児童養護施設における園芸活動実践研究
-高齢者デイサービス・保育所および地域社会との関連性も踏まえて-
○ 南九州大学環境園芸学部 林 典生 (会員番号5404)
キーワード: 《児童養護》 《園芸活動》 《ネットワーク》
演者は今まで、老人保健施設、高齢者デイサービスといった高齢者分野、知的障害者授産施設といったしょうがい者分野および精神科病院といった精神保健福祉分野で活動現場や学生と協働しながら園芸活動実践を行ってきた。
日本での医療・福祉現場における園芸活動実践に関する報告は高齢者分野およびしょうがい者分野では多く見られるものの、児童分野では少なく、対象現場として障害児、フリースクール、小児科関連病棟が存在するが、児童養護施設で生活している児童を対象にした報告は現在も文献検索を行っているが、実践に関する報告はあまり見られない状況である。しかし、児童養護施設に勤務している職員や児童養護分野に関わっている研究者との意見交換の中では、児童養護施設でも園芸活動実践は必要であるとの議論が行われている。
本研究は児童養護施設における園芸活動実践の特徴や注意点に関して、高齢者分野やしょうがい者分野との比較を行う中で共通点や相違点を明らかにすることで、今後の児童養護施設における園芸活動実践の基礎資料にすることを試みた。
今回の事例は平成19年11月に学生の要望で、社会福祉法人A児童養護施設の理事長との話し合いの間で、その施設の分園である小規模児童養護施設(定員6名)で実施した。その中で、施設職員からの要望として、外部の人との交流をすることで、子どもたちにいろいろと体験させてほしいとの話があり、施設職員と学生・教員との協議の結果利用者や職員、学生など皆が楽しく参加できる活動ができるようにすることを目的で行った。
対象者は小学生1年から5年生までの5名(女性2名、男性3名)を対象にした、なお職員は3名体制である。なお、隣には定員10名の高齢者デイサービスがあり、そことの合同活動も何度か実施し、1名の高校生も一緒に参加した。
なお、実施内容は施設の都合により、第2・4・5土曜日の午後2時15分から3時まで活動を実施、学生2~4名および演者で構成するグループで事前にプログラム案を作成し、施設職員の了承が得られた後に、活動の準備・施設横にある倉庫までの運搬を前日まで行う。活動当日は子ども達に庭で管理している植物や倉庫から道具や資材を運んで、晴天時は施設の玄関前、雨天時は施設の居室にて実施した。また、後片付けも子ども達で行い。活動内容を施設職員に報告してから、終わる形式で実施した。
具体的な活動プログラムは当日配布する資料に示す。
この研究を実施するに当たり、南九州大学倫理委員会に研究計画及び成果物について審査を実施して、了承が得られ、かつ実践現場でも了承されたものである。この研究は個人情報保護の視点から、利用者、職員などの関係者および学生に説明を行い、活動全体の参加記録の作成を行うとともに、行動観察、インタビュー、アンケート調査を実施した。
4.研 究 結 果 児童養護施設での園芸活動を同じレクリエーションを目的としている高齢者デイサービスおよび生活介護型事業利用者を対象にした知的障害者授産施設での活動と比較した。
その結果、共通点として、(1)同じ活動を行うと慣れて手順を自分から確認する。(2)栽培系よりもクラフト系に参加者の個性が出やすい。(3)気分によって活動意欲が左右される。(4)珍しい活動に興味を示す。の4点が明らかになった。
また、施設種別よりも年齢に左右される部分が見られ、以下の3つが明らかになった。
(1)高齢者や50代以上のしょうがい者は不安などの負の感情が表に出にくく、活動中での表情が読みにくい。一方、児童及び50代未満のしょうがい者は喜びや不安などの全ての感情を行動や表情など、体全体を使って表す。
(2) 高齢者や50代以上のしょうがい者は 集中力が持続し易く、最後まで活動を行おうとするが、児童及び50代未満のしょうがい者は集中力の持続が難しく、一旦他のものに注意が向くと、作業が止まり、他のものに夢中になる。
(3) 高齢者や50代以上のしょうがい者は子どもや孫の様な立場になり、目上の人として接する必要がある。児童及び50代未満のしょうがい者は近すぎず、遠すぎずの関係を保つ必要がある。特に児童は兄や姉の様な立場になり、同じ目線に立っても、引っ張る立場でないと活動が成立しない。の3点が明らかになった。
さらに、他と異なる児童における活動の注意点として、(1)話や行動にメリハリをつけて、注意を向けさせる。(2)ほめるだけではなく、注意することも必要である。(3)子どもの手本になるように発言や行動する必要がある。(4)園芸活動以外の交流を行う必要がある。の4点が明らかになった。
なお、児童養護施設で生活している子ども達が小学校も含む社会からの厳しい偏見の中で暮らしている中、園芸活動実践を通じたソーシャルインクルージョンの社会づくりを行う必要があることが考えられる。
なお、この研究は文部科学省科学研究費若手研究(A)(課題番号:206880110001)にて実施されたものである。