自由研究発表児童福祉5  厨子 健一

アメリカにおけるスクールソーシャルワーク研究の新たな展開
 -メゾ・マクロレベルの変革への着目-

○ 大阪府立大学大学院  厨子 健一(会員番号7689)
キーワード: 《スクールソーシャルワーク》 《メゾ・マクロレベルの変革》 《ジェネラリスト・ソーシャルワーク》

1.研 究 目 的

 本研究は、アメリカのスクールソーシャルワーク(以下、「SSW」)研究に基づいて、SSW研究に関する新たな知見を探求する試みである。  
 近年、わが国におけるSSWに対する関心は、研究・実践両面において高まりを見せている。それに伴い、当該領域では新しい知見が提供されている。しかしながら、SSWに関する既存研究の詳細なレビューを通じて、体系的な研究を行っているものは思いの他少ないといえる。そのため、スクールソーシャルワーカー(以下、「SSWer」)について、そもそも、どのような役割を担うのか、スクールカウンセラーとの違いは何なのかといった議論が、未だ多い状況である。それゆえ、SSWerを定着させていくためには、SSWの内実について、アカデミックな視座からの検討が必要不可欠であると考える。  
 本発表では、近年アメリカで注目されているSSW研究について詳細に考察を行うことで、新たなSSW研究の展開を明らかにすることを目的としている。  

2.研究の視点および方法

 本発表は、学校改革が行われた1980年代半ば以降のSSW研究に焦点をあてる。学校改革とは、1983年に『危機に立つ国家(A Nation at Risk)』が提出されて以来、アメリカの深刻な学力低下や子どもの複雑な問題に対して、学校が家庭、他機関そしてコミュニティを視野に入れて援助を行おうとする動きのことである。
 この時代に焦点をあてた理由として、1970年代にSSW研究は隆盛期を迎え、研究が爆発的に行われたものの、いくつかの問題点を抱えていたため、隆盛期の加熱ぶりとは反対に、あまり理論的発展が見られなかったことがいえる。その問題点とは、困難な全体像の把握、インパクトのある研究の相対的な少なさ、そして障害者に関する法律の制定であった。以上の問題点が、適切な問題設定をしづらくし、体系的に研究をまとめることを妨げていた。
 そこで、1980年代半ば以降のSSW文献を見てみると、SSW研究は学校改革の動きに従って展開していた。この時代以降の研究を明確にしていくことによって、SSWerに対する専門性、他専門職との差異に関する将来の不安に対して、ある一定の解決策を導いてくれる可能性があると考えた。  
 本発表では、主に1980年代半ば以降のSSW研究を渉猟し、文献からSSW研究の新たな展開について明らかにする。  

3.倫理的配慮

 本研究は、日本社会福祉学会研究倫理指針に従って実施した研究の一部を報告するものであり、発表もまた同研究指針「引用」「学会発表」項目に記載されている内容を遵守して行う。 

4.研 究 結 果

〔発見事実①〕SSWのメゾ・マクロレベルの変革の必要性の明確化
 貧困、家族構造の変化、コミュニティ秩序の崩壊、そして薬やアルコールの普及が、多くの子どもに深刻な影響を与えている。それに伴い、SSWerは、自分たちの実践アプローチを拡大、そして再定義し、治療的介入ではなく、予防的介入を積極的に行っていかなければならないことが強調されていた。具体的には、学校組織の意志決定の場に参画することや、コミュニティのプログラム決定に影響を与えるといった、組織やコミュニティの変革を目的とした介入である。
 現在のSSW研究では、個人の変革を目的とした介入に焦点をあてるだけにとどまらず、さまざまなシステムサイズの変革を目的とした介入が必要となっていた。このことは、定義の差こそあれミクロ・メゾ・マクロレベルの変革を目的とした介入の必要性とも言い換えることが可能であり、特にSSWerには、メゾ・マクロレベルにおける役割が注目されていた(Clancy 1995;Allen-Meares 1996;Frey & Dupper 2005など)。そして、メゾ・マクロレベルの変革に向けた役割を明確にすることによって、予防的視点が強調されている学校現場の改革の流れの中で、SSWerは生徒支援の専門職として位置づけていけるという考えが多く指摘されていた。

〔発見事実②〕SSW研究に関する新たな視点の提示  
 従来のSSW研究では、「SSWerの役割拡大」「メゾ・マクロレベルへの介入の必要性」「政策に影響を与える必要性」といった、幾分、曖昧に述べられていたSSW研究を、その議論前提の違いによって、3つの研究領域に分類した。3つの研究領域とは、①学内外連携、②コミュニティワーク、③政策的活動である。①は、学校とコミュニティにおけるサービス機関とのつながりを形成することであり、そのつながりは一時的なものではなく、子どもの予防に向けた一定の結びつきを意味するものである。②は、子どもの貧困、虐待、そして10代の妊娠などの問題が深刻化し、学校だけでの支援では対応が困難であり、子どもの生活をコミュニティ全体で支援していくための体制作りを意味している。最後に、③は、学校内やコミュニティ全体で、物事の意志決定を行う際の政策的アプローチを意味している。
 以上3つの研究領域の中で、SSWerはメゾ・マクロレベルの変革に向けた役割を求められていることを明らかにした。  

5.文 献

Allen-Meares,P.(1996).Social Work Services in Schools:A Look at Yesteryear and the Future.Social Work in Education,18,202-208.
Clancy,J.(1995).Ecological School Social Work:The Reality and the Vision.Social Work in Education,17,40-47.
Frey,A.J.,& Dupper,D.R.(2005).A Broader Conceptual Approach to Clinical Practice for the 21st Century.Children & Schools,27(1),33-44.  

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