自由研究発表児童福祉6  有村 大士

子どものマルトリートメント対応におけるDifferential Response導入経過
 の分析
   -歴史的経緯と協働型サービス導入の背景と動向に焦点をあてて-

○ 日本子ども家庭総合研究所  有村 大士(会員番号5180)
旭川大学女子短期大学部  清水 冬樹 (会員番号6541)
神戸女子短期大学  畠山 由佳子 (会員番号2951)
キーワード: 《子どものマルトリートメント》 《区分対応モデル》 《協働型サービスの導入》

1.研 究 目 的

 児童相談所における子ども虐待対応件数が増加する中で,2004年の児童福祉法改正によって,日本においては区市町村が児童相談の第一義的な機関として位置づけられた.また多機関が連携するためのケースマネジメント,および情報共有の仕組みとして児童虐待防止ネットワークを法制度化し,要保護児童対策地域協議会の仕組みが作られた.
 一方で北米を中心に発展してきたDifferential Response Modelも日本型マルトリートメント対応システムと同様,マルトリートメント対応ケースの増加が導入の契機となった.しかしながら,予防の範囲や方法は大きく異なっている.
 本研究では,子どものマルトリートメント対応システムの例として,北米を中心に発展してきた区分対応モデルが成立する背景や経緯を改めて整理し直すと共に,日本型マルトリートメント対応システムとの違いや今後日本社会が気づくべきポイントについて検討を行うことを目的とする.  

2.研究の視点および方法

 訪問調査や海外のシステムについて紹介がなされている論文や書籍は少なからず存在する.しかしながら,そのシステムを理解するために背景や導入経緯に踏み込んで紹介している日本語文献は少ない.しかしながら,社会の状況,特に子どものマルトリートメント対応件数の増加から,対応方法の模索を考える必要がある部分など,同様の状況がある.必ずしも同じシステムが導入することだけが解決策とは言えないことは重々承知している.しかしながら,同様の課題に諸外国がどのように対応してきたのかについては参考となる部分は多いと考える.
 筆者は2001年にカナダにおいて区分対応モデルの議論も含め,研究者と意見交換を行った.その後,文献等において継続的に情報収集を行った.  

3.倫理的配慮

 本研究は文献研究である.研究倫理指針に従って報告を取りまとめた。 

4.研 究 結 果

 北米を中心に発展してきた区分対応モデルは、子どもへのマルトリートメントの急激な増加に伴い、介入と法的対応を前提とした援助モデル(以下,調査介入モデル)の限界が社会的に認識された背景がある.1967年にChild Protection Service が取り扱った事例は10,000件を下回っていた.しかし徐々に対応件数は増加し,1990年代半ばには300万件を超えるようになった.CPSが対応するケースが膨大であるという懸念が議論されていた.1994年から1997年まで,子ども家庭福祉,開業医,政策担当者,専門家で構成されるハーバード特別委員会が招集された.そこでは当時のCPSについて以下の大きく5点が課題として挙げられた.A. 過剰対応(Over inclusion),B. 対応能力の限界,C. 過小対応(Underinclusion),D. サービス提供方針の課題,E. サービス提供の課題であった.
 CPSが行う,従来型の「子どもの保護・家庭との分離」,「ファミリー・プリザベーション」ではなく,予防を前提としたCPSとコミュニティの資源が寄り添う形でのサービス提供の必要性が重要視された.その背景には,虐待とまではいかないが,複合的な背景や要因を持つマルトリートメントのケースへの対応の重要性に気づいたことが重要である.これらのケースについては最初に通告された時点では,それほど深刻なリスクを抱えたケースでなくても,適切に対応されていない場合,一定の割合で深刻な虐待ケースになって再通告されていることが把握されたことが大きいことが把握できた.つまり,再通告ケースから複合的なマルトリートメント対応の重要性について,十分な対応がなされなかったという"教訓"が得られた.(以下,ネグレクトや複合的マルトリートメントについて,ネグレクト傾向と表記する.)
 ネグレクト傾向のケースでは、一般的により長期の支援サービスを必要とする。従って、子どもの保護を前提としたシステムによって提供される従来型のように分離・保護を前提としたサービスは効果的でない。また,すべてのケースを一つの対応方法で対応すると、死亡事例の対応など,重篤なケースのリスクなどに目がいくため,限られた資源が高負荷のインベスティゲーションに費やされる傾向がみられる.加えて,すべての通告に対して完全に調査介入を行うこととすると,リスクの高いケースへの対応が優先される.したがって,相反し,リスクの低いケースにはすぐにサービスを提供できないという結果を招いた。そして対応が行われなかった低リスクのケースの一部が高リスクケースへと移行し,再通告されていた。従って,事例が深刻化しないための二次予防が重要となる .調査介入と異なり,いかに家族に寄り添いながら,マルトリートメントが起こりにくいよう,地域の資源とつなぎ,いかにエンパワメントできるかが課題となる.
 Differential Response Modelはアメリカを中心に,増大するマルトリートメント通告に対して,ニーズに見合った対応を行うために導入された.特に,従来の調査介入モデルでは援助の対象となりづらかった低リスクのケースに対して,サポーティブでカスタマイズされたサービスを提供できるという点に大きな特徴がある.そのため,区分対応のみでなく,その後の援助の中で,当事者の参画や地域との連携など,当事者や地域のストレングスを高められるようエンパワメントに焦点が当たっているところが特徴的である.  

5.文 献

(参考文献は多数のため,当日配付資料にて紹介したい) 

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