自由研究発表制度・政策3  田中真衣

新しい公共を創るための民間寄付システム活性化に関する調査研究(2)

○ 上智社会福祉専門学校  田中 真衣 (会員番号6768)
上智大学大学院総合人間科学研究科  栃本 一三郎 (会員番号486)
上智社会福祉専門学校  寺田 誠 (会員番号5199)
キーワード: 《潜在的寄付額》 《新しい公共》 《コミュニティ利益会社》

1.研 究 目 的

 現在我が国では、民主党政権の下、新しい公共への検討・取り組みが始まっている。新しい公共では、当事者意識を持った市民やNPOが積極的に公を担うことが期待されている。しかしながら、そのような市民活動の裏付けとなる経費の取扱や資金調達のあり方は不十分であり、税制上の優遇措置も個人寄付も市民活動を支えるものにはなっていない。そもそも従来のように、税金を市民活動に分配していくやり方では、市民が主役となる新しい公共を財政面で担うことはできない。そこで本調査研究では、新しい公共を創っていくために、市民一人ひとりのお金が直接市民活動に反映する、自然な地域社会の構築を目指し、個人寄付拡充とそのシステム活性化について研究した。
  (2)では、(1)で得た基礎資料をベースとして、潜在的寄付額等の試算をするとともに新しい公共を創るための提言について報告する。  

2.研究の視点および方法

 本調査研究で実施したアンケート調査では、総務省が実施する全国消費実態調査や家計調査の項目を参考にしながら「趣味・教養娯楽」「旅行」等の質問項目を設定し、これらを人生の豊かさやゆとりを感じる多様な生活行動のための支出であると仮定した。そして、「喜捨」としての寄付行為や「浄財」という観点から個人寄付額を推計するのではなく、人生に彩りを与えるお金の一部を仮に人々の善き活動・向社会的活動のための預託として出資あるいは投資しようとするならば、寄付マーケットがどの程度拡大する可能性があるのかという新たな発想で潜在的な個人寄付額の推計を行った。1つは「豊かな生活のための支出」の推計、2つ目は前者に占める「散在額」の推計、そして3つ目が「散在額」に潜在化する「潜在的寄付額」の推計である。加えて、「潜在的寄付額」が寄付マーケットの拡充に結びつく為の新しい寄付制度等に関する提言を行った。 

3.倫理的配慮

 本調査研究の実施にあたっては、日本社会福祉学会「研究倫理指針」の指針内容Cに則り、その規定を遵守した。また、社会福祉法人中央共同募金会及び独立行政法人福祉医療機構の協力のもとに実施した。 

4.研 究 結 果

 「豊かな生活のための支出」の推計額は約31兆5,000億円/年間、このうち「散在額」の推計額は約4兆2,000億円/年間と試算された(「豊かな生活のための支出」に占める「散在額」の割合は約13.3%)。そして、「散在額」から寄付マーケットへの流用ないし転用が期待される「潜在的寄付額」を推計したところ、約2兆4,000億円/年間と試算された(「豊かな生活のための支出」の約7.6%、「散在額」の約57.1%)。福祉医療機構の基金事業(地方分)による約20年間の累計助成総額が約632億円(助成件数はのべ1万972件)であるのに対して、「潜在的寄付額」は約38.0倍、平成20年度の共同募金実績額が約208億円であるのに対して「潜在的寄付額」は115.4倍に相当する。加えて、平成21年度の消費税額(国税)は消費税1%当たりの消費税額は約2兆円であるため、試算した「潜在的寄付額」はこの額に相当することが明らかとなった。
  しかし、現行の仕組みにおいては、この「潜在的寄附額」が実際の寄附行動に繋がらないという状態に陥っている。本アンケート調査で、優遇措置と寄附の促進や善意の資金を導入するための仕組みについて寄付者の関心度を尋ねたところ、寄附額に応じた税制上の優遇措置やそれらの手続きが年末調整等の簡便な方法で行えること、寄附先団体の活動内容が評価され情報公開される仕組み、社会貢献活動団体に投資する仕組み、財源を株式化する仕組みに対して高い関心を持っていることが明らかになった。
 そこで、現在の財政状況や今後の人口構造等を踏まえ、公、市場、ボランタリーセクターの役割はどうあるべきか、税制・社会保障給付の在り方についてどのような展望を持つべきか、ボランタリーセクターを活性化させるために税制はどのように在るべきか、地域福祉を振興するために財源の在り方は寄付税でよいのかといった観点から考察を重ねて次の3つの提言を導いた。
  1つ目は、組織のアカウンタビリティを高めることである。日本に今まで媒介されてきた寄附意識を変え、すべての法人に対して寄付金控除を実行するなどして、流れている寄附の総額を世間に向けて明らかにすることである。2つ目は、出資型非営利法人制度の導入である。英国のコミュニティ利益会社のように、資産の固有化を義務付け、株式の発行や社債の発行も認めるため、寄附をすれば税控除のかわりに株も配当できる新たな法人格の設置である。3つ目は、使途選択納税制度の導入である。米国が導入しているタックス・チェックオフのような、自治体が住民税の一部を特定財源化し、その使い道を納税者が選択できる制度である。これらの新たな仕組みを構築することで、それぞれの地域内で資金を潤滑させることができ、市民が支える新たな公共を支えることができるだろう。
  なお、本調査研究は、平成21年度厚生労働省社会・援護局社会福祉推進費補助金(社会福祉推進事業)による「市民参加型の福祉事業に対する共同募金を中心とした民間寄付システムの開発に関する調査研究(研究代表者:栃本一三郎上智大学大学院総合人間科学研究科教授)」の成果の一部である。  

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