自由研究発表児童福祉3  中谷 茂一

親子と学校との対立事例における構造と第三者機関関与のメリット
 -埼玉県子どもの権利擁護委員会の活動をとおして-

○ 聖学院大学  中谷 茂一 (会員番号2681)
キーワード: 《子どもの権利擁護》 《オンブズパーソン》 《第三者機関》

1.研 究 目 的

 埼玉県子どもの権利擁護委員会(愛称:子どもスマイルネット)は、2002年に都道府県レベルの自治体としては全国初の県条例制定により設置(知事の附属機関)された公設の子どもの権利擁護機関である(条例第24号・平成14年3月29日公布・同年11月1日全面施行)。実際の学校側への調査・調整の場面で第三者機関がどの程度有効性をもつのかがイメージできない学校関係者も多いと思われるが、これまでの8年間の子どもの権利擁護の実務からその対立事例の構造と第三者機関の関与のメリットについて整理し、同種のサービスを認知・普及させていく上での今後の議論のたたき台として提示することを目的とする。 

2.研究の視点および方法

 発表者は子どもスマイルネットの相談開始時点から面接相談を行う調査専門員として県から委嘱され活動に従事している。年間で20件前後の事例を3人の調査専門員が担当するが、これまでの活動記録から対立事例と第三者機関のメリットについてポイントを抽出できると考えている。分析の対象として自分が担当した相談事例の実践における知見と県が公表している『埼玉県子どもの権利擁護委員会 運営状況報告書(平成14~21の各年度版)』を素材として考察を行う。 

3.倫理的配慮

 事例研究として個別に検討する手法ではなく、複数の事例が構成している要素の共通性に基づいて抽出を試みるので、固有名詞や個人が特定されるような記述は行わない。 

4.研 究 結 果

4-1 委員会体制と相談状況
 当日配付資料を参照。なお、これまで「調査・調整」段階で口頭や文書で申し入れやお願いをすることにより、ある程度の状況改善が図られる場合が多く、改善されない場合の次の段階である「勧告」「意見表明」「要請」を出したことはない。

4-2 活動における基本方針
 これまでの実際の調査・調整活動におけるアプローチの基本方針は次の4点に集約された。①保護者が同席しない形で子どもとの面談を実施し子ども自身のニーズを正確に把握する。②保護者や大人の関係者の意向・情報よりも当事者の子どもからの情報とニーズ最も尊重して活動を行う。③権利侵害を行っている者に対して責任追求型の活動をするのではなく、相談者の声を相手方に代弁して説明し、理解を促進し態度変容につなげるアプローチを原則とする。④相手方の声も相談者にフィードバックし双方の意思疎通を図る調整を同時平行して実施する。 県条例による第三者機関設置のメリットは①活動にあたって条例上の根拠が存在すること、②地方自治体という公的団体が設置主体であるため、県以外の機関である市町村関係機関や民間団体に対する説明・協力を求めやすいことである。なお、公立校だけでなく私立学校にも調査・調整できた事例が複数ある。

4-3 親子と学校との対立事例における構造
 当事者間の対立事例に共通してみられる学校側の対応の構造として以下の点が挙げられる。
① クラスの中で他児とのトラブルを起こす子どもを必要以上に叱責または力で押さえ込む。
② 逆に当該児童・生徒への過剰な配慮で必要な場合でも注意をすることを躊躇してしまい他からの批判を招く。
③ 他児への「加害者」としての位置づけのみで対峙してしまい、本児の言い分を先入観なしにきくことや支援するという視点が欠けてしまう。
④ 当該児童・生徒の特性を考慮した対応、発達障害児への基本的な知識・技術が足りない。
⑤ 担任教員が一人でがんばり組織的なバックアップが弱い。
 事例によっては発達障害をもっている子どもが圧迫を受けている事例もあり、教員集団が子どもの行動特性への基本的な知識やトレーニングを受けていれば問題を回避できたのではないかと思われる状況も複数みられ、教員個人の問題ではなく、すべての学校で特別な支援が必要な子どもに関する研修をさらに充実させていく必要があろう。

4-4 条例による第三者機関設置の学校側のメリット
① 利害関係のない第三者が間に入ることによって、感情的な対立が非常に強くなっている子ども・保護者と教員側の意思疎通を冷静に図れる。
② 教員側が子ども・保護者に理解して欲しい点を第三者の立場で伝え相互理解を促進できる。
③ 管理職による教員へのアドバイスに第三者の見解を活用できる。
④ 訴訟など法的紛争に発展する前に両者の関係改善を図る機会がもてる。  

5.文 献

※「埼玉県福祉部子ども安全課 子どもスマイルネット案内のページ」
http://www.pref.saitama.lg.jp/site/smile-net/iinkai-gaiyou.html(2010年6月時点) 

↑ このページのトップへ

トップページへ戻る


お問い合わせ先

第58回秋季大会事務局(日本福祉大学)
〒470-3295 愛知県知多郡美浜町奥田
日本福祉大学 美浜キャンパス

受付窓口

〒170-0004
東京都豊島区北大塚 3-21-10 アーバン大塚3階

株式会社ガリレオ 学会業務情報化センター内
日本社会福祉学会 第58回秋季大会 係

Fax:03-5907-6364
E-mail: taikai.jsssw@ml.gakkai.ne.jp