子どものうつと問題行動への支援
-教師への心理教育を通して-
○ 帝塚山大学心理福祉学部 周防 美智子 (会員番号6723)
みのメンタルヘルス研究センター 三野 善央 (会員番号7299)
キーワード: 《子どものうつ》 《問題行動》 《心理教育》
近年、子どもの不登校やいじめ、無気力傾向、対人関係の弱さや暴力行為などに対して、子どもたちを抑うつという視点から検討する必要があるという指摘も少なくない。確かに、学校保健会や教育委員会の健康調査結果によると、惨めさや寂しさ、自信喪失、無気力感、楽しみの喪失、生きがいを見いだせないなどを訴える子どもたちが多く、調査結果から子どもの抑うつ症状の増加を疑わないわけにはいかない。また、文部科学省は平成20年度の「児童生徒の問題行動調査」で全国の小中学生の暴力行為が過去最多であると発表した。これらの現状を別々のものとして検討するのではなく、子どもの育ちの中で起きている現象として、子どものうつと問題行動の関係性を明確にし、問題行動によって情緒的QOLの低下を起こしている子どもの支援を考えることが急がれる。
しかし、わが国においては、子どものうつについての研究がほとんど行われていないのが現状である。また、児童精神医学の分野でいわれる子どものうつの精神症状や問題行動が、教育現場の実態から明らかにされていないことから、子ども支援につながる検討はされていない。本研究の目的は、(1)小学生のうつのと問題行動の関係を明らかにする。(2)支援方法として用いる、教師への心理教育が、子どものうつと問題行動に効果があることを明らかにする。(3)子ども支援の視点を子どものうつにも広げることの提唱。(4)学校における支援システムの確立、の4点である。
小学生のうつの実態と問題行動との関係性を明らかにするために、A県の2小学校2年生から6年生1,152名にBirlesonの自己記入式抑うつ評価尺度(Birleson Depression Self- Rating Scale for Children :DSRS-C)を用いて調査した。DSRS-Cは18項目からなるが教育現場での実施を配慮し『いじめ』『自殺』の項目を省いた。担任教師から子どもの抑うつ症状を基本とした「行動が年齢より幼い」「座っていられない、落ち着きがない」「いけないことをしても悪いと思わない」「暴言や暴力がある」「物を壊す」「学習意欲がある」「休み時間に友達の交流がある」「学校生活全般に元気がある」の8項目について行動評価をしてもらった。データ分析後、支援方法として教師への心理教育の効果を検討するために、教師への心理教育(個人面談2回、集団研修1回のプログラム)を行う介入校と心理教育を行わない対照校で、6か月後DSRS-Cと行動評価の再調査を実施した。しかし、わが国においては、子どものうつについての研究がほとんど行われていないのが現状である。また、児童精神医学の分野でいわれる子どものうつの精神症状や問題行動が、教育現場の実態から明らかにされていないことから、子ども支援につながる検討はされていない。本研究の目的は、(1)小学生のうつのと問題行動の関係を明らかにする。(2)支援方法として用いる、教師への心理教育が、子どものうつと問題行動に効果があることを明らかにする。(3)子ども支援の視点を子どものうつにも広げることの提唱。(4)学校における支援システムの確立、の4点である。
3.倫理的配慮本研究は、2009年度大阪府立大学人間社会学部・人間社会学研究科研究倫理委員会に承認されている。調査の前に、プライバシー保護などに関する説明を2小学校長と全教師に行い、調査協力を依頼し同意を得ている。また、研究当事者が子どもであることを配慮したうえでの研究説明を行い、同意の上で回答を依頼する文章を質問票の最初につけた。
4.研 究 結 果 1回目の調査では、抑うつ状態を示す子どもたちは、全体の11.6%で、我が国の先行研究(村田、1989・傳田、2002)より高い値であった。また、学年差がほとんどないこと、男子のほうが女子より高い値であったことも今までの報告とは異なる点であった。2校による差はほとんどない。抑うつ状態の子どもと行動評価を重回帰分析したところ『行動が年齢より幼い』『物を壊す』『学習意欲がある』『休み時間の友人交流がある』の項目で関係性があった。
心理教育として行った面談で、抑うつ状態の子どもがクラスに5人以上いる教師から、「子どもがぼーっとしていたり、ざわついていたりすることから指導が入らない、いつも注意をしたり怒ったり、気持ちがしんどい、自分の力不足と責めてしまう、子どもと距離ができてしまう」などが聴かれた。心理教育後は、「しんどい子どもが多いと分かり気持ちが楽になった、子どもの気持ちが理解できる、対応に配慮ができる、自分に余裕ができると子どもが落ち着き始めた」などに変り、教師と子どもの関係が改善され、互いに安定しだし、子どもの問題行動の減少が見られた。対照校では、教師の自責、しんどさ、対応方法への不安などが持続し、子どもの様子にもほとんど変化が見られなかった。
2回目の調査分析で、介入校は抑うつ状態の子どもが全体の3.3%、対照校は10.7%であった。行動評価との関係でも介入校については『学習意欲がある』『休み時間の友人交流がある』のみに関係性が見られたが、対照校は前調査と変わらなかった。
この研究により、小学生に抑うつ状態を示す子どもが存在し、抑うつ状態によって問題行動が起き、学校での情緒的なQOLの低下を起こしている可能性があること、また、支援の方法として教師への心理教育が有効である可能性が大きいことの根拠が得られた。
1)Birleson,p(1981):The validity of depressive disorder in childhood and
the development of a self-rating scale..J.Child Psychiatry.,22:47-53,
2)村田豊久・堤龍喜・皿田洋子他(1989):『児童・思春期の抑うつ状態に関する臨床的研究Ⅱ.CDIを用いての検討』、厚生省『精神・神経研究委託費』63公―3児童・思春期精神障害の要因および治療に関する研究、昭和63年度報告、pp69-76
3)傳田健三(2002):『子どものうつ病―見逃されてきた重大な疾患―』金剛出版