自由研究発表方法・技術1  塩田 祥子

わが国におけるピア・グループ・スーパービジョン実践について考える
 -文化的視点からの問題提示-

○ 梅花女子大学  塩田 祥子 (会員番号3523)
             植田 寿之 (会員番号3222)
キーワード: 《ピア・グループ・スーパービジョン》 《グループダイナミックス》 《文化》

1.研 究 目 的

 福祉現場においてスーパービジョンの必要性が謳われる中で、職場内、外、そして職種を問わず集い、自らの資質向上あるいは支え合いの場としてピア・グループ・スーパービジョンが求められつつある。しかし、ピア・グループ・スーパービジョンの浸透が福祉現場において十分でないことも否定できない。その形態、方法は文献や研修で紹介されることはあっても実際には十分に生かしきれていない。なぜなら、それらは、欧米発のスーパービジョンの流れをくんだ一つのマニュアル提示であって、日本の福祉現場に沿うあり方を示していると言い切れるものではないからである。
 ピア・グループ・スーパービジョン(peer group supervision)は仲間同士のスーパービジョン、あるいは同僚間スーパービジョンと訳されることが多い。しかし、日本人が「仲間」と捉える人対人の関係性と、欧米発の“peer”の間には隔たりがあるように思われる。そもそも、欧米で謳われているピア・グループ・スーパービジョンは、メンバーが主体性を発揮し、一個人として確立されていることが前提となる。メンバーがそれぞれ対等に発言し、対等に学ぶということがピア・グループ・スーパービジョンを成り立たせている。しかし、日本人の自律性、主体性の乏しさは多く述べられているところである。また、普段の人間関係(上下関係や立場等)や、相手がどう思うかを気にする日本人にとって対等という関係が成り立つのかという疑問が生じる。グループを先導するスーパーバイザーがいないピア・グループ・スーパービジョンにおいて、グループの進むべき方向性の責任はメンバー一人ひとりにある。主体性が十分でない日本人が、そもそもスーパーバイザーのいない対等な関係が求められるピア・グループ・スーパービジョンを実践することができるのであろうか。あるいは、実践していたとしても欧米でみられるピア・グループ・スーパービジョンとは違った形態、あり方を示すことが予想される。そう考えるならば、欧米で謳われているピア・グループ・スーパービジョンの方法、技術、留意点をそのまま引用するのは無理がある。そのままの引用はすなわち方法、技術そのものの模倣に過ぎず、日本人が求めるピア・グループ・スーパービジョンにはなり得ないと考える。
 そこで本報告では、日本人の文化的理解を図りながら、ピア・グループ・スーパービジョンの主要な概念となる自律、仲間、集団のあり方や人間関係、対話の方法について検討を行い、日本におけるピア・グループ・スーパービジョンのあり方を検討していく。そのことが、日本人が求める、あるいは、日本人が活用しやすいピア・グループ・スーパービジョンのあり方を模索することにつながると考えるものである。  

2.研究の視点および方法

①日米の先行研究を中心にピア・グループ・スーパービジョンの下位概念を導く、②文献により日本の集団における文化的特質をふまえる、③①②をもとにリサーチクエッションを導きだしインタビュー調査をする、④文献でまとめたものとインタビュー調査結果との関連を調べ、日本の福祉現場に生きるピア・グループ・スーパービジョンのあり方について検討する。 

3.倫理的配慮

① 文献引用の際には、自説と他説を峻別することに注意を払った。
② インタビュー対象者には、インタビュー目的、録音、文書作成方法、公開方法への説明を行い、同意を得る(すでに行ったものに対しては同意を得た)。  

4.研 究 結 果

(1)現段階でのインタビュー調査の結果(現在インタビュー調査中)
 「仲間」とは「気が合う」「立場を考えなくていい」「自分が楽でいることができる」存在である。すぐに仲間意識が芽生えるものではなく、①うちとける(人間理解)、②尊敬(専門職理解)という段階を踏んでいる。また、自分が話していることが通じている、わかってもらえているということは、グループ実践の中で意識することはない。いわば、「話しやすい」あるいは「話しにくい」といったことをメンバーに対して「何も感じない」のである。そのため、わかってもらうために気負うといったストレスはなく楽な時間を過ごすことができる。だからこそ、次回のピア・グループ・スーパービジョンを楽しみに思えるのである。グループの中でメンバーそれぞれへの気遣いはあるが、それが負担となるものではない。なぜなら、ピア・グループ・スーパービジョンは、誰のためでもなく「自分のため」の実践と言いきれるからである。
(2)調査結果を踏まえた考察
 相手を気遣い思いやる日本文化の中で、集団の中で「主体性」が発揮できるか懸念するところであったが、文化の中で培われた無意識のうちの気遣い、思いやりは、一人ひとりに対して重くのしかかるものではなく、ごく当たり前のこととして受けとることができる。日常的に気遣いや思いやりを前提としての関係性が構築されており、関係の中での相互作用は自然の現象として受け取れる。それゆえ、「分かり合う」ということや「お互い様」の関係に対しては言語化することが難しいように思われた。一方、主体性については意識できるものであり「自分のため」とはっきり言語化されている。また、「話しやすさ」「話しにくさ」を「何も感じない」という表現は、対話において受け身的な日本人の特徴ともいえる。しかしそれが専門的な技術からもたらされたものなのか、メンバー間でうち解けた結果得られたものなのか検討する必要がある。いずれにしても、居心地のよい関係は集うことの動機付けに結びつくが、スーパービジョンそのものの効果は定かではない。
 相互作用が自然に実践できる日本文化においては、仲間同士の支え合いはより実践しやすいといえる。しかし、途中で参加しなくなったメンバーの支え合いについて今後検討していく必要がある。無意識にある「仲間」意識についてインタビュー調査を続けるとともに、日本の福祉現場に即したピア・グループ・スーパービジョンのあり方についての解釈を続ける(詳細は当日のレジメにて提示)。  

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