アセスメント対象としてのクライエント・ペット関係の重要性と援助者自身の
ペットとの愛着関係がクライエント・ペット関係のアセスメントに及ぼす影響
-米国の場合-
○ コネチカット大学 佐藤 亜樹 (会員番号2622)
キーワード: 《ペット》 《アタッチメント》 《ソーシャルワークアセスメント》
目的:この発表では、ソーシャルワークアセスメントにおいて、a) クライエントとペットとの関係がどのように扱われているのか、b) 援助者自身とそのペットとの愛着
(attachment) 関係が、クライエント・ペット関係のアセスメントに影響を与えているのか否かについて、米国のソーシャルワーカーを対象とした調査結果が報告される。
背景:クライエントとペットとの関係をどのように扱うかは、援助の成否に大きな影響を及ぼす (Cohen, 2002; Coren, 1997) 。米国の調査研究によれば、クライエントの中にはペットとの分離を恐れて、援助を躊躇または拒否する者が存在する (Ebenstein & Wortham, 2001; Faver & Strand, 2003a, 2003b) 。このような人々にとってペットは、情緒的なサポートの源であり(Anderson & Anderson, 2006; Cohen, 2002; Coren, 1997)、家族の一員である (Cohen, 2002; Risley-Curtiss et al., 2006; Risley-Curtiss, Holley & Wolf, 2006)。このような人々は、自分がストレスフルな状況に置かれてもペットを手放そうとはしない (Anderson et al., 2006; Cohen, 2002; Coren, 1997) 。したがって、クライエント・ペット関係を無視した介入は、時として、クライエントの生態系内の重要な社会関係を破壊し、最善のサービスを決定し、提供することを妨げるかもしれない。これまでに、ソーシャルワーカーがクライエントの生活におけるペットの役割をアセスメントしたかどうかについて、実証的に調査した研究は一例 (Risley-Curtiss, 2010) しか存在しない。
調査疑問・仮説:援助者がクライエント・ペット関係をアセスメントする頻度、そのアセスメントの内容が調査された。これらの設問以外にも2つの仮説が検証された。1)「援助者がいつペットを飼育したかは(子供時代/大人時代)、援助者自身のペットとの愛着関係の強さに影響を与える」、2)「援助者自身のペットとの愛着関係が強いほど、援助者はクライエント・ペット関係をアセスメントする」。
調査対象:調査標本は、米国東海岸の一州で、直接援助に従事しているソーシャルワーカーである (n=472、女性82.3%、白人89.6%、平均年齢49.9歳)
。この標本は、全米ソーシャルワーカー協会 (National Association of Social Workers: NASW) の当該州支部に所属する会員
(N=2,781) から無作為に抽出された1,650名のうち、過去5年間に直接援助者として援助機関に雇用され、クライエントへのアセスメントに携わっていると回答した人たちである。
調査手順:質問紙と返信用封筒、調査内容と手順の説明、謝礼 ($1) が被験者宛に郵送された。
測定用具:a)クライエント・ペット関係のアセスメントに関する質問紙:先行研究 (Risley-Curtiss, 2010)に基づいて新たに開発された10項目からなる質問紙を用いた。項目には、援助者がクライエント・ペット関係をアセスメントしているか否かとその頻度、実施しているアセスメントの内容を尋ねる質問が含まれる。
b) ペット・アッタチメント尺度(援助者自身のペットとの愛着関係を測定する尺度):先行研究 (Johnson, Garrity & Stallones, 1992; Stewart, 2006) に基づいて新たに開発された24項目からなる4点法リッカート尺度である。この尺度はアタッチメント理論
(Ainsworth, 1989; Bowlby, 1969/1982) に基づいて構成されたものであり、 4つの下位尺度、「近接性希求 (proximity
seeking) 」、「分離苦痛 (separation distress) 」、「安全な避難所 (safe haven) 」、「自己安定感の源泉
(secure base) 」によって構成されている。この尺度によって、援助者の子供時代 (18歳未満) 及び大人時代のペットとの愛着関係が測定された。本研究での尺度の内的一貫性信頼係数
(Cronbach Alphas) は、子供時代、大人時代ともに0.97であった。これら以外に、被験者の人口統計学的特性に関する質問及び所属機関の構造と機能に関する質問がなされたが、それらについては本発表では扱われない。
本研究は、発表者が所属する大学の「人間及び動物を被験者とする調査研究に対する機関審査委員会 (Institutional Review Board: IRB) 」によって実施の承認を得たものである。郵送された質問紙には調査の目的と手順を記した手紙が同封されており、a) 質問紙はNASWの当該州支部から提供された名簿から無作為に抽出された人々に送付されていること、b) 参加は自発的なものであること、c) 回答の身元特定につながる手順は含まれないことが強調された。
4.研 究 結 果ペット・アセスメントの頻度と内容: 472名の標本のうち、「クライエントの生活におけるペットの役割についてどの程度アセスメントしているか」という設問に対して、「いつもアセスメントする」と回答したのは7.5%、「しばしばする」は19.3%、「時々する」は
21.2%、「めったにしない」は9.2%、「全くしない」と回答したのは42.7%だった。「クライエントの生活におけるペットの役割をアセスメントする」と答えた者の多くが、「ペットの種類」(97%)、「ペットの名前」(86%)、「ペットが生活に楽しみをもたらすかどうか」(80%)をアセスメントした。一方で、「ペットは家族の一員か」(53.3%)、「ペットはストレス源となるか」(47.3%)、「ペットは獰猛か」(41.5%)についてはあまりアセスメントされなかった。
援助者のペット飼育経験: 472名の標本のうち、82.6%が子供時代及び大人時代の双方で、ペット飼育経験があると答えた(子供・大人時代飼育群)。9.5%は子供時代のみ(子供時代飼育群)、5.6%は大人時代のみ(大人時代飼育群)、ペット飼育経験があると答えた。ペット飼育経験のない者は2%であった。
援助者のペット飼育経験とペット・アッタチメント: 「子供・大人時代飼育群」、「子供時代飼育群」、「大人時代飼育群」のペット・アタッチメント平均得点の差が比較された。この3群の間には平均得点上の有意差が認められた
(F[2, 436]=17.19, p<0.001) 。「子供・大人時代群」の平均得点は「子供時代群」よりも有意に高かったが (p<0.001)、「大人時代群」との間には統計学的有意差は認められなかった
(p=0.13) 。「子供時代群」と「大人時代群」の平均得点には有意差は認められなかった (p=0.12) 。
援助者自身のペットとの愛着関係が、ペット・アセスメントに及ぼしている効果: 「援助者自身のペット・アタッチメント得点」を独立変数、「ペット・アセスメントの頻度」を従属変数として単回帰分析を実施した。この回帰モデルは統計学的に有意であり (F[1, 440]=28.8, p<0.001) 、標準回帰係数はs=0.25 (p<0.001)だった。
考察:この調査結果が示しているのは、a) 調査対象となったソーシャルワーカーの半数以上 (57.2%) が何らかの形でクライエントのペットの役割をアセスメントしていること、b)
援助者自身の個人的なペットとの愛着関係が、クライエント・ペット関係をアセスメントする際に、有意な影響を及ぼしていることである。この結果は、アセスメントに際して、ペットとの関係性を重要な社会関係として含めることの必要性、及び、ペットとの愛着関係を含む、援助者の社会関係上の個人的な経験が、専門的援助の方向性に有意な効果を与えることを示唆している。
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