自由研究発表児童福祉1  片岡志保

児童養護施設職員の働く問題に関する研究
 -職務内容分析を通して-

○ 立教大学大学院  片岡志保 (会員番号7485)
キーワード: 《児童養護施設》 《職員》 《職務内容》

1.研 究 目 的

現在の児童養護施設には,職員が安定し,継続して働くことができない現実がある.たとえば,児童指導員および保育士の「平均勤務年数は『3.42年』」であり(岡本2000),その構成割合は3年未満が22%,5年未満が52%となっている(厚生労働省2001).施設の子どもは「やがては社会に生きぬかねばならない子ども,といった点においては一般家庭の子どもとなんらかわりはない.ただ,いずれも要保護児童たちだけに,きめ細かな,豊かな配慮がなされるべきことは当然である」(積1977).子どもが主体的に生きるために,信頼できる大人との出会いが基礎となることから,職員が,安定し,継続して働くことが求められる.これまで,職員の離職につながる要因とその対策については,研究が蓄積されている.しかし,意識調査が中心であり,一部に職員の負担感に起因する職員属性に関する調査は行われているものの,職員が子どもやその環境にはたらきかける内容そのもの(以下,職務内容)についての分析が不十分といえる.そこで本研究は,まず,職務内容を明らかにして職員が抱えている問題を整理する.その上で,安定し,継続して働くことができるよう,問題の克服について考究することを目的とする. 

2.研究の視点および方法

勤務年数の長い職員と短い職員を比較することによって,継続して働くための糸口が見つかるのではないかと考え,勤務年数を考慮して4施設各2名,合計8名の女性直接処遇職員を調査対象とした.日勤と宿直日の2回ずつ合計15回調査した.職務内容を239項目に分類し,タイムスタディ調査を行った.同時に,職員と子どもの行動を観察し生活の場面を抜き出した. 7人にインタビュー調査を行った(一人異動).調査と分析によって施設職員の職務内容を明らかにし,文献研究とあわせて研究目的を実現する. 

3.倫理的配慮

調査対象となっていただいた職員の方と施設に論文の研究目的と調査方法について事前に説明をし,了承を得た.施設や個人が特定されないよう,記述に配慮した. 

4.研 究 結 果
  調査結果  総調査時間は12404分(206時間44分)であった.職務内容を53項目に分類した場合,「食事・おやつ」「掃除」「就寝の援助」が上位に含まれ,生活施設であることが示された.また,「連絡・調整」「会議」に比較的多くの時間が費やされていた.職務内容の違いは,当日の行事や子どもの年齢,子どもの状況などに左右されていた.
  分析と考察  職員がやりがいを感じて,継続して働くためには,子ども一人ひとりの豊か な発達を保障することが要であることが,インタビュー内容から示された. 1965年当時の調査研究と比べて現在の職務内容は,全体の職務のうち「主要」とされている「教育的労働」(小笠原1973)に費やす割合が減少していた。「教育的労働」の構成割合は、「基本的生活」が増加, 「学習」「労働」が減少したことから,「基本的生活」にはたらきかけを必要とする子どもが増え,職員が増員されているにもかかわらず,職員の増員が追いついていないことが示唆された.したがって,子ども一人ひとりの豊かな発達が保障されているとは言い難く,職員が継続して働く要となるやりがいは,実感されにくい.また,現在の施設では「勤務中はそれぞれ役割がある」ことや,一定の時間帯は「基本的にひとり勤務」という現実がある一方,病気やけがの対応や子どもの要求など,職員にとって核となる職務の性質が,いつ起こるか,どの程度時間がかかるかなどの予測が不可能な「不定形不定量」(黒田2009)な職務であるという現実が,職員の問題につながっていた.

まとめ  インタビューでは子どもと職員(自身)の関係について整理できないことが,継続して働くことができない問題につながることが推測されたが,子どもの育ちに不安を感じながらも子どもが育っていくことを体験することによって,関係のとらえかたが変化することも考えられた.子どもの豊かな発達を保障しようとしている職員の努力が,職務内容分析によって明らかになったものの,求められている職務内容に追いついていないことが,子どもの成長を願う職員の矛盾となっていた.本研究では,これらの矛盾のあらわれを,職員が継続して働くことのできない要因と位置付けた.したがって,予測不可能で「不定形不定量」な「生活全体,人格総体にかかる職務」(福島1999)に応じることができることが,問題の克服につながると考える.そのため施設では常に余裕のある職員配置基準が求められる.職員の増員を実現するには,一人でも多くの職員が継続して働き,現実を社会に訴えることが必要となる.自身が継続して働く過程で子どもが育つことを体験し,はたらきかけを豊かにし,連携やチームワークを形成することによって,多数の職員が継続して働く可能性がある.最も困難で最も重要な部分は,単に「会議」や「連絡・調整」に時間を費やすだけではなく,子どもを主体として,「子ども・職員とともに生活をつくる」視点でチームワークを形成する(職員集団に変化をもたらす)にはどのようにすればよいかという点にある.その具体的方策を示すことが今後の課題となる. 

文 献
福島一雄(1999)「7章 施設職員の職務内容と専門性」小笠原祐次・福島一雄・小國英夫編『社会福祉施設』有斐閣,206-229.
厚生労働省(2001)『平成13年 社会福祉施設等調査』.
黒田邦夫(2009)「児童養護施設に何がおきているのか」『福祉・保育現場の貧困-人間の安全保障を求めて』明石書店,106-119.
岡本眞幸(2000)「児童養護施設職員の職場定着にかかわる施設の労働体制上の問題点-施設最低基準の政策レベルの問題と個々の施設レベルの問題に着目して-」『横浜女子短期大学研究紀要』15,1‐12.
小笠原祐次(1973)「児童収容施設における福祉労働の性格について」「福祉問題研究」編 集委員会『社会福祉労働論』鳩の森書房,167-183.
積 惟勝(1977)「第4章 施設養護の基本原理」浦辺 史・積 惟勝・秦 安雄編『新版 施設養護論』ミネルヴァ書房,46-56. 

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