自由研究発表方法・技術2  山下 浩紀

「社会福祉士の倫理綱領」に対する認識状況に関する研究
 -「利用者に対する倫理責任」に焦点をあてて-

○ 専門学校日本福祉学院  山下 浩紀 (会員番号6489)
キーワード: 《社会福祉士》 《倫理綱領》 《養成教育》

1.研 究 目 的

 2005年6月3日,社団法人日本社会福祉士会第10回通常総会において,「社会福祉士の倫理綱領」が採択された.これは,日本社会福祉士会だけではなく,国際ソーシャルワーカー連盟(IFSW)に加盟する国内4団体共通の倫理綱領である.倫理綱領については,専門職が実践を行う際の拠り所として重要視されなければならないものといわれているが,未だ十分に浸透しているとはいえない現状がある.
  本研究では,「社会福祉士の倫理綱領」について,社会福祉士有資格者及び社会福祉士取得を目指している人が倫理綱領の内容を認識できているのか等を質問紙にて調査し,「社会福祉士の倫理綱領」の認識の現状と課題を明らかにすることを目的とした.  

2.研究の視点および方法

 社会福祉士有資格者及び社会福祉士取得を目指す人を対象に,質問紙を用いた量的調査を実施した. 調査の対象は,社会福祉士有資格者が多く含まれるA専門学校精神保健福祉士短期養成施設通信課程受講生215名(以下,精神受講生),社会福祉士取得を目指すA専門学校社会福祉士一般養成施設通信課程受講生682名(以下,社会受講生),福祉系大学であるB大学82名とC大学63名の学生を対象とした.有効回収率は75.1%であった.
 調査内容は,①「社会福祉士の倫理綱領」の存在を知っているかどうか,②「価値と原則」5項目の実践度について,③「倫理基準」の「利用者に対する倫理責任」に限定し,「倫理基準」と「社会福祉士の行動規範」をもとに20項目のビネットからの認識状況を調査した.上記の項目について,単純・クロス集計後,カイ2乗検定を行った.解析処理はSPSS17.0を使用した.  

3.倫理的配慮

 対象者には個人が特定されないこと等を説明し協力依頼をした上で,口頭による同意を得て調査を実施した.また,東洋大学大学院倫理審査委員会の審査を受け,承認された. 

4.研 究 結 果

 「社会福祉士の倫理綱領」を知っているかどうかについては,精神受講生では「知っている」が81.9%で,社会受講生では「知っている」が70.6%で,精神受講生のほうが社会受講生よりも有意に高かった.(P<0.05)一方,B大学とC大学においては,調査対象学年が1,2年生であったが,B大学の「知っている」が71.3%で,C大学の「知っている」が20.6%と認識に大きな差があった. 「利用者に対する倫理責任」のビネット調査では,「親友から認知症の親の支援を頼まれ,昔からよく知っている人なので自分が自ら担当者になった」というビネットに対し,倫理的に問題がある行為と感じているのが,A専門学校合計では38%であった.社会福祉士有資格者においてもほぼ同様であった. また,「利用者宅を訪問した際,利用者からの好意で菓子折を渡されたが,本人との今後の関係も考慮し受けとった」というビネットでは,倫理的に問題がある行為と感じているのはA専門学校合計で57%であった.
 さらに,「児童養護施設の児童が記録の閲覧を希望したが,本人への精神的な影響が大きいと判断して閲覧を拒否した」というビネットのように,倫理的に問題ではない行為にも関わらず倫理的に問題ある行為としていたのがA専門学校合計で50%あった.そのほか「知的障害のある利用者の認定調査時に,サービスを多く受けることができるよう,実際よりも状態を悪く伝えた」というビネットのように,明らかに倫理綱領に反した行為であるにも関わらず,「倫理的に大いに問題がある」と回答した人は61%であった.
  年代とビネットによるカイ2乗検定では,9項目で有意な関連があり,「20歳代」の認識が他の年代に比べ低い状況であった.性別とビネットでは,10項目において有意な関連があり,女性のほうが高かった.この理由は何によるものなのか,女性のほうが倫理綱領に対し忠実なのか,さらに分析が必要であるが,男性に比べ,女性のほうが「社会福祉士の倫理綱領」を知っていると回答した割合も11.8ポイント有意に高かった.
  精神受講生の97.2%が社会福祉士有資格者で,そのうち「日本社会福祉士会」会員は44.2%であった(平成21年9月末入会率24.75%).社会福祉士と精神保健福祉士の有資格者と資格なしとのカイ2乗検定では,2項目で社会福祉士有資格者のほうが認識状況の割合が高く有意であったが,2項目で資格なしのほうが認識状況の割合が有意に高かった.
 本研究から,次の結果を得た.①倫理綱領の内容に誤った認識が見られたこと,②社会福祉士有資格者とそうでない人とで認識状況に差がないこと,③専門職団体の会員と非会員においても,認識状況に差がないこと,④性別において,半数の10項目で女性のほうが男性に比べ認識状況が有意に高かったこと,⑤年代において,20歳代の認識状況が他の年代に比べ有意に低い項目が9項目みられたことがあげられる.
 しかしながら,今回の調査は「利用者に対する倫理責任」に限定した調査であり,この結果からは,認識状況が十分でない項目があるとしかいえないが,専門職である社会福祉士及び社会福祉士取得を目指す人において,「社会福祉士の倫理綱領」の認識の向上を図り,専門性を備えた社会福祉士としてソーシャルワークの実践が行われるよう,今後は養成校側だけでなく実践現場や各専門職団体においても,現任者研修等の何らかの対策を講じることが課題である.
(本研究発表は平成21年度東洋大学大学院での修士論文の一部をまとめたものである)  

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