地域包括支援センター実践にみる地域包括ケアのあり方
-困難ケース解決と社会福祉協議会との協働事例を通じて-
○ 島根大学 加川 充浩 (会員番号5078)
キーワード: 《地域包括ケア》 《地域包括支援センター》 《社会福祉協議会》
本研究は、地域包括支援センターのソーシャルワーク実践を通して、地域包括ケアを形成する方法を明らかにすることを目的とする。地域包括ケア形成を構想する範域は市町村とする。研究結果の部分では、次の3つについて議論を展開する。①地域包括支援センターが地域包括ケア形成において果たすべき役割とは何か、②政策・実践の両面における地域包括ケアの枠組みをどう考えるか、③インフォーマル資源をケアに取り入れるために社会福祉協議会との役割分担をどう設定すべきか、の3点である。
2.研究の視点および方法 本研究は、地域包括支援センターの実践事例を分析対象とする。その際、次の3つの視点で実践を分析・考察する。第一は、センター業務の中でも地域包括ケア実践に着目する。歴史的にみると、地域包括ケアは自治体病院が中心となった取り組みが出発点である。例えば、自治体病院内に行政の保健・福祉部門および介護サービス部門を併設し、保健・医療・福祉の統合化を図るといったことである。一方、近年になりそれだけではない地域包括ケアの実践も求められている。一例をあげれば、高齢者介護研究会が2003年に発表した報告書にあるような地域包括ケアの考え方である。そこでは、介護保険制度を前提としつつ、インフォーマル資源も利用したケアが志向されている。本研究では、こうした新しい地域包括ケアのあり方を考察しようとする。
第二には、困難事例への対応に着目する。これまで困難事例に対応してきたのは在宅介護支援センターおよび福祉事務所である。従来の研究においても指摘されるところである。しかし、2006年以降は、地域包括支援センターが困難事例への対応を担うことになった。困難事例への対応に着目する最も大きな理由は、「多職種連携」がみられるからである。前述との関係でいえば、地域包括ケアを推進するにあたり不可欠の要素として多職種連携(保健・医療・福祉の連携、およびそれとインフォーマル資源の連携を指す)がある。地域包括ケアは、単一の専門職だけでは形成できない。それゆえ、多職種が関わるソーシャルワーク実践の営みを通じて形成されるものである。
第三は、個別援助と地域援助の統合に着目する。別言すれば、フォーマル資源とインフォーマル資源の両方を用いる福祉援助をどう展開するか、という関心である。現在、地域包括支援センターには両援助の統合を行うような実践が期待されている。しかし、センターのみの関与ではそれを実現することは困難である。インフォーマル資源を活用するという点では、社会福祉協議会の役割も地域包括ケア(両援助の統合)には不可欠である、との問題関心を本研究では有している。そのため、本研究では、地域包括支援センター同様、社会福祉協議会も重要なアクターとして描こうとする。
研究の方法について述べておく。本研究では、Y市の地域包括支援センターと社会福祉協議会の実践を紹介する。調査では、Y市地域包括支援センターが2009年度上半期に実施した困難事例(全14件)を把握した(ケース記録閲覧および聞き取り)。本研究ではそのうちのいくつかを紹介する。同時に、社会福祉協議会と協働して行ったソーシャルワーク実践についても紹介する。
本研究の調査においては、困難事例を収集するなかで個人情報および個人プライバシーに触れる機会があった。配慮としては、①Y市地域包括支援センターに事例閲覧の許諾を得た、②事例を詳細に伺う聞き取りなどの際には個人を特定できないようにして情報を提供いただいた、③事例を研究に利用する際には家族設定を大きく変更するなど個人が特定できないようにした、④これら措置を含め、日本社会福祉学会研究倫理指針および国立大学法人に属するものが従うべき規定を遵守するようにした。
4.研 究 結 果 事例調査ともに、研究結果として次の3つの示唆が得られた。第一は、地域包括支援センターが持つべき固有の視点が重要となることである。困難事例の解決のためには多職種連携が不可欠である。センターは事例に関わる複数の専門職のいずれもが有しない視点を持ちながら解決に当たっていた。あえて3つあげるならば、コーディネート、家族間調整、および解決課題の設定、である。要約すれば「総合性」という視点とも言える。
第二は、地域包括ケア推進のためには、政策・実践の領域において3つの要素を展開する必要である。それは、政策(自治体が地域包括ケアを牽引する働き)、共有ツール(市町村内の専門職が多職種連携の際に共有して使うことのできる解決のためのツール)、およびケース対応(第一線の現場で専門職が多職種連携を行う慣行や文化が根付いているか)の3つである。この3つが市町村内に過不足無く整備されていれば、地域包括ケアの形成はさほど困難ではない。しかし、現実的にはそうした状況にはない。また、この3つの要素は、それぞれ積極面と消極面の両方を有する。そのため、各市町村の状況によって3つの要素への力点の置き方は異なると思われる。
第三は、地域包括支援センターと社会福祉協議会の役割分担についてである。前者は、専門職の組織化(個別の要援護者支援)を、後者は、地域の組織化(住民・組織への働きかけ)を担う。地域包括ケアとは、その接点に形成されるものであるため、両者の連携が不可欠である。