自由研究発表制度・政策3  林 宏二

A県における「平成の市町村合併」と介護保険制度の動向

○ 日本福祉大学大学院  林 宏二 (会員番号4330)
キーワード: 《市町村合併》 《サービスの広域化》 《サービス基盤整備》

1.研 究 目 的

 本研究の目的は、「平成の市町村合併」、「三位一体の改革」、改正介護保険法といった大きな変革のなかで、介護保険制度の運営主体を位置づけられている市町村が、高齢者福祉サービスの基盤整備にどのように取り組んできたのかを多面的に明らかにすることである。これらの分析をとおして、それぞれの地域にあった高齢者介護・福祉サービス提供のあり方を探求したい。 

2.研究の視点および方法

1)研究の視点
 介護保険制度が施行された時の高齢者介護・福祉サービスの基盤整備の状況は、都市部よりも中山間地域の方が相対的に進んでいた。介護保険制度の法定サービスの充実はもちろんのこと、農村部・中山間地域ではいわゆる「上乗せ・横出し」サービスといった市町村独自のサービスも積極的に展開していた。
 しかし、介護保険制度が施行されてからのこの10年間、「三位一体の改革」、「平成の市町村合併」、改正介護保険法と、市町村の取り巻く環境は大きく変わっている。
 現物サービス提供のあり方として、社会福祉行政に関する先行研究を見ると、地方自治体である市町村が供給すべきだという見解が一般的になっている。したがって、それぞれの地域にあった高齢者介護・福祉サービス提供のあり方を構築するにあたり、サービス提供に対して市町村の裁量性をどこまで高められるかが重要になると思われる。小泉政権が進めてきたいわゆる「三位一体改革」では補助金の改革が先行し、税源移譲にはあまり手をつけられなかった。それにより地方分権が進まず、市町村の裁量性も高まるどころか、逆に低下しているのではないかと思われる。また、市町村合併、広域連合設立によりサービス供給の管轄が拡大した市町村も多く見られている。このように市町村を取り巻く環境が大きく変わっている中で、介護保険制度の運営主体である市町村がどのように高齢者福祉サービスの基盤整備に取り組んでいるのかが、本研究の目的である。 
2)研究方法
 本研究はA県における介護保険制度の動向を対象とする。
 最初に、2000年現在の市町村を2009年度までの間に、①合併せず単独を維持している市町村、②広域連合等を構成した市町村、③市町村合併した市町村と、3つに類型化する。そして、人口、高齢化率、農業センサスの地域類型等を用い、その類型化された市町村の地域特性を明らかにする。
 次に3つの類型毎の第1号被保険者の状況及び要介護高齢者の状況、高齢者介護・福祉サービスの基盤整備の状況、改正介護保険法の取り組み状況を分析する。具体的な作業として、「A県介護保険事業年報」を用いて、類型毎の所得段階区分ごとの高齢者人口、要介護認定者数の状況、保険料の状況等の分析を行う。高齢者介護・福祉サービスの基盤整備の状況と改正介護保険法については、「平成21年版A県社会福祉施設名簿」、ワムネット等を用いて、類型毎の介護保険施設3種の動向、居宅サービスの動向、地域包括支援センター、地域密着型サービスの動向等の分析を行う。

3.倫理的配慮
 自説と他説とを峻別し、他説を述べる場合には、原著者名・文献・出版社・出版年・引用箇所をはっきりと明示する。本研究はある地域を対象としているが、その地域が特定できないように、固有名詞を匿名化して、資料等を分析する。

4.研 究 結 果
 2008年度までのA県における「平成の市町村合併」の概況を整理すると、2003年度に1件(3市町村)、2004年度に4件(10市町村)、2005年度に14件(44市町村)、市町村合併があり、市町村数の減少率は30%であった。全国の市町村の減少率は45%となっており、全国に比べると、A県はそれほど市町村合併が進んでいないが、介護保険制度が施行されてからも広域連合が設立されており、A県においても「サービス広域化」は進んでいると言える。
 単独、広域連合、市町村合併に類型化した1市町村あたりの人口(2000年現在)を見ると、単独を維持している市町村が1,0391人と人口規模が最も小さく、最も人口が大きいのは市町村合併した市町村で、27,413人であった。高齢化率(2000年現在)は、単独を維持している市町村が23.4%と最も高く、最も低いのは市町村合併した市町村の20.8%であった。
 合併の形態として、比較的人口規模の大きい都市的な地域の市が周辺の規模の小さいいくつかの中山間地域の市町村と合併する形態が一般的と言える。
 次に類型化された保険者ごとの保険料の動向を見ると、第1期で最も低いのは単独を維持している保険者の2,271円で、最も高いのは広域連合の保険者の2,303円であった。第1期から第4期までの保険料の変遷を見ると、この間保険料が最も上がったのは市町村合併した保険者であった。
 次に介護保険施設3種の整備状況を見ていく。介護老人福祉施設の施設数は、市町村合併した市町村が最も多いが、定員を相対的に見ると、単独を維持している市町村が最も多いという結果になっている。介護老人保健施設においても施設数が最も多いのは市町村合併した市町村であるが、定員を相対的にみると広域連合が最も多いという結果になった。介護療養型医療施設については、施設数が最も多いのは市町村合併した市町村で、定員が相対的に最も多いのも市町村合併した市町村となった。
 旧市町村別に介護保険施設の整備状況を見ると、施設3種類とも整備されている市町村(急市町村)の割合は、単独では10.6%、市町村合併では24.6%という割合になっている。全く施設のない市町村(旧市町村)の割合は、単独は23.4%、市町村合併では30.6%となっている。この結果を見る限り、市町村合併した市町村においても、それなりに介護保険制度の施設整備が進んでいるが、特定の地域に偏った施設整備になっていると考えられる。
 次に改正介護保険の状況に見ていく。200810月現在の地域包括支援センターの設置状況は、1市町村当りで見ると、最も多く設置されているのは市町村合併の3.00か所であり、最も少なかったのは単独の1.02か所であった。しかし、市町村合併の設置状況を旧市町村単位で見ていくと、0.98か所となり、地域包括支援センターが設置されていない旧市町村が存在している。介護保険施設同様、地域包括支援センターにおいても特定の地域に偏った設置状況になっていると考えられる。

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