自由研究発表方法・技術1  丸山 裕子

ハイリスク利用者システムへのチーム・アプローチに関する研究(2)
 -チーム・アセスメント支援ツール開発を指向したヒアリング調査
  に基づく考察-

○ 桃山学院大学  丸山 裕子 (会員番号1662)
キーワード: 《チーム・アセスメント支援ツール》 《ハイリスク利用者システム》 
《ソーシャルワーク専門職の固有性》

1.研 究 目 的

 本研究は、太田義弘のエコシステム構想に依拠しながら、エコシステム研究会として積み上げてきたコンピュータ活用による多目的支援ツール(エコスキャナー)の開発研究過程から新たに着想に至ったテーマである。これまで、平成15-17年度基盤研究C(1)「ソーシャルワーク実践過程へのコンピュータツール活用による教育支援システムの研究」(太田義弘・中村佐織が研究分担者として参加)、平成18-19年度基盤研究C「精神医学ソーシャルワークの協働過程への利用者参加型アセスメント支援ツールの研究」と教育支援ツールから実践支援ツールへと開発研究を継続してきた。
  この過程で、精神保健分野で活動するソーシャルワーカー(以下PSWと略)とのかかわりから、近年は問題が複雑化・多様化しており、発達障害や適応障害などそれまでは一般的ではなかった新規の患者が急増していることが理解できた。もはや、現存する制度やサービスの活用による解決につながるような事例や精神障害者とよばれる人のみを利用者として支援することで問題解決や軽減に向かうような事例は減少傾向にある。いわゆる処遇困難事例や多問題家族と表現される利用者システム(本研究ではハイリスク利用者システムと表現)への支援がソーシャルワーカーに求められているとの印象を強くした。また、PSWと同様に教育支援ツール用の事例提供者からも、他職種というよりは、他領域の、時には同領域の異なる機能をもつ機関・施設に所属する社会福祉専門職の理解不足や対応への不満と連携の難しさが語られた。どちらの立ち位置から問題をとらえているのかの相違はあるが、本来ソーシャルワーカーとして解決に向けて取り組む問題は同一のものであろう。上記の研究過程を通して、ハイリスク利用者システムへかかわる各関連領域からなるチーム・アセスメントへのニーズや重要性を実感している。これまでの研究成果の蓄積を基盤とし、ハイリスク利用者システムへのソーシャルワーカーによるチーム・アセスメントを支援するツールの開発へつなげていきたいと考えている。研究経過の詳細に関しては、日本社会福祉学会第56回全国大会にて「ハイリスク利用者システムへのチーム・アプローチに関する研究(1)-支援ツール開発を試行した事例の分析を通して-」と題して報告した。
 本報告では、アセスメント内容と支援活動を分析し、支援ツールで用いる項目を検討するための基礎研究として行ったハイリスク利用者システムの事例に関するソーシャルワーカーへのヒアリング調査の結果に基づき考察を試みたい。  

2.研究の視点および方法

 本研究におけるチームとは、他職種を含んだものではなく、ハイリスク利用者システムにかかわる様々な領域のソーシャルワーカーから構成されることを前提としている。しかし、その立ち位置はPSWとしての視点からのものである。
 研究の方法としては、以下のようなヒアリング調査を中心とした。
(1)ハイリスク利用者システムにかかわり対応に苦慮した経験のあるPSWやPSWとしての現場経験を有する研究者から事例のヒアリング
(2)PSWが経験したハイリスク利用者システムへの事例を収集する一方で、児童、高齢者など他の領域からみた精神障害者とよばれる人たちがかかわっている事例に関するヒアリング
(3)実践事例を用いての複数のソーシャルワーカーによるツール検証作業 事例に関しては、少なくとも異なる領域で活動する3名の社会福祉専門職(うち1名PSW)がかかわったハイリスク利用者システムを想定した。また、ヒアリングに際しては、ソーシャルワーカーとしての共通基盤を有していることが重要になるため、かつてのゼミ生であるソーシャルワーカーや一緒に仕事をした経験のあるソーシャルワーカーや現場経験のある研究者などに主に協力を依頼した。  

3.倫理的配慮

 事例提供者であるソーシャルワーカーには研究目的・方法・期間など主旨を充分説明した上で、調査への協力を依頼する。また、事例提供の際には、利用者が特定できないように加工するなどの配慮を依頼するなど必要に応じて、人権の保護や法令などの遵守への対応を行っていきたい。
 本研究は、主に高齢者領域側からのツール開発担当者である西内章准教授の所属先である高知女子大学社会福祉学部研究倫理審査専門委員会から「エコシステム構想におけるチームアセスメント支援ツールの開発研究」の共同研究者として平成20年7月15日付で承認を得ている。  

4.研 究 結 果

ヒアリング調査は継続中であるが、以下のようなことが認識された。 (1)3者と限定せずに社会福祉専門職との連携で苦慮した事例をと依頼するとソーシャルワーカーとしての共通基盤が問われるような多様な事例が提示された。 (2)チーム・アセスメントの内容は、実質的なチームリーダーと思われる人物の発想や対象者観に大きく影響を受ける。 (3)問題の深刻さに対するチーム・アセスメントへのニーズの希薄さ

*本報告は、2009・2010年度日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(C)(課題番号21530629)の成果報告の一部である。  

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