自由研究発表児童福祉5  本間 英治

規制緩和による保育の質の変化に関する研究
 -保育士と子どものやりとりの中から-

○ 日本福祉大学大学院  本間 英治 (会員番号7870)
キーワード: 《保育の質》 《規制緩和》 《保育制度》

1.研 究 目 的

 2005年からはじまった実質的な人口減少に伴い、少子化問題は深刻化している。しかし、子ども数が減っても共働き世帯の増加等を受けて、保育園入所希望児童が増加している。この需要増に保育所整備等が追いつかず、入所できない待機児童が大量に生じている。
 これらの待機児童対策や少子化対策に伴い、入所定員の弾力化で定員増の受け入れや短時間保育士や非正規職員の割合増、保育園の設置要件の緩和など、保育制度における様々な規制緩和が行われてきた。さらに保育ニーズは多様化し、地域における子育て支援の場としての期待や、延長保育、一時保育、病後児保育等を実施している保育園も多くある。
 そこで本研究は、この規制緩和の流れや保育ニーズの多様化が保育の現場にどのような影響をもたらしているのかを明らかにするために保育園の実態を調べ、より良い保育を実践するためには、保育園や保育士はどうあるべきかについて検討することを目的とする。  

2.研究の視点および方法

 規制緩和が保育園にどのような影響をもたらしているのかについては「保育・子育て全国3万人調査」や「保育者の労働環境と専門性に関する調査」等など、多くの研究・調査が行われてきた(村山科研:2007,垣内・東社協:2007)。これらの調査によれば、規制緩和によって、「保育園にゆとりがない」「子どもの安全を守れない」と感じながら働いている職員がいることや、職員自身が過重労働を実感しながらも日々絶え間ない努力で子どもたちと向き合っている現場の実態は明らかにされている。しかしながら、保育の質の中心問題とされている保育士と子どもの具体的な保育場面におけるやりとりの中にどのような変化があったかについての分析は少ない。
 そこで本研究では、保育士が子どもたちに対してどのように携わっているかを具体的な保育場面でのやりとりを中心として調べる調査アンケートを作成した。規制緩和がもたらした影響の実態を把握するために、様々な制度・規制が緩和・転換され始めた2000年4月頃との10年前の比較を通して、現在の保育園における保育士と子どものやりとりの実態を明らかにする。2000年に施行された介護保険制度や同年に改正された社会福祉法よる「措置」から「契約」への転換の流れは保育の分野にも及ぶようになり、2000年以降、保育制度の規制緩和も進んだ。これらの規制緩和の流れを踏まえ、アンケート対象者はA市内にある公立保育園、私立保育園、認可外保育園22ヶ所で現在保育業務に10年以上携わっている現場の保育士等の方々147名にお願いした。  
 リサーチクエスチョンは以下の2つである。
1.規制緩和や保育ニーズの多様化により、一人ひとりの子どもとのやりとりの時間が   減少している
 「心のこもった挨拶ができていない時がある」「待っててね。あとでねといった言葉が多くなった」「子どもの発見や驚きに共感してあげられない場面が増えた」などの保育園での具体的な保育場面における保育士と子どものやりとりの中から、どのやりとりに変化が生じているのか、どの規制緩和政策が影響しているのかを検証する。
2.規制緩和や保育ニーズが多様化しても保育の質が保たれている保育園は存在する
 定員増の受け入れを実施していても、職員間の連携や職員配置、環境構成等で保育の質が保たれていると実感している保育士がいれば、その方々に対してインタビュー調査を行い、質が保たれている要因を探る。  

3.倫理的配慮

 日本福祉大学大学院倫理ガイドラインに基づき、調査施設の施設長および調査対象者となる職員に対しては、研究の趣旨と倫理的配慮等について文書および口頭で説明した。回答の強制は行わず、調査票の回答をもって同意が得られたこととした。また、収集したデータについては個人を特定できない形で分析を行った。 

4.研 究 結 果

 本調査においても、「保育園にゆとりがない」と感じながら働いている職員がいることは調査結果から明らかになった。その影響は、「子どもの活動の場面で最後までゆったりとした気持ちで待ってあげられていない」「早くしましょうと、せかしてしまう言葉が多くなった」といった子どもとのやりとりの中で感じていることが分かった。しかしその反面、同じやりとりの中でも「心のこもった挨拶ができていない」や「子どもの体調の変化にすぐに気が付かないことが多くなった」の問いに対しては、変化を感じていない職員がいることも明らかになった。 「現在の保育の質について、不安に思うことがある」の問いに対しては、「保護者の状況が年々変化している」「園児の人数が多く、丁寧な対応ができない時がある」などの不安を感じている職員がいることが分かった。しかし、「不安に思う理由」については、規制緩和の影響だけではなく、「気になる子の増加」を挙げている職員がいることが示された。
 現在、調査は継続しており、全体の集計結果は学会当日に発表する。  

5.文 献

大宮勇雄(2006)『保育の質を高める』ひとなる書房
垣内国光・東社協保育士会編者(2007)『保育者の現在』ミネルヴァ書房
村山科研(2007)『「保育・子育て全国3万人調査」の概要』保育情報368  

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