自由研究発表児童福祉3  永野 咲

児童養護施設における「問題」の変遷に関する探索的研究
 -東京都・児童養護施設における10年間の二次分析から-

○ 日本子ども家庭総合研究所・東洋大学大学院  永野 咲 (会員番号7173)
日本子ども家庭総合研究所  有村 大士 (会員番号5180)
キーワード: 《児童養護施設》 《二次分析》 《経年的分析》

1.研 究 目 的

 近年、児童相談所における虐待相談件数の増加等から、児童養護施設の現状は「大きく変化」し、生活する子どもたちの抱える問題が「多様化・複雑化している」とされる。
 しかし、その「変化」や「多様化・複雑化」の根拠は、単年での調査研究や実践現場からの報告によるものであることが多い。政府による入所児童に関する調査も単年のものであり、経年的な変化を捉えることは難しい。また、長期的な視点からのデータをともなった検証もほとんどなされていない。
本研究では、実践現場や単年の調査等から示されてきた児童養護施設の課題や変化を、経年データもとに裏打ちし、児童養護施設における適切な支援課題設定に向けた状況理解を目的とする。  

2.研究の視点および方法

 本研究では、東京都社会福祉協議会児童部会によって1997(平成9)年度から行われてきた「児童養護施設等の状況(統計資料)」のデータを用い、約10年の経過を「課題とされてきたことがデータをもって立証されるのか」という作業仮説のもと探索的に二次分析を行う。二次分析は、①本来の調査者も自らの調査を違う角度から見直すことができる、②無用な重複調査を減らすことができ、調査公害といわれる事態を防ぐことができる、③追試によってデータの誤りを訂正し、データの完成度をより高めることができる、などの利点をもつといわれている(佐藤2000)。本研究でも、都内の全児童養護施設の全入所児童に対し、毎年行われてきた一次データの重要性を認識し、二次分析の対象とした。
 本研究における二次分析は、以下の3つを柱に行った。①児童養護施設の入・退所の経過を明らかにするために、季節性ARIMA検定を用い傾向を抽出した。②年次経過による問題の変化を明らかにするため、尤度比カイ二乗検定量により項目を抽出し、それらを相関分析することで、動向と妥当性を検討した。③②の分析に適さない項目について、単純集計およびグラフによる視覚化を行い傾向を読み取った。  

3.倫理的配慮

 本研究は、刊行物によって公開されたデータに対する二次分析である。 

4.研 究 結 果

 東京都の児童養護施設における10年の変化について、大きく以下の3つの点が明らかとなった。これらは、従来指摘されている問題・課題と重なるものも含まれ、本研究における二次分析で問題の再確認がなされたといえる。
①入退所の季節性00717
 東京都の児童養護施設における入退所には季節性がみられた。ほぼ全年を通じ、年度替わりの3月に入退所の大きなピークがあることが明らかとなった。またピークの山は退所においてより大きく、3月度に退所した定員数をその後の月で埋めていくという傾向が抽出された。次のピークは8月であり、夏休み期間との関係が示唆される。これらの結果から、入・退所の集中する月に特に手厚い支援体制が必要であると考えられる。
②児童養護施設の構造の変化
ⅰ定員と年齢構造:東京都の入所児童の定員が約10年で1,000人増加した影響を受け、10歳から16歳までの入所が増加傾向にある。この年代の子どもの要保護率が高まっている可能性がある。
ⅲ入所理由:保護者の「家出」「死亡」「就労」「離婚」「サラ金」「ギャンブル」「失業」「遺棄」等、保護者の不在や貧困などの単一的な状況による入所が減少しているのに対し、保護者の「拘留」および「身体的虐待」「心理的虐待」「性的虐待」、ネグレクトを示すと考えられる「育児意思欠如」「育児能力欠如」が増加傾向にあり、虐待に至ったことを理由とした入所が増加していることが読み取れる。
ⅲ家庭復帰の見込み:「早期復帰予定」と「家庭復帰困難」が増加しており、家庭復帰の見込みが二極化している状況がうかがえる。一方で「見込みなし」は減少しており、保護者がいながらの入所が増加している影響をうかがわせる。
ⅳ在所期間:在所年数1年未満の未就学児童が減少しており、低年齢幼児の短期的な入所は減少していると考えられる。また高校生の在所期間は1年未満と9年以上の二極化がみられたが、9年以上の数が減少傾向にある。一方で、高校卒業者時まで在所していた子どもは在所期間9年以上が最も多く、長期入所している子どもが高校卒業に至りやすい可能性が示唆される。
③特別なニーズをもつ子どもの増加
ⅰ知的障害をもつ子ども:知的障害をもつ入所児童の増加が抽出された。手帳を取得している入所児童も増加している一方で、両者の増加率から、手帳のない知的障害をもつ入所児童が増加していることも示唆される。また知的障害をもつ子どもの増加を反映し、小学校・中学校の特別支援学級、養護学校高等部へ通学する子ども数が増加している。
ⅱ問題の行動化:入所時に「暴力」と「性的非行」の問題を抱える子どもが増加している。上記の入所理由の変化と合わせると、被虐待体験による問題の行動化が入所前から生じている可能性がある。現在抱える問題としては、「放火」「性的非行」が増加傾向にある。
 また入所後において、「放火」「学業不振」の顕在化が顕著になっている。全年的には、入所により「不登校」「家出外泊」「金品持ち出し」「家庭内暴力」等の減少する問題と、「放火」「盗み」「暴力」「学業不振」など増加(顕在化)する問題がみられ、入所後に新たなケアの必要性が生じている可能性がある。
ⅲ健康上の問題を抱える子ども:現在「ぜんそく」「アトピー」「アレルギー」の健康上の問題を抱える子どもが増加している。また、「アトピー」「アレルギー」は入所後に顕在化することが増えている。

 以上の結果より、児童養護施設では、10年間でより多くのケアを必要とする状況が生じていることが明らかとなった。また入所後に顕在化する課題も抽出されたことから、児童養護施設は柔軟かつ充分な職員体制・支援体制の構築が必要であると考えられる。  

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