自由研究発表方法・技術3  保正 友子

医療ソーシャルワーカーの実践能力獲得過程
 -新人期から中堅期に至るプロセスの質的分析-

○ 立正大学  保正 友子 (会員番号1931)
キーワード: 《医療ソーシャルワーカー》 《実践能力獲得過程》 《新人期から中堅期》

1.研 究 目 的

 近年、医療現場をめぐる状況の急激な変化に伴い、医療ソーシャルワーカー(以下、MSW)には時代の流れに応じた的確な援助の実施と、それを支える効果的な教育・研修が求められている。MSWは経験年数を経る毎に実践能力を獲得してきており、多くの熟達したベテラン期のMSWは、新人期より質が高い援助を行うことが予測される。現時点で筆者は、「実践能力」には価値・知識・技術のみならず、専門職としてのスタンスや周囲との関係性の構築も含まれると捉えている。ただし、必ずしも「獲得」ばかりではない側面が存在する可能性もあるが、ここではそれらも「獲得過程」に含めて考えていく。これまで日本国内では、何人かによって、経験年数の違いによるソーシャルワーカーの実践能力の差異に関する研究が取り組まれてきた。しかしながら、新人期からベテラン期に至るまでの実践能力の獲得過程と獲得を促す契機については未だ十分に解明されていないため、それらを解明することにより効果的な教育・研修への示唆が得られるのではないかと考えた。
 そこで本研究では、ベテランのMSWを対象に実践能力獲得過程についての調査を行い、修正版グラウンデッド・セオリーで分析を行い、新人期から中堅期に至るまでの実践能力獲得過程と、獲得を促す契機を明らかにすることを目的とする。なお、新人期とは程度の多少を問わず誰かの指示・指導のもとで実践ができる段階、中堅期とは独立して一通りの実践ができる段階、ベテラン期とは中堅者への指導ができる段階と定義する。ただし、中堅期からベテラン期にかけての実践能力獲得過程の解明は今後の課題である。  

2.研究の視点および方法

 2009年から2010年にかけて、以下の3つの条件に該当するMSW 12人に研究協力者になってもらい、1人につき2時間程度の半構造化面接を行った。①15年以上のソーシャルワーカー経験があり、その大半がMSW経験であること、②現在、急性期病院(急性期病床を有する病院を含む)でMSWを行っていること、③以下のいずれかの条件に該当すること(各種の職能団体や委員会で委員等を行いリーダーシップを発揮している人。大学院修士課程以上の在籍経験がある人。自らの実践を論文にまとめて発表した経験や、学会発表を行った経験がある人。スーパーバイザーとしての経験や、研究会を主宰した経験がある人。上記に類する活動を行っている人。)
 インタビュー・ガイドは以下の3点である。①MSWとしての新人期の実践と現在の実践には違いはあるのか。違いがあるとすれば、どのようなケースに違いがみられるのか。②違いがあるとすれば、その変化に影響を及ぼした患者・家族、職場内の他職種、職場外の関係者等との間で、どのような相互作用があったのか。③MSW業務について、現在どのような認識を持っているのか。
 修正版グラウンデッド・セオリーを用いて分析する際の分析テーマは「急性期病院に勤務するMSWが、患者・家族・職場内の他職種、職場外の関係者や、それ以外の要素との相互作用を経るなかでの実践能力獲得過程」、分析焦点者は「15年以上のソーシャルワーカー経験があり、各種のリーダーシップを発揮している急性期病院勤務のMSW」である。  

3.倫理的配慮

 本研究ではインタビュー調査の際に、データの扱いの守秘義務については文書と口頭で研究協力者に説明し了解を得ており、インタビュー承諾書を書いてもらった。また、得られたデータ内容については研究協力者に目を通してもらったうえ、個々の患者の個人情報が特定されないように細心の注意を払って分析を行った。 

4.研 究 結 果

 新人期から中堅期に至るまでの実践能力獲得過程のストーリーラインは、以下のとおりである。以下、概念を「 」でカテゴリーを【 】で表す。
 まず入職当初は、経験と知識、活用できる「レパートリーの乏しさ」から「見通しの無さ」のなかで実践を行うため、ケースによっては「視点の揺らぎ」があり、自らの業務範囲の「曖昧な線引き」状態が存在する。また、対クライエントレベルの「ミクロへの焦点化」しか行えておらず、次々にケースが持ち込まれると「機械的な処理」になりがちであり、総じて【余裕の無い関わり】になる傾向がある。また、「自分が一生懸命」になり、【専門職としての気負い】はあるが空回りすることも多い。さらに、他職種など【周囲からの未承認】の状態に置かれる。そしてそれらが相俟って「実践の出来なさ」に結びつき、それにより「自信の無さ」が生まれ、それがまた「実践の出来なさ」に影響するという【悪循環のジレンマ】が生じている。そのような状況でも、「スーパービジョン受講」、「学びの場への参加」、「社会的活動への参加」という【新たな視点の獲得】や【特定の人物からの影響】を受け、実践に必要な価値・知識・技術を継続的に学んでいく。また、誰かに「認められたい思い」を原動力としながら実践を続けていく。数年経つとある程度実践は行えるようになるものの「しっくりこない実践」となることがあり、「失敗対応への後悔」「病院の機能分化の進行」「病院内外からの要請」により、これまでのやり方や力量での「限界認識」の時期が訪れる。そして、「自らのあり方自問」という【実践の意識化】を行い、【自信をつけるためのアクション】に取り組む。実践能力を高めるためには、「スーパービジョン受講」、「学びの場への参加」を通して【新たな視点の獲得】を行う一方、病院内外のスタッフへの「ワーカー評価の伝達」や「業務整理」を行い、自らの業務範囲を明確にする【システム対処】行動に取り組む。これらにより「理論的裏付けの必要性認識」「システム理解の深化」「実践の意識化」がなされるだけでなく、「システムからの承認」が得られる機会となる。それらを経て、独立して一通りの実践が行える「スタンダード・パターンの確立」がなされる。  

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