自由研究発表児童福祉5  平澤 一郎

小児がんサバイバーにとってのセルフヘルプ・グループ参加の意味
 

○ 長岡情報ビジネス専門学校 こども医療保育科  平澤 一郎 (会員番号2484)
キーワード: 《小児がんサバイバー》 《セルフヘルプ・グループ》 《修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ》

1.研 究 目 的

 細谷(2008)によると、20歳未満に発生するがん(小児がん)は年間3000人ほどであるとされており、子どもの人口1万人に1人強の割合で小児がんは発生している。かつて小児がんは不治の病とされていたが、現在治癒率は7~8割になった。小児がんは治る病気にとなったが、治療の影響による後遺症(以下、晩期障害)の問題が近年では明らかになっており、晩期障害の恐れがあることから、小児がんの治療が終了した人(小児がんサバイバー)は退院後も自己の体調管理がより必要になる(細谷2008)とされている。Keene(2006)によると、病気を治すために行なわれた手術、放射線治療、化学療法、移植などは成長発達途上にある身体や心に影響を及ぼし、それが晩期障害として、後々生じてくる可能性がある。そして小児がんサバイバーは仕事上の差別、保険加入の困難、感情面や社会面の困難に遭遇することになるだろう。
 上記の問題に対し、小児がんサバイバー同士が集まるセルフヘルプ・グループ(以下SHG)の必要性が様々なところで述べられている(石本2002)。一般的なSHGの効果としては伊藤ら(2001)によると①仲間と会うことで孤独感から解放され、問題に向き合う気力が沸いてくる②メンバーと話すことで自分の問題が明確になるなどがある。しかし、小児がんに関する研究では実際に小児がんサバイバーのSHGに焦点を当てた研究は少ない。
 本研究ではSHGに参加を続けている小児がんサバイバーに注目し、彼らがSHGに参加を続けてきた中で、どのような意味や価値を見出してきたのかを明らかにすることとした。  

2.研究の視点および方法

 データ収集:関東以外の全国3都市で活動しているSHGから計15人を対象とした。
 調査協力者:成人に達した小児がんサバイバーの中でも3年以上SHGに参加している人に対し2~4名ずつグループインタビューを行った。
 質問項目:①SHGに参加したきっかけ②現在SHGで行っている活動への思い③なぜSHGを続けているのか④今後のSHGへの思い
 分析は質的研究方法の1つである、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下M-GTA)に準拠して行った。  

3.倫理的配慮

 本研究における、小児がんサバイバーへのインタビュー調査は「ルーテル学院大学研究倫理委員会(申請番号08-48)」において、倫理審査を受け承認されたものである。  

4.研 究 結 果

 調査の結果、小児がんサバイバーがSHGに意義を見出していくプロセスから18の概念とその概念をいくつかまとめて5つのカテゴリーが生成された(≪≫がカテゴリー、<>が下位概念)。
 ①<同世代間での孤立><「病気の自分」との向き合い方に苦しむ><明確な悩みもなくSHGに参加する>をまとめたカテゴリーが≪居場所を求める≫。②<同じ病気の人に出会えた喜び><病気体験のわかちあい><安心感を得る><思いのわかちあいを体験しない>をまとめたカテゴリーが≪SHGが安全・安心な場になる≫③<病気体験を活かしたい><病気体験の辿り直し><役に立ったことの実感><使命感を持っての活動>をまとめたカテゴリーが≪SHGが自己実現できる場になる≫。④<よい居場所をつくりたい><SHG運営の難しさを実感>をまとめたカテゴリーが≪SHGが次の世代に残したい場になる≫。⑤<職業選択や仕事内容にも影響><病気への向き合い方が変化する>をまとめたカテゴリーが≪新たに自分の居場所を作る≫となった。
 また、小児がんサバイバーがSHGに参加してターニングポイントになったこととしては以下の2点がある。SHG内外において各小児がんサバイバーが役割を得ることでSHGの活動に積極的に取り組むようになる<役割の獲得>とSHGの役割を通して自分の社会的存在を確認し、自分が生きていることを改めて実感する<存在価値の確認>がある。先の5つのカテゴリーと18の概念を総合的に捉え直して分析した結果、小児がんサバイバーにとってのSHGは「安全基地となる場」と「自己実現を可能にする場」の2つの意義があると確認できた。
 そして、小児がんサバイバーのSHGで特徴的であったこととしては以下の3点である。①自己管理に関する情報についての語りは表出されなかった②自分の病気体験を活かしたいという気持ちが強く、それがSHGの活動内容にも反映されている③病気を体験したことが動機になり、医療や福祉に関する仕事を選ぼうと思ったり、実際にそうした仕事に就いた後もSHGでよい刺激を受けている。
 また、本研究の限界としては調査協力者がSHGの活動に馴染んだ方ばかりであったため、SHGでのマイナス点にはあまり触れられなかった。また、調査対象が少数でデータ収集に限界があり、M-GTAに忠実に沿い、理論的飽和化まで分析が行えなかった。  

5.文 献

細谷亮太(2008)『小児がん』中公新書。
Keene,Nancy.,Hobbie,wendy and Ruccione,Kathy(2006)Childhood Cancer Survivors:A Practical Guide to Your Future second edition,O'Reilly & Associates 。
石本浩市・吉田雅子(2002)「小児がんのキャリーオーバー」『小児看護』25(12) 1619-1622。
伊藤伸二・中田智恵海編著(2001)『知っていますか?セルフヘルプ・グループ一問一答』解放出版社。  

↑ このページのトップへ

トップページへ戻る


お問い合わせ先

第58回秋季大会事務局(日本福祉大学)
〒470-3295 愛知県知多郡美浜町奥田
日本福祉大学 美浜キャンパス

受付窓口

〒170-0004
東京都豊島区北大塚 3-21-10 アーバン大塚3階

株式会社ガリレオ 学会業務情報化センター内
日本社会福祉学会 第58回秋季大会 係

Fax:03-5907-6364
E-mail: taikai.jsssw@ml.gakkai.ne.jp