自由研究発表児童福祉2  小椋 佑紀

就学援助制度の実施体制
 -子どもの権利保障の視点から-

○ 東洋大学福祉社会開発研究センター   小椋 佑紀(会員番号5797)
キーワード: 《就学援助制度》 《子どもの権利》 《子ども関連施策》

1.研 究 目 的

就学援助制度は、無償範囲拡大の困難状況、義務教育に係る経済的支援ニーズを背景に1956年に発足した。教育制度ではあるが、生活保護制度や民生委員等、社会福祉学分野との直接的関わりが含まれており、当該分野では完結しない内容となっている。
 1990年代以降、少子化対策と分権化により、基礎自治体による取り組みをベースとした子ども支援への転換が図られている。また、近年、当該制度が対応する義務教育に係る経済的支援ニーズの背景にある貧困問題に対する社会的関心が高まっている。就学援助制度では、2005年度以降、受給者の多くを占める準要保護者分の国庫補助金が一般財源化されている。
 就学援助制度は発足以来、生活保護制度との調整が留保されている他、予算の範囲内で国庫補助とされ、公的責務が明確にされてこなかった。また、対象者捕捉のため、民生委員等との連携を可能としてきた。このような不変部分をもちながらも、就学援助制度に関する諸状況は大きく変化している。就学援助制度の今後について、義務教育の無償のあり方を含め、子ども関連施策に位置付けた議論が必要ではないかと考える。
 本研究では、当該制度の実施体制(法令の内容、文部科学省による制度内容の具体化、基礎自治体での実施状況の総体)を明らかにし、子どもの権利保障の視点から今後の具体的課題について考察を行った。  

2.研究の視点および方法

文献・資料調査及び基礎自治体への各種調査による。このうち基礎自治体への調査は、2008年度子どもの権利条約総合研究所研究奨励費(研究名:「自治体調査にみる就学援助制度運営の現状と課題」)による量的調査(資料提供依頼・アンケート)、2009年度東洋大学井上円了記念研究助成金〔研究名:「就学援助制度運営の自治体比較研究」〕によるヒアリング調査(資料提供含、2009年度調査)の結果を使用する。いずれの調査においても、当該制度それ自体の実施方法・内容だけでなく、子ども関連の部署や制度等との関わりにも配慮した内容となっている。  

3.倫理的配慮
・ 文献調査
  日本社会福祉学会の「研究倫理指針」に則り行った。
・ 量的調査
  得られたデータ・資料は統計処理を行い、公表に際して個別の市区町村名を明記しない。
・ ヒアリング調査
  ヒアリング終了後、その内容を文書化し、提供いただいた資料と併せて公表内容を確認いただいた。自治体名は非公表とする。 4.研 究 結 果

準要保護者分の国庫補助金の一般財源化により、基礎自治体は、どのような論拠をもって実施をするのか、自身で考え、行動に移さなければならない段階に入っている。そのような状況下での当該制度の実施体制は、法的枠組みから基礎自治体における実施段階に至るまで、曖昧さと多様さを有しており、脆弱な受教育権保障の仕組みとなっていた。さらに、当該制度に関する史的諸状況も考慮すると、基礎自治体の対応次第で、国・都道府県・基礎自治体いずれからも捕捉されない子ども(あるいは義務教育に係る経済的支援ニーズ)をいっそう生み出しやすい仕組みになっていると考えられた。
  就学援助制度の今後の課題について、実施体制を明らかにする過程では、
・ 子どもに係る経済的支援策の在り方にも及ぶ、義務教育に係る経済的支援の枠組み
・ 義務教育に係る私費負担の実態、子どもに係る経済的支援策を踏まえた支給内容
・ 就学援助制度を必要とする子どもの遺漏防止策
が個別課題として浮かび上がった。これらを子どもに係る経済的支援策における当該制度の役割、個別支援レベルでの子ども関連施策の連携の問題に大別し、少子化対策や児童福祉策の動向、関連データ(各種経済的支援策の実施状況、当該制度担当課と他部署との関わり等)から考察を行った。その結果、教育と福祉/子どもに関する国家政策/分権に伴う子ども支援の問題が交差しており、行政(あるいは学問)分野、研究と実践の垣根を越えた取り組みなしには克服し得ない状況にあると考えられた。    

* 本報告は、2009年度東洋大学博士学位論文『就学援助制度の実施体制‐子どもの権利保障の視点から‐』を加筆・修正したものである。  

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