子ども虐待対応における市町村の専門性に関する調査研究
-市町村における課題の現状と児童相談所の支援-
○ 神奈川県中央児童相談所 土橋 俊彦(会員番号7802)
日本子ども家庭総合研究所 有村 大士 (会員番号5180)
キーワード: 《子ども虐待対応》 《市町村》 《児童相談所》
これまで述べてきたように,2004年の児童福祉法等の改正により,市町村が第一義的な子ども家庭相談の対応機関に位置づけられた.そのことにより,市民サービスとしての子育て支援に加えて,子ども虐待への対応も市町村の業務となった.厚生労働省から市町村に示されている市町村児童家庭相談運営指針においては,対応に専門性が求められるケースは児童相談所が対応することなどが示されているものの,その役割分担等については,実質市町村が運営の役割を担う要保護児童対策地域協議会を中心に進行管理,情報の共有を行うとともに,分担については各市町村,児童相談所等の状況によって個別に検討することが求められている.
子ども虐待への対応は市町村の業務として従来求められていなかった.上記のように,新たな業務として示されたことにより子ども虐待へ対応する機関の幅が地域に広がる可能性がある.一方で国によって大まかな役割分担が示されているものの,まだまだ各自治体の見方や姿勢によって連携に幅があるのが実情と言える.しかしながら,先行文献を見てみると,区市町村,児童相談所それぞれに対していくつかの調査が実施され,輪郭が浮かび上がっている.
今後の展開を考えた場合,市町村と児童相談所の連携や役割分担を考える際に市町村と児童相談所を一体的に捉えることは必要不可欠であり,市町村と管轄児童相談所が比較可能な形での分析を行うこととした.
調査対象は比較可能な3県内の全ての,区市町村及び児童相談所とした.
分析にあたっては,区市町村が自らの自治体に対して記入した調査票と,児童相談所が個別の区市町村について記入した調査票が比較できるように分析を行った.
3.倫理的配慮
今回の調査では自治体単位で分析を行い,個別ケースを分析するものではない.加えて,統計ソフトにて,入力,分析を行い,自治体や児童相談所を個別に分析,公表しないこととした.
4.研 究 結 果 区市町村における子ども虐待の未然防止、早期発見、対応の取り組みについて、児童相談所の見解を把握した項目群について,プロマックス回転を伴う主因子法で因子分析を行ったところ,①地域資源の活用,②援助に関する専門性の担保,③連携対応という3つの因子が抽出された.また,同様に児童相談所からみて区市町村が対応に苦慮していると思われる項目群に対して因子分析を行ったところ,①アセスメントと援助の見立て,②組織としての判断・対応,③援助技術」,④対応の二重構造,⑤要保護児童対策地域協議会の支援の5つの因子が抽出された.
なお,区市町村からみた役割分担のあり方について,回答パターンを把握するためにクラスター分析を行ったところ,2群に分類できた.行政区では児童相談所が対応というものの割合が大きいものの,それ以外は自治体の行政規模が小さいほど児童相談所がより関与した方がいいと考えていることが分かった.
また,パーティション分析を行った結果,回答者の属性も大きな影響を与えていることが分かった.回答パターンにもっとも大きな影響を与えていたのは自治体の種別で,①行政区,町村,人口10万人以下の市のようにもともと児童相談所が対応すべき業務の割合が高い自治体と,②人口10万人以上の市,児童相談所設置市,中核市といったように市町村で対応すべき割合の高い自治体種別で別れた.さらに,①では,経験年数,専門資格が影響しており,①でもっともクラスター2の割合が高くなっているグループは,経験年数が1年以上3年未満で,専門資格として保健師,あるいは資格のないグループであった.一方,②では,経験年数が最も大きく影響を与えており,経験年数3年以上の場合,すべて市町村で対応すべきという業務の割合が高いことが分かった.これによりある程度経験年数を確保し,専門職が継続して業務を行ったほうが,より区市町村の担当者が役割を担いやすい,あるいはイメージを持って仕事をしやすいことにつながると考えられる.
調査・分析全体を通じて,様々な項目に大きな影響を与えていたのがやはり自治体の規模である.規模が大きい,つまり人口が多い自治体種別の方が人材配置,特に専門資格を持った職員を常勤で配置する余力があり,そのため自己評価,あるいは児童相談所からの評価も高くなることが分かった.一方で,財政規模が小さいことが予想される町村では,兼任でかつ専門資格がない,あるいは様々な保健,および福祉のサービスを担う保健師が兼任,また場合によっては非常勤で相談援助を担う役割とされていることが分かった.このため,町村の自己評価は低く,加えて児童相談所の評価よりも低い評価を付けていた.言い換えるとマンパワーも含んだ力量が不足している上,さらに自信も喪失している状態が示された.