児童自立支援専門員及び児童生活支援員の育成及び養成
-夫婦小舎制職員へのインタビューを手がかりに-
○ 日本女子大学大学院博士後期課程 武 千晴 (会員番号6016)
キーワード: 《児童富士市》 《司法福祉》 《児童自立支援施設》
2007(平成19)年の児童福祉施設最低基準の改正(以下要件改正)により、これまでの児童自立支援専門員及び児童生活支援員(以下寮担当職員)の要件として、新たに医師と社会福祉士が加わり、社会福祉士が寮担当職員としてその役割を担うことが可能となった。
これは感化法の制定から数えても110年の歴史がある児童自立支援施設における一つの大きな変化と言えよう。児童自立支援施設は社会福祉施設でありながら、これまで社会福祉士資格は任用資格要件とはされておらず、1997(平成9)年の児童福祉法改正98年施行時にも寮担当職員の職名は変更され、児童生活支援員の性別撤廃が成されたが、職員要件の変更はされなかった。要件として代表的なものは旧第1号の国立武蔵野学院附属児童自立支援専門員養成所(以下養成所)の卒業生であり、例えば大学で社会福祉学を修め、社会福祉士国家資格を取得した者であっても1年間養成所で専門的なトレーニングを積まなければならなかったのである。寮担当職員は歴史的にケースワーカー、あるいはチャイルドケアワーカーとは一線を画していると言える。特に夫婦小舎制を維持している施設は、感化院時代から続く施設も多く、先輩から後輩へ脈々と受け継がれ引き継がれている歴史─後述するが関係者はこれを「施設の文化」と表現する─があり、彼等はそれを現在に受け継いでいると考えられる。
今後、社会福祉士が夫婦小舎制の寮担当職員として配置された際、施設側及び従来の職員は彼等をどのように迎え入れ、どのように活用して行くのであろうか。異なる育成・養成を経た同士にとって障壁となるものはないのであろうか。本研究はこの問と、求められる寮担当職員について考えるものである。
児童自立支援施設の寮担当職員へのインタビュー調査(以降本調査)を行った。調査対象者は全国の児童自立支援施設58施設を母集団として (A)それぞれの経営主体の中から、(B)入居数が一定期間安定している施設に設置された、(C)夫婦小舎制、(D)男子寮の担当職員(児童自立支援専門員及び児童生活支援員)の施設を条件として抽出した。その中から調査可能であったA施設(国立)、B施設(都道府県立)、C施設(市立)で実査を行った。
なお、本調査は社団法人北海道社会福祉士会の助成を得て行った。
社団法人日本社会福祉士会倫理綱領、日本社会福祉学会倫理指針に従い、協力者には調査の概要や守秘義務等を説明し、理解・協力を得て行った。
4.研 究 結 果 インタビューは(1)夫婦小舎制の寮担当職員は要件改正をどのように受け止めているのか、(2)現在の寮担当職員はどのような教育機関を経て、(3)どのように寮担当職員として育成・養成されて来たのか、という問いの他、現在の仕事について自由に話してもらった。
(1) 夫婦小舎制の寮担当職員は要件改正をどのように受け止めているのか
追加要件(医師と社会福祉士が寮担当職員として従事可能)ではなく、要件撤廃(「厚生労働大臣又は都道府県知事が適当と認めた者」の削除)の方がこの法改正の趣旨であるとの意見が聞かれた。
また、社会福祉士が夫婦小舎制の寮担当職員として配置されることについては、特にソーシャルワーク理論を習得しているからといって寮担当職員として期待できる、できない、ともにそうした意見は聞かれなかった。
(2) 現在の夫婦小舎制の寮担当職員はどのような教育機関を経ているのか
寮担当職員の出身教育機関は、大学で教育学を学んだ職員が5名中3名と最も多く、他は社会福祉学が1名、幼稚園教諭及び保育士の短期大学が1名であった(うち、養成所出身者は4名)。また、養成所を含む各出身教育機関での学びが現在の仕事に「役立っていると感じている」と答えた職員はいなかった。
また、どのような人材を寮担当職員として迎えたいか、という質問については「資格は関係なく、人柄や人間性が重要」という意見が多数聞かれた。
(3) 現在の夫婦小舎制の寮担当職員はどのように育成・養成されて来たのか
以上 (1)(2)の結果から、寮担当職員に求められる人材は、端的に言えば「子どもと一緒に暮らすことが出来る大人(夫婦)」であれば誰でも良いと言うことになった。しかし、様々な特徴を持つ児童自立支援施設の子どもたちと生活を共にすることが、本当に専門性も無く可能なのであろうか。やはり何かのトレーニングを受け、そして従事し続けられるしくみが施設内にあるのではないか、インタビューの結果から考察する。
まず後者について、児童自立支援施設に至る施設では、施設内外の環境を重視し、「いわゆる施設化」しないことが求められて来たが、本調査において、その環境がご近所づきあいに近い施設内コミュニティとも言うべきものであると考えられた。そしてそれが子どもの育ちだけでなく、そこで働く職員夫婦の暮らしも支えていることが示唆された。
こうした施設内コミュニティを土台として、関係者の間で「施設の文化」と呼ばれるものが、間接的に職員─特に寮長─をトレーニングしていると考えられた。しかし「施設の文化」の育成及び養成機能にも限界があり、特に寮母においてそれが認められた。