自由研究発表方法・技術3  二本柳 覚

大学におけるケアマネジメント教育の効果に関する研究
 -過去5年間におけるケアマネジメント演習前後のアンケート調査から-

○ 日本福祉大学  二本柳 覚 (会員番号6983)
日本福祉大学  野中 猛 (会員番号5098)
キーワード: 《ケアマネジメント演習》 《ケアマネジメント作業指標》 《教育効果》

1.研 究 目 的

 A大学では、社会福祉学部保健福祉学科3年を対象に、ケアマネジメントプロセスに沿いながら、実際の事例を通して、ケアマネジメント活動をできるようになることを目的に、ケアマネジメント演習を開講している。多くの福祉系大学において、ケアマネジメントに関する講義が行われているが、ケアマネジメント演習を単独の科目として学部で教授している大学は多くはない。本研究では、学部教育におけるケアマネジメント演習を通して、学生のケアマネジメントに関する理解がどのように変化したのか、また年度によりそれがどのように変化しているのかを検証する。 

2.研究の視点および方法

 本研究では、A大学における2005年度から2008年度までのケアマネジメント演習受講学生を対象とした。調査は、演習による学びの変化を推し量るために、ケアマネジメント演習第1回目と最終回の2地点で行った。質問方法は、野中が開発したケアマネジメント作業指標(Work Index 以下「WI」とする)を用いて、ケアマネジメントの知的理解について、学生自身で質問項目に答える形で自己評価を行った。WIは、ケアマネジメントプロセスに含まれる、「インテーク(受理)」「アセスメント(査定)」「プランニング(計画策定)」「インターベンション(介入)」「モニタリング(追跡)」「エバリュエーション(評価)」「ターミネーション(終結)」に、「関連技術(記録方法、チームワーク、カンファレンス、スーパービジョン、ストレス対処法)」を追加した8カテゴリー51項目から成り立ち、信頼性・妥当性は2006年に行われた野中らの研究によって確認されている。なお、2009年度も同様の調査を行っているが、最終回の回答作業において評価シートが起動しないというパソコン上のトラブルにより、急遽、回答者本人の第1回目のデータが記載されたシートを使用した。そのため結果についてある程度の影響が出ていることが否定できないと判断し、今回の研究対象から一部除外している。  
 WIは、知的理解と実行程度について評価するものであるが、今回の調査においては対象が大学生となるため、知識レベルに付いて回答を設けた。項目はそれぞれ順に、「何のことか全くわからない」「おおまかにわかったが、一部の理解が危うい」「内容は何とか理解できた」「内容は理解できたが,人に説明するには自信がない」「すでにほぼ完全に理解しているし、人にも説明できる」とし、順に1-5の点数を配置した5段階評価で回答を求めた。  

3.倫理的配慮

 学生に対して、調査前にWIで自己評価する目的を説明し、その上で、この調査が開講科目の評価ではなく、学生本人の成績とは無関係であることを口頭で説明し、協力を求めた。また、得られた回答はすべてデータ化し、個人が特定されないように配慮した。 

4.研 究 結 果

 アンケート回答者539名中有効回答数395名、有効回答率73.3%であった。無効回答には,欠席などにより演習前後それぞれのアンケートをどちらか一方でも回答していないものがあり、これらを分析から除外した。  5年間通しての全項目における平均点は第1回2.60、最終回3.34である。また、2004年度より2008年度までの各項目における第1回目と最終回での平均値の差において、すべての項目において増加が見られ、対応のあるt検定でそれぞれ有意差が認められた(P<0.001)。5年間分の平均増加得点は、0.73であり、2005年を除く全ての年度において0.70を超える増加が見られた。
 項目別では、得点差として「アセスメント表の作成」が1.00増と最も高く、ついで「機関からの紹介」0.93、「ニーズの見極め」が0.90となっている。逆に、「資源開発」は0.52と最も小さな伸びとなっている。しかし得点数としては、「包括的な状況把握」が最終回の平均で3.94と最も高い。増加割合として最も高い「アセスメント表の作成」は3.40と、平均点の3.34と大きく変わらない。また、最終回の得点が3以下だったものは「記録方法(2.78)」「モニタリングの方法(2.82)」「費用対効果(2.85)」であった。カテゴリー別に見た場合、カテゴリー「インテーク」「アセスメント」が得点差が0.8以上になっており、「インテーク」は最も得点差が大きく0.84である。逆に全8カテゴリーの中で「インターベンション」「エバリュエーション」「関連技術」が0.6台と低い水準にあり、最も得点差が小さい「エバリュエーション」は0.64と、「インテーク」との差が0.20と開いている。そのほかの調査結果については当日報告する。
 ケアマネジメント演習受講者のほとんどは、「ケアマネジメント論」を3年前期に受講しており、理論については、ある程度の学習を行ったうえで本演習に臨んでいる。その点から、ケアマネジメント論受講の段階では十分ではなかった理解が、演習を通じてより深い理解へとつながっていったことが結果から読み取れる。しかしながら、特に実践を通じて理解する要素が強い項目に関しては、学校教育の場で如何に理解を促すことができるか、今後の工夫が必要と思われる。  

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