自由研究発表児童福祉4  近棟 健二

「気になる子育て家庭」調査結果における子育て支援者の属性にみる特徴
 -大阪府「親と子のあゆみ育むプロジェクト」研究調査より-

○ 種智院大学   近棟 健二(会員番号7006)
プール学院大学短期大学部  寺田 恭子 (会員番号5263)
貝塚市社会教育委員  梅原 直子 (会員番号7037)
キーワード: 《子育て支援》 《支援者》 《ネットワーク》

1.研 究 目 的

 保育所、子育て支援センター、保健センター、幼稚園、つどいの広場、家庭児童相談室など地域の現場では、多様な子育て支援者が支援活動を行っている。しかし、子育て支援者がどのような状況にある家庭を「気になる」と感じているのかについて必ずしも子育て支援者の間で共有されているわけではない。
 本研究では、子育て支援者がどのような状況にある家庭を「気になる」と感じるのかに焦点をあて、どのような状況にある家庭を子育て支援者が「気になる」と感じているのか、また、職種や専門性、子育て経験の有無など子育て支援者の属性が「気になる」感じ方にどのような影響を及ぼしているのかを調査によって明らかにすることを目的とする。  

2.研究の視点および方法

 調査は、大阪府下5市町において、未就学児がいる家庭を対象に支援を行っている子育て支援者を対象とした。1市町につき、行政機関・組織に属する子育て支援者30名と民間組織に属する子育て支援者30名の合計60名を対象として、5市町合わせて300名に、平成21年11月から12月にかけて調査紙を配布し、自記式の回答を求めた。回収数は284部、回収率は94.7%である。  
 質問項目は子育て支援者が「気になる」と感じる項目、性別、年齢、資格などの基本属性、子どもの有無、子育て経験の感じ方などの当事者性である。
 子育て支援者が「気になる」と感じる項目については、プロジェクトメンバーである大阪府下5市町の行政職員、NPO法人代表によるブレーンストーミングを行うとともに、各市町内における子育て支援者による意見交換を行い、「気になる」と感じる項目として挙げられた344事項を小項目とした。次に、344の小項目の内容を検討し、内容が類似している項目を28項目に分類して、中項目とした。さらに中項目を再検討して統合し、16の大項目を設定した。その際、小項目についても再度精査を行い、同義項目をまとめた。その結果、16の大項目と、これらの下位項目として55項目をおくこととした。
 この55項目を質問項目として、子育て支援者が「気になる」と感じる項目に該当するかを調査対象者に6件法で質問し、「非常によくあてはまる」6点から「まったくあてはまらない」1点までとして得点化した。
 次に55項目の因子分析(主因子法、プロマックス回転)を実施し、各因子を構成する項目の信頼性係数(Cronbachα=.633~.912)を確認した上で、それぞれの因子の下位尺度得点を用いて支援者の属性による比較を行った。  

3.倫理的配慮

 質問紙配布時に、調査の趣旨と共に得られたデータは統計的に処理を行い、個人情報が外部に漏れることはないという説明を添え協力を依頼した。 

4.研 究 結 果

 子育て支援者が「気になる」と感じる55項目全体の平均値は4.32となった。平均値が最も高い項目とその値は、「親が精神的に不安定である」で5.11、次いで「子どもに視線を向けていない」で5.02である。
 次に55項目の因子分析を行った結果、『危惧されるふるまい』『過剰なふるまい』『ルーズなふるまい』『自信のなさ』『子どもに関する悩み』の5因子が抽出された。
 支援者の属性による特徴をみるために5因子の下位尺度得点についてt検定を行ったところ、支援者の子どもの有無では、子どもがいる支援者の平均値が『危惧されるふるまい』『自信のなさ』で有意に高い結果となった。支援者の資格の有無では、「看護師」の有資格者の平均値が『危惧されるふるまい』で有意に高くなり、「保健師」の有資格者の平均値が『危惧されるふるまい』『子どもに関する悩み』で有意に高い結果となった。また、「幼稚園教諭」の有資格者の平均値が『危惧されるふるまい』『過剰なふるまい』で有意に低い結果となった。
 次に支援者の所属している機関・機関による特徴をみるために一元配置の分散分析を行ったところ、「行政保健部門」に属する支援者の平均値が「保育所・幼稚園」「NPO・ボランティア」に比べて『危惧されるふるまい』で有意に高い結果となった。また、「行政保健部門」「子育て支援センター」に属する支援者の平均値が「保育所・幼稚園」に比べて『子どもに関する悩み』で有意に高い結果となった。
 以上の結果から支援者の属性により、「気になる子育て家庭」の捉え方に違いがみられることが分かった。その違いを踏まえたうえでより効果的に子育て家庭への支援を行うために次の三点が必要であると考える。
 一点目は支援者自身の自己覚知を進めることである。子育ては日常的な行為であり、支援対象者に対しても、支援者自身の経験を反映してしまいやすいため、支援者は自身で、どのような家庭を「気になる」と感じるのか、その傾向を知っておくことが求められる。様々な資格を有する支援者についても、その資格による傾向を自覚することが求められる。
 二点目は支援者相互での「気になる」感じ方の把握と理解である。本研究においては問題発見が求められるスクリーニング型の機関・組織で、比較的高いリスクの家庭に対応している「行政保健部門」と、日常の支援を求められる寄り添い型の機関・組織で、比較的リスクが低い家庭に対応している「保育所・幼稚園」「NPO・ボランティア」の違いがみられた。それぞれの機関・組織に求められる役割と、直面している状況による違いを相互に把握し理解する必要がある。
 三点目はネットワークによる支援である。多様な価値観を内包した子育て家庭を多面的に捉えるためには、本研究においてみられた属性による違いを活かした様々な職種や機関・組織による支援が求められる。
 なお、本研究は児童環境づくり基盤整備事業費補助金の交付により実施した。  

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