障害児に対する家族的役割と地域生活支援
-保護者による質問紙調査からの基本的問題推考-
○ 東北福祉大学 小崎 浩信 (会員番号4447)
東北福祉大学 阿部 利江 (会員番号7795)
東北福祉大学 千葉 伸彦 (会員番号6188)
東北福祉大学 広浦幸一 (会員番号1730)
キーワード: 《家族的役割》 《社会参加》 《地域ネットワーク》
限られた地域環境のもとでの日常生活をすごす,障害のある児童やその家族は,おおかた社会との接点に乏しい傾向である。それゆえに,一般的に人が経験するであろう体験において希薄な状況を否定できない。昨今の現状からみても,地域で暮らしていくことさえも,困難性を感じている人やその家族が少ないとは言えない。
本研究では,特別支援学校に通う児童が地域で生活をしていくために活用されている福祉サービスの実態と,家族が果たすべき役割を調査し,これからの社会参加のあり方に関する潜在化する基本的問題を推考し,検討することを目的とした。
2.研究の視点および方法
1)研究の視点
障害のある子どもをもつ保護者は,わが子の将来を見据え,発達や就労,そして地域生活に期待をこめ,より高い教育や福祉サービスを望む。ところが,その思いに応えるだけの環境整備や人員配置が少ない環境下では,教育や福祉サービスの潤沢な活用は果たしにくい。また,利用者にとって満足度の高い教育や福祉のサービスがあったとしても,「家族による扶養」が当然といった社会的認識があり,障害の受容とそれに見合った支援の展開に至るとは言い難い。
したがって,障害のある子どもやその家族が社会生活を営むうえで,積極的な社会参加を可能とする,地域ぐるみの障害理解や地域とのつながりといったネットワークが必要となろう。
2)対象と手続き
本研究における調査の対象と方法は,A特別支援学校の担任を通して在籍する児童生徒の保護者155名を対象に質問紙調査を実施した。回収数は92名,回収率59.3%であった。調査期間は平成21年10月である。
3.倫理的配慮
調査の結果は統計的に処理を行い,個人が特定できないよう配慮することを調査用紙に明記し,対象者に同意を得た。
4.研 究 結 果
1)福祉サービス利用の実態について
調査対象としたA特別支援学校の児童は,約7割(69.2%)が福祉サービスを利用していた。福祉サービスの利用と保護者の仕事の有無に関係性があるかは一概に言い難いが,やはり仕事をしている家庭が,福祉サービスを利用している傾向が示唆された。
つぎに,「福祉サービスを利用することによって社会的な経験の拡大につながっている」と満足する声が約8割(74.2%)の保護者から聞こえた。また,「活動場所が増えた」と回答した結果も半数以上(57.4%)から得ることができた。よって,学校や家庭以外の第三の居場所として児童福祉サービス事業所が位置づけられていることがわかる。
2)家族が果たす役割について
地域の中で,障害のある子どもたちが生活をしていくために家族が果たす役割とは何か,保護者からの自由記述(52項目)を筆者らが6つにコーディングした。調査の結果(カッコ内は有効パーセント),「地域・社会活動への参加(32.7%)」,「社会性を身に付け,自立への支援(17.3%)」,「家族が精神的にも健康で暮らす(15.4%)」,「子どもとともに暮らす(13.5%)」,「行政・地域へ働きかける(9.6%)」,「親なき後のことを考え準備をする(11.5%)」となった。
特に多くあげられた「地域・社会活動への参加」は,子どもの障害を隠すことなく周囲に理解をしてもらい,積極的に地域と関わりたいとする考えである。また,「社会性を身につけ,自立への支援」については,子どもに様々な経験をさせ,その経験を通して生活習慣を身につけさせたいとする考えからでもある。この点は,障害をもつ子どもの親に限らず,子を持つ親としての万人における切実な願いでもある。
以上の調査結果より,障害のある子どもとその家族は,限られた空間の中で生活をしている傾向がうかがえ,広がりのある人間関係を築く経験や機会に乏しいといえる。人と人とのつながりや,社会とのつながりを実感できる機会として,地域における居場所の確立や地域に根ざした活動への興味向上と参加率を高める工夫が肝要であろうし,その局面が整っていることが前提で,家族の果たせる役割が大幅に拡大されると考えられる。