精神障害者の就労支援方法としての 職業リハビリテーションとソーシャルワークの比較
○ 関西福祉科学大学大学院 御前 由美子 (会員番号7258)
キーワード: 《利用者の特性》 《参加と協働》 《意欲》
障害者の就労支援は緊急の課題になるとともに、就労への関心は高まりをみせている。しかし、現在行われている障害者に対する就労支援は、職業リハビリテーションによる支援がほとんどであるため、疾病と障害の併存があるために自信や意欲を低下させている精神障害者に対する支援としては、問題が多いとされてきた。精神障害者の特性に考慮した職業リハビリテーションによる支援方法の研究も始まっているが、自信や意欲の向上を期待できるかは疑問である。
そこで、現在行われている就労支援方法としての職業リハビリテーションとソーシャルワークによる就労支援を比較するとともにその関係を整理することで、精神障害者に対する就労支援方法を考察する。
(1)職業リハビリテーションとソーシャルワークによる就労支援方法の整理
(2)職業リハビリテーションとソーシャルワークによる就労支援の関係の考察
(3)自信や意欲の低下した精神障害者に対する就労支援方法の考察 を目的としている。
本研究では、以下のような手順で研究を行った。
(1)先行研究から、職業リハビリテーションにおける作業工程の工夫を整理する。
(2)先行研究から、職業リハビリテーションの特性を整理する。
(3)事例研究から、就労支援としてのソーシャルワークにおける特性を活かした作業や作業工程の工夫を整理する。
(4)事例研究から、ソーシャルワークによる就労支援の特性を整理する。
(5)(1)~(4)から、職業リハビリテーションとソーシャルワークによる就労支援方法を比較する。 (4)これらから、職業リハビリテーションとソーシャルワークによる就労支援の関係を整理するとともに、自信や意欲の低下した精神障害者に対する就労支援方法を考察する。
事例については、日本社会福祉学会研究倫理指針にもとづき、事前に当事者から了解を得たうえで、地名、法人名、個人名などの固有名詞は使用せず、実際のイニシャルではないA県、B市、Cさん、D法人と表記することで、個人が特定されないように倫理的配慮を行っている。
4.研 究 結 果本研究において、以下のような結果が得られた。
(1)職業リハビリテーションの目的は、経済的自立であるのに対し、ソーシャルワークでは、生活の中での実感である。
(2)職業リハビリテーションは、一般就労を対象としているのに対し、ソーシャルワークは生活を対象としている。
(3)職業リハビリテーションの視点は、適応であるのに対し、ソーシャルワークでは、人と環境の相互変容関係である。
(4)職業リハビリテーションの焦点は能力であるのに対し、ソーシャルワークでは社会的自律性である。
(5)職業リハビリテーションの特性は一方向であるのに対し、ソーシャルワークではボトムアップ、フィードバックという特性である。
(6)職業リハビリテーションの形態は訓練であるのに対し、ソーシャルワークでは参加と協働である。
(7)このようなことから、一般就労のための訓練には職業リハビリテーション、自信や意欲の低下した精神障害者に対しては、ソーシャルワークによる就労支援が適切ではないかと考えられる。
今後は、
(1)利用者の特性を発見していくための方法の研究
(2)事例の積み重ねを行うこと という課題とともに、就労場面において、利用者の特性を活かした作業を一層創りだしていく工夫も必要であると考えている。