自由研究発表制度・政策3  寺田誠

新しい公共を創るための民間寄付システム活性化に関する調査研究(1)

○ 上智社会福祉専門学校  寺田 誠 (会員番号5199)
上智大学大学院総合人間科学研究科  栃本 一三郎 (会員番号486)
上智社会福祉専門学校  田中 真衣 (会員番号6768)
キーワード: 《資金需要》 《個人寄付》 《新しい公共》

1.研 究 目 的

 現在我が国では、民主党政権の下、新しい公共への検討・取り組みが始まっている。新しい公共では、当事者意識を持った市民やNPOが積極的に公を担うことが期待されている。しかしながら、そのような市民活動の裏付けとなる経費の取扱や資金調達のあり方は不十分であり、税制上の優遇措置も個人寄付も市民活動を支えるものにはなっていない。そもそも従来のように、税金を市民活動に分配していくやり方では、市民が主役となる新しい公共を財政面で担うことはできない。そこで本調査研究では、新しい公共を創っていくために、市民一人ひとりのお金が直接市民活動に反映する、自然な地域社会の構築を目指し、個人寄付拡充とそのシステム活性化について研究した。
 (1)ではまず、基礎資料を得ることを目的として、市民セクターの資金需要と個人寄付の現状を明らかにするために実施した調査研究について報告する。

2.研究の視点および方法

 資金需要に関連して、福祉医療機構(2005)「わが国のソーシャル・マーケットにおける社会貢献マーケットの現状とその整備のための支援策に関する調査研究」等の先行調査があるが、地域特性を踏まえた福祉事業の資金需要の実態は明らかにされていない。そこで、本調査研究では次の2つのデータベースを用いて市民セクターの資金需要を顕在化するための集計分析を行った。1つは、福祉医療機構が実施してきた基金事業(地方分)の分析である。平成21年度までに助成された約10年度分の基金事業(地方分)のデータベースを集計分析の対象とした。もう1つは、共同募金会が実施している助成決定額の分析である。平成20年度実績の共同募金会データベースの中から共同募金会から助成を受けたNPO法人を抽出し、これを集計分析の対象とした。その際、地域特性による資金需要と規模を把握するため、いわゆる三大都市圏(首都圏、近畿圏、中京圏)と地方部(北東北地方、北陸地方、山陰地方)に注目し、それぞれの圏域別に集計分析を行った。  一方、個人寄付に関連した先行調査として、中央共同募金会(2006)「共同募金とボランティア活動に関する調査(第3次)」や経済企画庁(2000)「国民生活選好度調査」等があるが、これらは一般市民を対象とした寄付行動に関する調査である。そこで、本調査研究ではこれまで明らかになっていなかった継続的に一定額以上を寄付する者の実態を把握するために新たにアンケート調査を実施して集計分析を行った。
 なお、本アンケート調査は、共同募金に対する一定額以上の寄付者5,000人に調査へ協力意向を確認するための同意書を送付後、協力意向を示した方及び返答のなかった3,655人を調査対象者とし、郵送によるアンケート調査を平成22年3月に実施した。有効回答数は914件、有効回答率は25.0%である。  

3.倫理的配慮

 本調査研究の実施にあたっては、日本社会福祉学会「研究倫理指針」の指針内容Cに則り、その規定を遵守した。また、社会福祉法人中央共同募金会及び独立行政法人福祉医療機構の協力のもとに実施した。 

4.研 究 結 果

 まず、地域特性別にNPO法人の資金需要を集計分析したところ、首都圏では約64億1,000万円と都市圏の中でも資金需要が突出していた。近畿圏では約17億1,000万円、中京圏では約10億2,000万円の資金需要が試算された。都道府県別では、東京都の資金需要が約42億7,000万円であり、首都圏合計の約66.1%を占めている。都市圏のうち東京都以外で資金需要が高いのは、神奈川県の約9億8,000万円、埼玉県の約9億6,000万円、大阪府の約9億3,000万円であった。一方、地方部では北東北地方が約3億1,000万円、北陸地方と山陰地方はともに約1億3,000万円であった。地方部でも資金需要を抱えているものの、都市圏では地方部を大きく上回る資金需要があることが見てとれた。中でも首都圏の資金需要は突出しており、同じ都市圏といえども近畿圏の約3.8倍、中京圏の約6.3倍の資金需要を抱えていることが明らかとなった。
 次に、アンケート調査結果をもとに継続的に一定額以上を寄付する者の実態について集計分析したところ、次の特性が明らかとなった(男性55.0%、女性44.7%)。寄付行動は高年代を中心に行われている傾向が見られ70歳以上が半数を超えた。職業別には「年金生活者」が55.8%で最も回答が多く全体の半数以上を占めた(次いで「専業主婦」が10.6%)。年収額別には「200万円~400万円未満」が回答全体の3分の1を占めた。にもかかわらず、昨年1年間の寄付総額は「10,000円~15,000円」の15.8%が最多であった(次いで「5万円~10万円未満」が14.1%)。加えて、税制上の優遇措置やそれらの手続きが年末調整等の簡便な方法で行えること、寄付先団体の活動内容が評価され情報公開される仕組み等への関心が高く、個人寄付拡充に結びつける為の社会的な仕組みを構築する必要性が明らかとなった。
 なお、本調査研究は、平成21年度厚生労働省社会・援護局社会福祉推進費補助金(社会福祉推進事業)による「市民参加型の福祉事業に対する共同募金を中心とした民間寄付システムの開発に関する調査研究(研究代表者:栃本一三郎上智大学大学院総合人間科学研究科教授)」の成果の一部である。  

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