自殺相談における社会福祉士の役割についての一考察
-富山市保健所における自殺相談をもとに-
○ 富山市保健所 中島 眞由美 (会員番号7455)
キーワード: 《自殺対策》 《相談援助》 《社会福祉》
平成10年に自殺者が3万人を超え12年になる。このような中で、平成18年に自殺対策基本法が制定され、自殺は個人の問題ではなくその背景に社会的な要因があることから社会的な取組として実施すること、精神保健的な観点からのみならず、自殺の実態に即して実施することが述べられた。平成19年9月のリーマンブラザーズの経営破たん以後、世界的な経済情勢の悪化に伴い、国では、緊急に雇用機会を創出するための基金や自殺対策強化基金が創設され、また、ハローワークや社会福祉協議会等が連携し、仕事、住まい、生活に困った方の支援に取組み、各自治体でも自殺対策が本格的に実施されるようになった。
富山市は、人口42万人の中核市で自殺による死亡は年間約100人で推移しており、平成20年の自殺者数は110人(人口10万対26.3)で全国より自殺率が高い傾向にある。平成19年度より精神保健分野を中心に自殺対策に取組んでいたが、平成21年10月より、保健・医療・福祉・経済・教育等が連携し、「富山市自殺対策連絡会議」を設置し、総合的に自殺対策を推進している。平成21年度の富山市保健所の自殺相談件数は、実数131件、延数1278件で、相談件数が急増しており、関係機関では社会福祉事務所での生活保護申請件数、社会福祉協議会の相談件数も急増している。
自殺に関する相談は個人の問題だけでなく社会的な要因への対応も必要なことから、その相談援助にあたる者も、ソーシャルワークの実践理論に基づく介入が求められると推察される。そこで、本研究では、富山市保健所が受けた自殺相談実績を分析するとともに、自殺相談おける社会福祉士の役割について考察する。
富山市保健所の相談担当者は8人で、内訳は、保健師3人(内社会福祉士1人、精神保健福祉士1人)、看護師1人、精神保健福祉士4人(内社会福祉士2人)である。相談を受理後、相談内容及び介入方法を話しあい、担当者を決め相談に対応するとともに、訪問及び来所については原則、保健師または看護師と精神保健福祉士がペアで対応している。本研究では、自殺対策プログラムの中でも「相談」に視点をあて、富山市保健所における自殺相談結果を分析した後、社会福祉士資格のある者が介入した事例と介入しなかった事例において、相談の要因や方法に差があるか統計処理を行い分析し、自殺相談における社会福祉士の役割について考察する。なお、相談分類は警察庁の分類を用いた。
3.倫理的配慮本研究は、個々の担当者が情報を共通ファイルに入力しプライバシーの配慮から氏名等個人を特定したものを削除したものを用い、発表にあたっては富山市保健所の許可を得た。
4.研 究 結 果(1)相談者の属性
相談者は男性52人(39.7%)、女性78人(59.5%)、不明1人(0.8%)であった。年代別では、30代が一番多く27人(20.6%)であった。精神科受診歴のある人は81人(61.8%)、自殺未遂歴のある人は41人(31.3%)であった。
(2)相談の要因、方法及び回数
相談の要因は、健康問題が108人(82.4%)、家庭問題が82人(62.6%)、経済・生活問題が68人(51.9%)、勤務問題24人(18.3%)、その他35人(26.7%)であった。複数の要因を持つ人が107人(81.7%)で、平均値は2.42であった。 相談延数は、来所が99回、訪問が315回、電話が864回で、総数は1278回であった。一事例あたりの相談回数は、平均9.76回であった。
(3)社会福祉士資格のある者が介入した事例と介入しなかった事例の比較
社会福祉士資格のある者が介入した事例と介入しなかった事例においてそれぞれの変数に差があるかt検定を行ったところ、
①相談の要因数では、0.01%の水準で有意な差があった。要因別では、勤務問題、経済・生活問題では0.01%、家庭問題では0.5%で有意な差があった。健康問題、その他の問題で有意な差がなかった。
②相談延数は、総数では0.01%の水準で有意な差があり、訪問では0.01%、電話では0.1%の水準で有意な差があり、来所では有意な差がなかった。
本研究は、富山市保健所の相談実績を分析しており、機関の特性から健康問題の要因が多い。また、調査研究的に相談援助のプロセスにそって介入の具体的な検証をしたわけではなく、この分析をもって自殺相談における社会福祉士の役割を論じることはできない。しかしながら、本研究において社会福祉士資格のある者が介入した事例は介入しなった事例に比べ、相談の要因数が多く、勤務問題、経済・生活問題、家庭問題を抱えている場合が多いこと、訪問による相談が多い特徴があった。このことは、事例の担当を決めるプロセスが影響していること、問題解決の方法として、社会福祉士資格のある者が勤務問題等、他の領域と連携が必要な事例において、訪問等を通して問題の解決を図っていることと関係していると推察される。自殺の相談は、相談を受けた者が別の機関と連携し包括的に問題解決のマネジメントを行う役割が期待されると考えられる。