自由研究発表児童福祉3  大原 天青

児童養護施設における支援方法の類型と子どものタイプの関係

○  上智大学大学院   大原 天青 (会員番号7674)
キーワード: 《児童養護施設》 《生活場面面接》 《治療的養育》

1.研 究 目 的

 児童虐待防止法の施行により社会的にも取り組まれるようになった児童虐待は、90年代の「早期・発見対応」の論説から,「予防・分離・保護後のこころのケア」についての課題があげられているようになった(保坂他,2006).現在では,地域レベルでの発生予防や家庭から分離し児童福祉施設に措置される子どもへのケアに関する研究のニーズが高いことが示されている.
 虐待を受けて家庭で生活できなくなった子どもの多くは児童養護施設に措置される.そこでの養育や支援は子どもの示す問題行動が大きく,被虐待児の割合が高まると秩序や安全を保つことが困難な現状である(滝川ら,2001)。このような状況で,心理職の配置が進められつつあるが,従来の1時間の枠の中で行われる心理療法,つまり古典的な力動的精神療法のみで被虐待児の治療を行なおうとするのであれば期待される役割を果たすことは困難である(杉山,2006a)。むしろ、日常生活場面で関わるケアーワーカー職の援助技術の再評価および,新たな技術の開発(藤岡,2001)といった,より専門的で多くの問題に対応できる直接支援職員の援助技術や理論が必要とされている.
 大原(2009)は、児童養護施設の支援方法を理論的・実践的な視点から量的調査により作成している。ところが、こうした支援の効果的な組み合わせや子どものタイプとの関係については明らかにされていない。そこで、本研究ではクラスター分析により支援の組み合わせを明らかにし、子どもの情緒と行動の違いによる支援の方法を明らかにすることを目的とする.  

2.研究の視点および方法

 A県内の児童福祉施設協議会に加盟する児童養護施設に調査の依頼を行い,協力の得られた10施設・128名である.回収率は,約60%である.平均年齢30歳(SD=3.84),勤務年数5.5年(SD=4.99)であった.対象者に、現在から過去6ヶ月の間に、支援のチェックリストとChild Behavior Checklist/4-18(子どもの行動チェックリスト,以下CBCLと示す)を無作為に選抜した担当児童についてそれぞれ,どの程度あてはまるか,「1まったく当てはまらない」から「4よく当てはまる」の4件法で回答してもらった.支援のチェックリストの113項目は、児童養護施設で働く直接処遇職員計8名を対象としたインタビューとトラウマ理論,愛着理論,認知理論,行動理論の4つの視点から作成したものである。分析はSPSS18.0Jを用い、因子分析、クラスター分析、分散分析をおこなった。 

3.倫理的配慮

 調査票に以下の3点を明記した。①万一,途中で続けることが困難になった場合中止していただいてよいこと,②回答は,研究のみに使用し統計的に処理されること,③施設名や個人名および個人情報等が特定されることはないことである。 

4.研 究 結 果

(1)対象者の属性:人数は全体で128人,性別は1対1,小学生と中学生の比率は2対1であった。虐待のあった群(Abuse群:以下A群とする)は88人,なかった群(Non Abuse群:以下N群とする)は40人であった。全体に占める割合は,A群が61%,N群は38%であった。さらに,虐待の種類では,重複も含めてカウントしたところ,身体的虐待は36人(27%),心理的虐待は20人(15%),ネグレクトが44人(33%),性的虐待は4人(3%)であった。
(2)クラスター分析:因子分析によって得られた14因子(「不安感情の言語化」「ペアレント・トレーニング」「自尊心の回復」「愛着の形成」「環境への働きかけ」「愛着の器」「心理教育的働きかけ」「認知への働きかけ」「信頼感の形成」「子どもと職員のアセスメント」「集団への働きかけ」「トラウマ体験の統合」「過去と現在の統合」「親への働きかけと地域参加」)の因子得点を基に、Word法によるクラスター分析を行った。解釈可能であった4群を作用し、4群による分散分析を行った。1群はすべての支援方法が用いられていることから<トータルケア群>(n=37)とした。2群は「集団への働きかけ」「トラウマ体験の統合」「過去と現在の統合」「親への働きかけと地域参加」が有意に多いことから<過去と環境へのケア群>(n=30) とした。3群は「不安感情の言語化」「ペアレント・トレーニング」「自尊心の回復」が高く、「集団への働きかけ」「トラウマ体験の統合」「過去と現在の統合」「親への働きかけと地域参加」が低いことから<現在の問題へのケア群>(n=14)とした。4群はすべての支援が他の群よりも低いことから<低ケア群>(n=9)とした。
(3)子どものタイプと支援類型:支援方法の類型と同様にクラスター分析によって、CBCL項目を分類した。その結果、攻撃的行動などの外向尺度の違いから<高問題群><中問題群><低問題群>の3群に分類できた。次に支援類型と子どものタイプでクロス集計を作成した。

5.考察
 本研究では,A県という限られた地域を対象としているが,その中で対象者の選択を無作為に行っているため,全国データ(厚生労働省,2004)と比較して男女比や平均年齢でほぼ一致した結果が得られている。したがって,対象児童はある程度代表的なサンプルを抽出したと言えるだろう。クラスター分析の結果から<トータルケア群><過去と環境へのケア群><現在の問題へのケア群><低ケア群>の4つの支援群が抽出された。これまでは14の支援因子がどのように組み合わされて用いられるか明らかにされていなかったが、本研究によって大きく4つのまとまりをもって実践されていることが予測された。さらに子どもの情緒と行動の程度と支援類型との対応関係を明らかにし、効果的な支援のあり方について考察した。  

↑ このページのトップへ

トップページへ戻る


お問い合わせ先

第58回秋季大会事務局(日本福祉大学)
〒470-3295 愛知県知多郡美浜町奥田
日本福祉大学 美浜キャンパス

受付窓口

〒170-0004
東京都豊島区北大塚 3-21-10 アーバン大塚3階

株式会社ガリレオ 学会業務情報化センター内
日本社会福祉学会 第58回秋季大会 係

Fax:03-5907-6364
E-mail: taikai.jsssw@ml.gakkai.ne.jp