自由研究発表制度・政策3  奥田 佑子

介護保険費用の増加要因に関する自治体間比較研究
 -利用者の出入りと継続利用者の変化に着目した分析枠組みの提示-

○ 日本福祉大学地域ケア研究推進センター  奥田 佑子 (会員番号5550)
日本福祉大学  平野 隆之 (会員番号814)
日本福祉大学・学地域ケア研究推進センター  斉藤 雅茂 (会員番号5854)
キーワード: 《介護保険》 《2時点間比較》 《費用増加要因》

1.研 究 目 的

本研究の目的は、介護保険給付データの2時点間比較分析について、1)出入りを含めた新たな分析枠組みを提示すること、2)その枠組みを用いて自治体間の比較を行い費用の増加要因を明らかにすることの2点である。
  本センターでは、介護保険給付分析ソフトの開発を行い、自治体による介護保険の分析・評価作業を支援していきた。給付分析ソフトは「個に降りることができるデータ構造」が一つの特徴となっており、2時点間のデータも利用者個人をベースに結合することができる(注1) 。これによって、単純な費用や利用率の変化ではなく、個人の利用の変化を反映させた分析が可能となり、利用中止や新規の利用といったこれまで把握が難しかった給付のダイナミックな変化をとらえることができるようになった。本研究はこうしたデータを活かした分析手法を自治体が計画に活かせる形にモデル化すること、さらに、自治体間の比較を通して自治体の費用変化の特徴を把握することを目的にしている。  

2.研究の視点および方法

データは、兵庫県下31自治体の介護保険給付データ、2007年6月(116,763人分)と2008年11月(129,009人分)を使用している。2時点(1年6ヶ月間)のデータを利用者で結合し、始点のみ利用があるものを「利用中止者」、両時点で利用があるものを「利用継続者」、終点のみの利用があるものを「新規利用者」として分類した。それらの費用増加への影響を自治体間で比較し、介護費用の変化パターンを分析している。 

3.倫理的配慮

介護保険給付データは、個人が特定されないよう処理を行ったうえで提供を受けている。

4.研 究 結 果
1)分析モデルの提示
 2時点の分析モデルとして図を示した。左の三角形が2007年6月(始点)、右の三角形が2008年11月(終点)の利用者を表しおり、底辺が利用人数(n)、高さが1人あたり費用額(h)、面積が費用総額(C)を表している。2時点の三角形をずらして配置することで、「利用中止」「利用継続」「新規利用」という新たな概念を挿入することが可能になり、より実態に近い利用の変化を表現することができるようになった。
 介護費用の純増額〔X〕は、通常、「現在の介護費用総額」と「前回の介護費用総額」の差分として把握される。しかし、利用者の出入りの構造を踏まえると、介護費用の純増額〔X〕は、①利用継続者の純増分(Y=C3-C2)と②新規利用者の純増分(C4)、および、③利用中止者の純減分(C1)に分割できる。これによって、介護費用の純増額が何によってもたらされているのかを把握することができる。
2)自治体間比較による増加要因の分析
 上記の枠組みを用いて、兵庫県下の31自治体の介護費用の変化を把握したところ、次の3パターンがあることが確認された。
 (A) 純増額に占める新規者の増加分が大きく、継続者の増加分が小さい〔6自治体〕
 (B) 純増額に占める継続者の増加分が大きく、新規者の増加分が小さい〔11自治体〕
 (C) 純増額に占める中止者の減少分が大きく、継続者の増加分が特に大きい〔14自治体〕
これまでの介護費用増加要因分析では、利用者数増加への注目が大きく、利用者一人あたり費用額は逆に減少に転じていることから費用増加の影響要因としては着目されてこなかった(注2) 。しかし、今回の結果から、A以外の自治体では、継続利用者の1人あたり費用額増加による費用への影響がより大きいことが確認された。さらに、3パターンごとに、継続利用者と新規利用者の平均要介護度を比較した。その結果、(A)の自治体では新規利用者の平均要介護度が高い傾向にあり、人数だけでなく新規利用者における1人あたり費用の高さも増加要因となっている、(B)の自治体では継続利用者の重度化が進んでいる傾向にある、(C)の自治体では、新規利用者の割合が少なく平均要介護度も軽い傾向があり、新規の利用者の増加による影響は極めて小さい、という実態が明らかとなった。
 以上のように、新規利用者の増加によって費用が増加していると考えられてきた介護保険だが、出入りを踏まえると単純に新規の利用者の数からは判断できず、利用の中止者とのバランス、継続者の悪化という要素が加わり費用の増加につながっている。自治体では認定率だけではなく、病院入院や特養のターミナルケア、継続利用者の悪化を防ぐケアの質向上という視点を反映させた介護保険の推計や効果の検証が必要となる。

 

(i)平野隆之・奥田佑子「認知症高齢者のサービス利用構造と地域ケアの推進課題」ほか、「小特集 介護保険政策の評価研究」を参照。(『社会政策研究8』東信堂,2008.)
(ii)西山知宏・松田晋哉「福岡県における介護給付費増加の要因分析」(厚生の指標,2007年8月)、厚生統計協会『図説統計で分かる介護保険2009』2009等。

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