws and Kirby2010:118).しかし、FGCには家族だけで話し合う時間があり,その場に専門アドボケイトが居ることの違和感や家族・専門家が専門アドボケイトの役割を理解していないこともある等課題も存在している. (詳細は当日資料を配布する) 

5.文 献

林浩康(2008)『子ども虐待時代の新たな家族支援―ファミリーグループ・カンファレンスの可能性』明石書店.
Holland, S. and O’Neill, S. (2006) “We had to be there to make sure it was what we wanted”, Childhood, A Global Journal of Child Research, 13(1),91-110.
Horan, H. and Dalrymple, J. (2003) Promoting the Participation Rights of Children and Young People in Family Group Conferences. Practice, 15(2),1-7.
堀正嗣・栄留里美(2009)『子どもソーシャルワークとアドボカシー実践』明石書店.
Laws,S. and Kirby, P. (2008) At the Table or Under the Table? Children's Participation in Family Group Conferences, Oliver, Christine M., Dalrymple, J eds.Developing Advocacy for Children and Young People, Jessica Kingsley Publishers, 81-98.
Laws,S. and Kirby, P.(2010)Advocacy for children in family group conferences, Percy-Smith, B. and Thomas, N.eds, A handbook of children and young people's participation : perspectives from theory and practice,Routledge,111-120. 

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