里親支援機関事業の現状と課題
-民間機関への委託の可能性-
○ 和泉短期大学 平田 美智子 (会員番号4260)
日本女子大学 林 浩康 (会員番号1656)
文京学院大学 森和子 (会員番号4390)
青山学院女子短期大学 横堀 昌子 (会員番号3417)
首都大学東京大学院 三輪 清子 (会員番号7871)
京都府立大学大学院 山口 敬子 (会員番号7076)
キーワード: 《里親支援機関事業》 《委託》 《自治体》
現代の複雑な家庭環境や児童虐待などを背景に、少子化にもかかわらず、家庭で育つことができず、保護を要する子どもの数は年々増え続けている。現在、社会的養護のもとにある子どもは47,000人を超えるが、その9割が施設で養育されており、里親委託は1割に過ぎない。政府は、保護を要する子どもに対しては、より家庭的な環境で愛着関係の形成を図る家庭的養護の推進を掲げており、里親支援に積極的に取組む姿勢を打ち出している。 具体的には、平成19年度より、里親制度の広報啓発、里親の研修、子どもに最も適合する里親を選定するための調整、委託里親への訪問援助・相談・指導等の支援等の業務を施設やNPO法人等へ委託することができる「里親支援機関事業」の実施を開始した。
本研究は、この「里親支援機関事業」の全国での実施状況を調査し、具体的にどのような機関・組織に事業が委託されているのか、現状を把握し、考察するものである。
里親支援機関事業の実施状況の把握は、客観的な量的研究(アンケート調査)と併せ、質的研究(面接調査)が必要であると判断した。
本研究はアンケート調査であり、実施期間は2009年12月で、調査対象は全国の都道府県・指定都市の児童福祉主管課であった。質問用紙(A3-1枚)と回答用紙を郵便で送り、回答用紙を返送してもらった。
質問項目は、①里親支援機関事業の実施、②児童相談所以外への事業の委託、③事業の委託形態(全部委託か一部委託か)、④委託先(里親会、児童家庭支援センターなど)、⑤事業別委託先、⑥委託費、⑦今後の委託予定、であった。
本調査は、対象が都道府県などの自治体であり、里親など個人の情報が特定される質問は含んでいない。集計では、里親支援機関の情報が特定されないように配慮し、集計結果を回答のあった都道府県にフィードバックし、学会や研究誌で公表することを明記した。
4.研 究 結 果 アンケートの送付先は、全国の都道府県・指定都市65で、そのうち47の自治体から回答を得、回収率は72.3%であった。
平成21年12月現在、①の「里親支援機関事業」を実施している自治体は、回答のあった47のうち、28であり、約60%が実施していた(実施していないが19)。その中で、②の「里親支援機関事業」を児童相談所以外に委託している自治体は20であり、民間委託の割合は71%であった(未委託の自治体が8)。③の事業の委託形態は、全部委託の自治体が3、一部委託の自治体が17であった。④の主な一部委託事業としては(複数回答)、里親研修事業(11)、里親サロン(9)、里親の掘り起こし事業(6)などが挙げられたが、里親委託の推進事業は1自治体のみが実施に過ぎなかった。⑤の委託先の内訳(複数回答)は、里親会(13)、母子愛育会(5)、児童家庭支援センター(3)、児童福祉施設付設施設(1)、社団法人(2)、NPO法人(1)であった。 ⑥の委託費は、年額200万円から1,350万円までと幅広く、平均すると一か所当たり3,037,600円であった。⑦平成22年度以降の委託予定であるが、全部委託予定(3)、一部委託予定(15)、未定(1)という結果であった。この他に、「里親支援機関事業」は実施していないが、現在他の里親支援事業を里親会等に委託しているという自治体が10か所あった。
結果を考察すると、新しく始まった「里親支援機関事業」に関しては、自治体により取組の姿勢が異なることが判明した。アンケート調査を実施した平成21年度は、既存事業である里親支援事業・里親委託推進事業が並行して実施されており、平成22年度以降に「里親支援機関事業」に移行する可能性があるのかもしれない。
また、事業を児童相談所以外の民間機関に委託している場合、全部委託をしている自治体は3自治体に過ぎず、大部分が一部委託であった。一部委託事業の内容も、里親の意向調査、マッチングの調整といったソーシャルワークである「里親委託の推進」に関しては、ほとんどの自治体で委託を躊躇している様子であった。委託先に関しては、里親会、母子愛育会など、すでに里親サロンなどを運営している団体に委託する傾向があり、施設やNPO法人など新しい団体に委託する自治体は極めて少なかった。
結論であるが、第一に里親支援機関事業の導入は、都道府県・指定都市の里親支援事業に対する姿勢が影響する。第二に、里親支援機関事業を開始した場合、自治体が児童相談所以外の民間機関に事業を委託する傾向が高いが、現状では委託の形態は全部委託でなく、ほとんどが一部委託に留まっている。第三に、事業の民間委託の可能性には、里親会・母子愛育会などの既存の団体が事業を受託する力があるか、また里親支援の経験を積む施設・法人などの委託機関が自治体の中にあるかないかが影響する。いずれにせよ、里親支援機関事業の推進のためには、自治体が地域の中で里親支援のできる機関・組織を発掘し、養成し、支援していく努力を続ける必要があり、官・民協働してコミュニティワークを実践することが必要である。