自由研究発表児童福祉1  伊藤わらび

児童養護施設における児童指導員の専門性に関する研究
 

○ 三育学院大学(非常勤)  伊藤わらび (会員番号0193)
十文字学園女子大学  垂水謙児 (会員番号0463)
十文字学園女子大学  野島靖子 (会員番号6669)
キーワード: 《児童養護施設》 《児童指導員》 《専門性》

1.研 究 目 的

児童養護施設は、今日入所児童の抱える問題の深刻さから児童処遇上の困難を来たしており、養育の質の向上のために児童指導員を含む職員の専門性のあり方と質の向上は喫緊の課題である。児童養護施設における児童指導員の資格要件については、児童福祉施設最低基準第43条で特定の専攻や資格を定めず幅広い人材を当てることが規定されている。同基準第7条では児童福祉施設の職員の一般的要件として「できる限り児童福祉事業の理論および実際について訓練を受けた者でなければならない。」と明記されている。また、同条第2項では「施設の目的を達成するために必要な知識及び技能の習得、維持及び向上に努めなければならない。」とされており、施設の職員に対する資質向上のための研修の機会の確保が求められている。本研究では、児童指導員の専攻や資格、職務内容、資質向上のための研修などの実態と、また、望ましい児童指導員像や意識について把握することを通して児童指導員の専門性について考察を試みる。 

2.研究の視点および方法

児童養護施設は被虐待児や発達障害児の増加がみられる一方、近年の混迷を深める経済問題は子どもの貧困や家庭崩壊の誘因となりやすく、社会的養護問題の発生要因ともなっている。児童養護施設の職員は社会的要請に応えるべく、児童を保護、養育する機能と共に、教育的、治療的、家族援助、自立支援、地域支援等多様な役割、機能を果たすことが求められている。 全国568カ所の全児童養護施設を対象に2009年5月アンケート用紙を郵送し、各施設1名の児童指導員の回答を依頼した。回収率は、26.4%(150施設)であった。  

3.倫理的配慮

アンケート調査の実施に当り、依頼状において、回答は統計的処理を行うために、個々の施設名、及び記入者名が外部にもれることはないということを明記した。調査結果の集計(自由記述を含む)及び、論文作成において回答者のプライバシー保護を遵守した。 

4.研 究 結 果

1. 施設の状況 回答数150のうち、民設民営が90%を占めている。施設の設立年は「1946年~1955年」が最も多く41.3%、平均経過年数は53年であった。運営形態は、「大舎制」43.3%、「小舎制」12.7%、「大舎とグループホーム」9.3%等であった。入所児童の年齢構成は、「小学生」が40.3%で最も多く、「中学生」24.5%、「高校生」18.9%、「就学前」15.5%であった。
2. 回答者(児童指導員)の特性 回答者150人の性別は、男性が72%を占めており、年齢は30代が33.3%で最も多く、40代26.0%、20代23.3%の順となっている。勤続年数は、最長35年、平均12年4ヵ月である。取得資格については、複数回答の結果は「教員免許」が最も多く38.4%、「保育士」27.2%、「社会福祉士」23.2%である。最終学歴は、「大学」が78%で最も多く「大学院」を加えると81%である。専攻名は「社会福祉」が44.4%で最も多く、「児童福祉」「医療福祉」を加えると「福祉系」の専攻は51.4%である。
3.児童指導員の専門性に役立つ学歴と専攻、資格 最終学歴が児童指導員の専門性に役立ったか否かの設問の回答は「大変役立っている」14.6%、「役立っている」52.1%、「余り役立っていない」20.1%であり、66.7%が役立っていると回答している。これを資格との関連で見ると、「社会福祉士」と「教員免許」、及び「社会福祉士」と「保育士」の両資格を有している人は85.7%が役立っていると回答している。社会福祉士、教員免許、保育士の養成課程での学習が児童指導員の専門性に役立っているといえるのかもしれない。児童指導員になる前に学んだ授業で役立っている科目については、「児童福祉」をあげた人が最も多く75.6%、次いで「発達心理」55.9%、「社会福祉援助技術」48.8%、「社会福祉現場実習」45.7%等となっている。
4.スーパービジョン、研修体制について スーパービジョン体制については「ある」との回答が70.0%である。スーパーバイザーについては「施設長」が最も多く57.7%、次いで「主任指導員」46.2%、「主任保育士」24.0%であった。スーパーバイズの頻度は「1ヵ月に1回」が20.0%で最も多い。「必要な時に」は61.9%であった。希望する外部スーパーバイザーは「心理職」38.0%、「医師」37.0%、「大学教員」35.2%、「児童相談所の職員」34.3%が上位にあげられている。施設の内部研修体制は「ある」が76.2%で、頻度は「1ヵ月に1回」が最も多く30.7%、「必要な時に」が22.6%であった。
5.現在の仕事の継続について 現在の仕事を「続けたい」との回答は84.7%である。「続けたい」と回答した人にその理由を尋ねたところ「充実、やりがいがある」が最も多く78.1%であった。児童養護施設での職業継続の意志は他の調査結果に比べかなり多いといえる。これは、本調査における回答者の特質といえるかもしれない。
6.児童指導員の専門性について 児童指導員の専門性について123人、82.0%の記述があった。中には、現行の児童養護施設における指導員の専門性の不明確さを指摘する意見もあった。記述について、質的研究法であるM-GTAの手法を用いて、定性的にコーディングを行い、5つのカテゴリーと11のサブカテゴリーを抽出した。以下項目のみをあげる。
① 子どもへの養育支援―子どもと向き合う真摯な姿勢、冷静で客観的な支援、生活及び自立支援
② 子どもの理解と受容―子ども理解、受容・共感と傾聴
③ 様々な専門的知識と技術―ソーシャルワークとケアワーク、その他の専門的な知識と技術
④ 豊かな人間性―豊かな教養と幅広い知識、人間性と価値観
⑤ 施設内における重要な役割―チームワークと他職種との連携、職場内での指導的立場

まとめ
調査票の最後の自由記述欄に56%の方々の生の声が記述されていた。「職員配置の貧弱さ」「最低基準の改正の必要性」「専門性の向上」「研修体制の充実」など処遇困難な児童の増加に対応できる職員の高度な専門性と合わせて、地域における子育て支援センターの役割も求められていることが伺えた。  

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