専門職倫理のあり方に関する研究
-メゾの視点を通して-
○ 日本福祉教育専門学校 金井 直子 (会員番号6301)
キーワード: 《専門職倫理》 《社会福祉士》 《福祉サービスを提供する組織・機関》
2007(平成19)年12月に改正された『社会福祉士及び介護福祉士法』は、福祉ニーズの広範化と深刻化する様々な福祉問題に対応できる社会福祉士を想定して実施されたものであるといわれ、社会福祉士には総合的かつ包括的な相談援助の担い手としての役割が期待されている。また、そのような現状のなかで、社会福祉士がそれらの役割を担っていくためには、今まで以上に社会福祉専門職としての価値と倫理を土台とした実践が求められるとともに、専門職としての価値観を明らかにした職能団体としての倫理綱領が重要な意味を持つ。
現在、社会福祉士の専門職倫理については、特にミクロの視点(個人・家族への支援)においてその必要性が重要視されているが、多くの社会福祉士は組織や機関に所属しており、実践を行っていくためには、メゾの視点(福祉サービスを提供する組織や機関)における倫理的判断が必要となる。
そのため、本研究においては、メゾの視点における社会福祉士の専門職倫理に基づいた、実践を明らかにすることを通して、専門職倫理のあり方を考察していく。
社会福祉実践の立場から、メゾの視点における専門職倫理のあり方について研究を行う。尚、先行研究については、本研究と同じ志向で書かれた類書は見当たらないこともあり、本稿で用いている文献を整理し分析した。また、協力が得られた地域包括支援センターに勤務している社会福祉士のメゾの視点における専門職倫理に基づいた支援の実態の把握に努めた。特に、機関や組織の理念や方針、他の専門職、利用者支援と組織的実践、倫理綱領等との関係について着眼し、聞き取りを行った。
3.倫理的配慮インタビューの実施に関しては、調査前に口頭及び書面にて、①インタビュー調査の内容の使用目的、②個人情報の保護及び秘密保持等について説明をし、同意を得た上で調査を実施した。
4.研 究 結 果 社会福祉士として優れた支援者になるためには、専門職の価値と倫理という土台をしっかり据え、これらが日々の実践のなかで実現できることを通して、人々からも社会からも信頼されることになる。また、そのためには、社会福祉士は倫理綱領を十分に理解し、実践において適切に活用していかなければならない。 社会福祉士は日々の実践を行っていくために、まずマクロの視点において、利用者や家族にとって適切な支援のあり方を社会福祉の価値に基づいて判断し、また、その判断をもとに、メゾの視点に立った社会福祉の価値に基づいた判断を行っている。そして、これらを過程のもとで、日々の実践が行われている。
本研究において、専門職倫理をメゾの視点より考察することを通して、①社会福祉の価値に基づいた適切な判断をしていくためには、組織や機関の理念や方針が明文化されていることは勿論のこと、それらがそこで働く職員の行動基準となること、②他の専門職における倫理綱領との交流、③組織や機関における専門職倫理の普遍化、③専門職や非専門職が活発に議論できる職場環境等が必要であるという示唆が得られた。
また、ソーシャルワークでは、クライエントが人間である以上、その意向や適切な対応が明確にできない曖昧なことが存在し、また、クライエントの環境のなかでも人的資源が非常に重要な位置を占めることからも、それぞれの価値や義務が複数存在し、「これが正しい」と誰もが同意する判断を下せないことが多いといわれ、これらは「倫理的ジレンマ」と呼ばれている。しかし、本研究で得られた示唆を可視化することを通してこれらの「倫理的ジレンマ」を克服することにつながるのではないだろうか。
本研究は、試論として論じられたものであり、今回はメゾの視点における専門職倫理について考察を行ったが、今後はマクロの視点に立った専門職倫理のあり方について考察することも非常に重要なことである。そのような点からも、さらなる研究が必要であり、今後も継続して取り組んでいきたい。