子どもがイメージする『良い職員』の具体像
-児童養護施設の卒園生に対するアンケートをもとに-
○ 日本福祉大学 藤田 哲也 (会員番号7891)
キーワード: 《児童養護施設》 《卒園生》 《良い職員》
児童養護施設の指導員の仕事は、子どもと生活していく中でやりがいを感じながら、自分自身も人間的に成長していける部分がある。しかしその反面、労働条件や職場環境も厳しく、子どもが施設を巣立つ前には、職員が辞めているケースが多い事が調査されている。(岡本2000)
子どもの権利擁護のために、児童福祉法の改正や、子どもの権利ノートを活用するためのマニュアル作りは進められている。また、利用者の苦情解決窓口や施設の第三者評価など、施設自体の質の向上や、職員のケアの質の向上は求められているものの、職員の労働条件を整備するための具体的な取り組みは不足していると感じる。
そこで筆者は、職員の職務継続が子どものケアの質にどのような影響を与えるのかに焦点をあて、子どもが安心して生活できるような施設とはどのような施設か、また職員が働き続けられる職場環境や子どもが求める職員の姿、施設のめざすべき状態像を明らかにすることを目的に、退所した方に対してアンケート調査を行った。
本報告では、その研究の中間報告として、問い『子どもにとって良い職員とは?』への回答(自由記述)内容の分析を行い、「良い職員」を構成する要素について検討する。
調査項目: ①施設の生活について ②施設の生活での悩みなど ③職員との関係について
④職員に望む事 ⑤良い職員とは?
調査期間: 2009年1月末~2010年5月末
調査方法: 質問式、記述式によるアンケート調査を郵送にて送付する
調査対象:児童養護施設を卒園した方90名
日本福祉大学大学院倫理ガイドラインに基づき、調査対象となる卒園生に対しては、研究の概要と倫理的配慮等について文書で説明した。回答の強制はおこなわず、調査票の回答をもって同意が得られたこととした。また、収集したデータについては個人を特定できない形態で分析をおこなった。
4.研 究 結 果回答者の属性:配布枚数123枚、男性47名、女性43名、計90名からの回答があった(回答率73%)。 平均在園期間117ヶ月(9年7ヶ月)(SD±63)
★ 良い職員とは?<79名分の自由記述分析より>
「感情(喜怒哀楽)をきちんと表現できる人」
本気で叱ってくれる。笑顔。笑う。熱血な人。泣いてくれる。素直。冷静。ほめる。一緒に喜ぶ。情がある。明るい。素直に感情を出す。頭ごなしに怒らない職員。叱るときは叱り、褒めるときはほめる事。厳しさを持っている。楽しい人。温かい人…など。
「話を聞く・話をしてくれる人」
話を聞いてくれる。自分の思いを話してくれる。話を聞いてくれる。話ができる人。真剣に話を聴く人。話ができる人。話を最後まで聞く。相談に乗ってくれる。いろんな事をしゃべれる。何でも言い合える。語れる人。アドバイスをくれる。率直な意見や話のできる職員。ルールを教えてくれる…など。
「(自分に)向き合ってくれる人」
向き合える。子どもの将来を真剣に考える。ちゃんと関わろうとしてくれる。真剣に向き合う人。将来のことが一緒に考えられる人。親身になる人。一緒に考えてくれる人。全力で向き合う人…など。
その他の重要なキーワードとなるのが「家族・親の代わりとして関わる人」(家族みたいな関係、自分の子どものように思う、親心がある人、気持ち的に親になるなど)、「明確な意思を持っている人」(良し悪しがはっきりしている、事実を曲げない人、子どものために他職員に拒否や意見ができるなど)、「平等・公平性がある人」(差別・区別しないこと、平等・公平に関わる)が挙げられる。
今回のアンケートには「良い職員」の姿をあらわす言葉が多くあった。職員の仕事に向かう姿勢や大人(人間)として当たり前の常識が身についているかどうかなど、子ども達は施設の生活の中で、大人の姿をよくみている。そのような子ども達の目を常に意識しながら、発する言葉の一つひとつを大切にし、言動に責任をもって関わっていく事が求められている。 6.文 献
岡本眞幸(2000)『児童養護施設職員の職場定着に関わる施設の労働体制上の問題点』
横浜女子短期大学紀要 第15号
全国社会福祉協議会(2009)『子どもの育みの本質と実践』調査研究報告書