自由研究発表児童福祉4  倉石 哲也

学齢期子育て支援講座のアウトリーチ型プログラムの評価に関する研究
 -プログラムの標準化と人材養成の視点-

○ 武庫川女子大学  倉石 哲也 (会員番号1618)
キーワード: 《アウトリーチ》 《プログラム評価》 《人材育成》

1.研 究 目 的

 A市総合児童センターでは、2001年度から学齢期の子どもを持つ親を対象とした子育て講座(1クール7セッション、年3クール開催)が継続的に実施されてきている。この学齢期子育て支援講座「PECCK(Parents’ Empathic Communication with Children in Kobe)」(以下センター型、PECCK)は、総合児童センター1か所で年に3回開催するという点で、市内のすべての受講希望者が利用できるわけではないという制約があった。そこで、このプログラムを地域に展開するという目的で、1クール2セッションの地域版「PECCK-Mini」(以下アウトリーチ型、PECCK-Mini)を新たに開発し、これを2008年度~2010年度にかけてA市内を含む3市15か所(本年5月末)で実施した。
 本研究の目的は、既に実践されているアウトリーチ型プログラムの評価とプログラムを運営し進行を行う人材の養成のあり方について考察しようとするものである。 

2.研究の視点および方法

 アウトリーチ型プログラムの評価を行うために開発を試みた質問項目は、PECCKプログラムの最終日にプログラム参加者を対象に実施してきたアンケート結果(自由記述部分)から引き出されたものである。この終了時アンケートでは、「講座の参加を通してあなたの成果になったこととは何ですか」という問いに自由に記述するようを求めている。自由記述の内容は、主に「親の(自身および子どもに対する)認識・行動の変化」と「(親から見た)子どもの変化」に大別された。質問項目の作成に当たっては、「親の認識・行動の変化」にかかわる記述に着目した。これは、まず親自身の子どもへの情緒・態度・行動が変化し、PECCK-Mini受講後の時間の経過の中で、子どもの変化が見られるようになるであろうという仮説に基づいて「親自身の認識・行動」に焦点化しようとしたものである。
 尺度開発の第1段階として、これまでのPECCK参加者(104名分)の終了時アンケートにおける「親自身の認識・行動」に関する自由記述から、複数のカテゴリを抽出する作業をおこなった。「親自身の認識・行動」に関する記述の多くは、PECCK参加前の親自身の自己評価と終了時のそれとの比較の結果としての、終了時における【①親の自分自身対する認識・行動の変化(例;○○だったのが●●になった)】カテゴリと、【②親の子どもに対する認識・行動の変化(例:▽▽が▲▲に変化した)】カテゴリに大別できた。
 尺度開発の第2段階として、尺度項目を作成する前段階としておこなったカテゴリ化の結果の妥当性を検討した。具体的には、子育てにかかわる負担や不安について、学齢期の子どもを持つ親が示しやすい、望ましくない行動の循環に焦点化した先行研究と照らし合わせた。
 尺度構成の第3段階は、尺度構成のための質問項目の作成作業がである。取り出された下位カテゴリに相当する自由記述の数は同程度ではなく、全体的な傾向としては、②のカテゴリの記述数、とりわけ、子どもに対する情緒・態度・行動の記述数が①のカテゴリの記述数よりも多かった。そこで、①に関しては一つの下位カテゴリに1項目ずつ、②に関しては<子どもに立場に立つ>の下位カテゴリに1項目、残りの3つの下位カテゴリ(情緒・態度・行動)に3または4項目を作成した。結果、20項目が尺度構成のための質問項目とされた(当日提示)。
 尺度構成の第4段階は、20項目を用いた調査を行った。時期は2008年11月~2009年5月であった。質問項目には6件法で、自分にあてはまるものを1つずつ選ぶように回答者に求めた。データの分析にあたっては、基本的にSPSSバージョン17.0を使用した。平均値の差に関する分散分析のみ、JavaScript-STARバージョン5..5.0jを利用した。その結果として、20項目中19項目のデータを対象に、因子分析(バリマックス回転)をおこなった。以上の過程を経て、PECCKおよびPECCK-Miniの受講直後における「親の認識の変化」を測定する尺度は15項目となり、≪受容・共感≫尺度(8項目)、≪支配・被支配≫尺度(4項目)、≪自責・焦燥≫尺度(3項目)で構成されるものと決定した。そして、この尺度を用いてPECCK-Miniの評価を行うために、受講者に講座開始前(プレ)、講座終了時(ポスト)にアンケートを実施し、2回共に受講した者に講座終了1カ月時(ポ・ポスト)に同様のアンケートを郵送し、3時点での尺度得点を測定することとした。 

3.倫理的配慮

 参加者には事前に主旨と情報の取り扱いについて口頭で説明を行い、また回答アンケートにも同様の説明書きを載せ、同意を得た方からのみ回答を得ることとした。 

4.研 究 結 果

 結果36名からプレ、ポスト、ポ・ポストについて回答を得ることができた。3時点での受講者の変容の傾向を統計的に確認するために、1要因(3水準)被験者内の分散分析をおこなった。≪受容・共感≫に関しては、時期による主効果が得られた(F=2.93、df=2、p<.10)のに加え、残差分析(有意水準5%)によって、講座開始時(プレ)の時点と講座終了後1ヵ月後との間で明らかな差が見られた。≪被支配・支配≫に関しては、時期による主効果が得られた(F=4.37、df=2、p<.05.)に加え、残差分析(有意水準5%)によって、プレの時点と1ヵ月後との間に明らかな差が見られた。これに対し、≪自責・焦燥≫についても、時期による主効果が得られた(F=6.64、df=2、p<.01)のに加え、残差分析(有意水準5%)によって、プレの時点と1カ月後との間およびポストの時点と1カ月後との間に明らかな差が得られた。これらの結果から、PECCK-Miniを受講した36名は、受講1か月後になって、子どもの養育に対する「受容・共感的な認識と態度」を高め、「被支配・支配の認識と態度」および「自責の念や焦燥感の認識や態度」については、明らかに減じていることが実証されたと言えよう。

5.研究の課題-人材の育成

 本研究は、PECCKの講座終了時における即時的効果と、講座終了後1年後におけるインタビュー調査から得られた持続的効果の連続性で行われたものである。PECCK-Miniは様々な人材が講座の運営にあたっている。例えば元講座の受講者、ボランティア養成講座終了者、社会人大学院生等である。今回の結果からは、担当者が代わってもプログラムの効果はポジティブとなることが推測可能である。つまり、PECCK-Miniはある程度標準化されたプログラムであると示唆することが可能ではないかという点と、今後は人材育成の方法について標準化を行うことである。これによって学齢期の子育て支援が地域社会で展開されることが期待できると考えている。 

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